3.何が、起きたの?
「こっちは音楽室で向かいは美術室」
指を指しながら説明をするありさに悠也は「へー」と言いながらありさのあとをついていく。私はよく道に迷うことが多くあり、常にクラスメイトの後ろを歩いている。だから私もしっかり覚えておかないと。
「あ、もうすぐ時間だ」
ありさは腕時計を見ながら言った。
「戻ろっか」
ありさはそう言うと教室へ向かった。悠也もその後をついていく。私は二人の背中を見つめながら歩いていった。
「相澤さん。靴紐、ほどけているよ?」
悠也が私に話しかけた。
思わず下を見ると靴紐がほどけていた。
あ、本当だ。ほどけている。
「二人共、先に行ってていいよ」
私はそう言い、廊下の端に寄りかかり、靴紐を結び直した。
「じゃあ、先に行ってるね」
ありさはそう言い、教室へ向かう。悠也もありさについて行った。
二人が教室に入ったとき、教室が賑やかになるのを感じた。
早くいかなくちゃ。
今まではどうでもいい。って思っていたのに、なぜか足が勝手に動く。私は急いで教室へ向かった。
ガラス越しから見える教室はみんな元気で楽しそう。
私は扉を開け、中に入ろうとした、その瞬間。
シーンと教室が静まり返った。
戸惑う二人を見上げる。――何? 何が起きたの?
心臓の音が大きくなった。教室に入ってくるな。そういう雰囲気を感じる。一歩後ろに下がる。
「玲奈。入ってきていいよ」
ありさはこっちこっちと手を動かす。
そしてゆっくりと教室に入った。
だが入った瞬間、みんなが「もう授業が始まる」「本当だ。もう時間だ」と言ってその場を離れ席につく。ただ一人、その場に取り残された。そんな感じがした。
やだ。泣いちゃう。
「ほら、相澤さんも席につこう。時間だから」
「え」
悠也は私の腕を引っ張り席まで連れて行く。正直言って恥ずかしい。
だが、私が通るたびみんなが私を避けている。すごく胸騒ぎがした。
「大丈夫だよ」
隣の悠也は私の手を握りしめた。
そのとたん、私の顔が熱くなった。
「え、あ、うん。ありがと、悠也さん……」
良かった。悠也がいてくれて。
だんだんと私は悠也の優しさに包まれていった。
授業の後は、ありさがいつも私の席に来てくれる。だが今はこない。ありさを探すとありさの親友、友花と何か話していた。普通に話しているのではなく、何かをヒソヒソと話していた。
なぜか嫌な予感がした。
「悠也、今日カラオケ行かね?」
男子が悠也に話しかけた。悠也はすぐにクラスに溶け込んで、友達はもうできたらしい。
「え、この近くにあるの?」
興味津々に悠也が聞き返す。
そういやあ、あったな家の近くにある大きなカラオケ。最後に行ったのっていつだっけ?
「ねぇねぇ、私たちもカラオケに行ってもいい?」
友花が言った。後ろには友花といつも一緒にいる友達がいる。
「ありさも一緒に行こうよ」
「いいよ〜」
ありさはさらっと答えた。
男女でカラオケか。きっと楽しいだろうな。
「相澤さんも行く? カラオケ」
悠也が突然私に話しかけてきた。
――えっ。
私は突然黙り込んだ。もし誰かに誘われたら「ごめん。時間ない」そうやっていつもは断るのに何故かうまく言えなかった。
「えー。相澤の声聞きてー」
「分かるー」
男子たちが言う。
ちょっとそうやって言われるの嬉しいかも。
チラッと女子の方を見た。
友花を中心に女子たちがギロッと私向かって睨んできた。
ビクッと体が震えると同時に心臓の音がうるさくなる。男子たちは気づいていなさそうだ。
「ご、ごめん。今日、予定があるんだ」
私は言うと同時に一歩後ろに下がりその場を離れた。少しでもこの場を離れたい。そう思ったからだ。
帰り道、一人で帰る道は長く遠い。そんなふうに思う。
悠也はどこに住んでいるんだろう。
「はぁー」とため息をつく。見上げる空は白く霞んでいるように見えた。