7.二人の関係。 やっぱこれって――。
今日も同じだった。教室に入るとシーンとした冷たい空気がながらてくる。みんなが黙っている。
昨日と同じだ。悠也はまだ来ていない。ありさは同じようにこっちこっちと手を振っている。
ゆっくりと入り、私が席につき座ると突然教室が騒がしくなった。
――なにこれ。
ありさは席をたち私のところへ行こうとした。
「ありさー。こっちおいでよ」
ぐいっと友化がありさの腕を掴み引っ張った。
「え、友花?」
ありさはびっくりした表情で友花を見つめた。
「ん? どうしたのありさ、うちらで話そうよ。私達、親友でしょ?」
さっきと表情を変えず、ニコリと笑い、友花がありさの腕をもっと強く引っ張った。ありさと目が合ったがありさの方から目を離した。
やっぱり変な感じ。
もしかして私――。
ガラッとドアを開ける音がした。悠也だ。
「悠也、おはよー」
真っ先に悠也の友達のひかるが走り出した。
「悠也くん、昨日のカラオケ楽しかったね!」
この明るく高い声は友花だ。最近はなんか目立っている感じがする。そしていつも悠也の隣にいるのも友花だ。友花の友達もきっと気づいているはず。
「相澤さん、おはよ」
席に座っている私を彼が見下ろす。
「お、おはよっ」
私は悠也と目が合った時、友花のことを思い出し、自分からさっと目を離した。
友花たちに嫌われたくない。
「相澤さん?」
悠也は聞いてくる。
あっちに行って!
近づかないで!
話しかけないで!
私はぎゅっと目をつぶった。
それでも彼は私のゆうことを聞いてくれなかった。悠也は離れず、そっと席についた。そしてガタッと椅子を私の椅子の近くに寄せた。
「もしかして、友花のこと?」
え。
ゆっくりと悠也に顔を向ける。
友花? 友花って呼び捨てで言った?
「なんで、そのこと知っているの?」
私は聞いた。
もしかして気づいていたの?
悠也が応えようとしたその時。
「悠也ー!」
友花の明るい声が教室に響き渡った。
友花は悠也を引っ張り、私から離した。
「なんだよ友花、急に引っ張るなよ!」
悠也は冗談ぽく言う。
「ごめーん!」
パンッと手を合わせながら言った。
この会話、まるで恋人同士が話しているみたい。
なぜかモヤッとした。
悠也がこの学校に来てから友花がずっとこの調子だ。前はもっと優しかったのに。
ぐっと唇を噛んだ。
昼休み、私は友花と悠也を避けるように学校の屋上へ駆け込んだ。そして屋上にあるベンチにそっと座った。
暑くもなく、寒くもない風が私の体を包みこんでいる感じがした。
昼だから太陽が真上にある。そのせいで日が当たる。前は日焼けするのを恐れていたため日陰に隠れていた。けど、今は何も感じない。
ただ空を見つめていた。
その瞬間、ひやっと冷たいものが私の頬に伝わった。
はっとし、横を見た。
「悠也!?」
そう。そこにいたのは悠也だった。
「はい、リンゴジュース。相澤さん好きでしょ? りんごジュース」
冷たかったのはきっとこのりんごジュースを私の頬にあてたからだろう。
「なんで好きって知っているの?」
「なんでって教えてくれたじゃん? 中学生のとき公園で。急に相澤さんが喉が乾いた時」
え、そんなこと……。
「まだわかんないの? 俺、悠也で最初の文字の『ゆ』と『う』で……」
私はあることを思い出した。
今までの記憶が急速に遡っていく。そして忘れかけていたひとつの記憶が、突然頭によみがえる。
「ゆうくん?」
かつてはもう会えないと思って箱に閉じ込めていた名前。中学生の時、仲良くしていた友達だ。だが急に転校が決まった。会えないとは思っていたけど、本当は会いたかった。
「そうだよ」
悠也は優しい口調で言い、微笑んだ。
うそ。
突然のことに頭が反応しない。
悠也が私の髪の毛をそっと耳の奥においた。鼓動の音が大きくなる。
「本当に、ゆうくん?」
「うん」
悠也がコクッと頷く。
「会えないと思ってた……」
私は手で口を塞ぎ、目からは涙がポロポロと出てきた。
やばい。嬉しすぎる。
「俺、すごい嬉しい」
そう悠也は言い、私はそっと笑いあった。そして過去の話を話し合った。とても楽しい時間だった。
掃除の時間。各自の掃除場所へ行った。悠也は図書室で私は友花と同じ教室だ。
「なにこの机ー。まじ重すぎー、何入ってんの?」
友花が私の机を持ちながら言った。
なにこれ、やっぱこれっていじめなの?