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1.どうしようもない私。

勇気もない。自信もない。

 でも変わってみたいって思っていたんだ。その時君と出会った。

 

 お願い。

 

 こんな私に勇気、そして自信をください。

 そうしたらいつか本当の自分を見つけられるはず。


「ねぇ、私。君たちに会えて本当に良かった」





(一)

 揺さぶる木の葉。

 高い笑い声。

 その中でぽつんと立っている私。誰も振り向いてくれないなか、私は生きている。


 高校一年生、新学期が始まりクラス替えがある。友達のいない私はどちらのクラスでもいい。それよりそんなクラス替えそもそもいらない。風に吹かれながら窓の側にいる私は思った。


「ありさー。同じクラスじゃん!」

「えっ、ありさちゃんと同じなの! 嬉しすぎ!」

 女子たちがありさに向かってはしゃぎながら言った。

 

 ありさ。

 川崎ありさは黒髪ロングのクラスの人気者。クラスの中で一番に目立っていて、男子からもモテてる。

 ほんと私とは正反対だ。


「はぁー」

 私はため息をついた。こんな自分、どうしようもない。

 私はそっと窓に手をついた。外は暑く太陽の光で輝いていた。


「はい。時間だ。もう席について!」

 藤井先生の大きな声ではっとし、急いで席についた。

 やばい。ぼーとしてた。


「今日は転入生がきます」

 突然の先生の言ったことに教室がざわめき出した。


「えー。男子かな?」

「女子がいいな〜」


「ねぇ、それより、かわいい猫が来てほしいっ!」

 手を合わせ目を輝かせて言うありさにみんなが大笑い。クラスが一瞬のうちで静かだったのが明るくなった。みんなが「おかしいだろ!」とか「ありさおもろー」って言う。そんなかではじっこの席で座っている私は笑えない。っていうかそもそも笑いたいって思えない。


「と、とにかく転入生を紹介しますね」

 先生は話をもとに戻した。だが笑い声は続いている。

「もう入ってもいいすか?」


 ドアの向こう側からドアをノックしながら誰かが言う声が聞こえた。その瞬間みんなは黙り込んだ。

 聞こえたのは男子の声だった。


「あっ、どうぞ。入ってきてください」

 みんながごくっと息をのむ。

 ドアが開き、転入生が入ってきた。


「こちらは転入生の五十嵐悠也さんです」

「よろしく。って、先生が話しているのにずっと笑っているなんて、楽しそうなクラスだな!」

 五十嵐悠也は笑った。それにつれてみんなも笑う。

 女子たちにモテそうな顔立ちだ。

 きゃっ、きゃっと女子たちが話している声が聞こえた。

 ――五十嵐悠也。

 どっかで聞いたことがあるような…。そんな感じがした。


「俺、中学の時、少しこの辺りに住んでいたけど、知っているやついる?」

「……っているわけないか」

 悠也は髪をくしゃっとかきまわした。

 その瞬間、悠也と目が合った。悠也は私を見ながら目を丸くした。私は「え」と思いながらゆっくりと目をそらした。


「じゃあ、悠也さんはあちらの席で」

「はい」

 悠也はあるきながらこっちに近づいてきた。

 嘘でしょ……。


「よろしくね。相澤玲奈さん」

 悠也はまっすぐ私の目を見ながら言った。

「えっ、あ、うん……」

 急に自分の名前を言われて戸惑った。

 私は急いでまた目をそらした。


 ――なんで、私の名前を知っているの?


「俺のこと覚えてない?」

 急に話しかけれられ、隣の席を見る。

 この人なんて知らない。

 正直、気安く話しかけないでほしい。


 私は、「あんたのことなんか知らない」と言いたかったけどうまく口が動かず黙ってしまった。


 そんな私にそっと悠也は笑いかけた。

「ではこのあと自由時間なのでゆっくりしててください」

 先生が言うとクラスのみんなが「はい!」と嬉しそうに返事をした。


 気がつけば一瞬のうちで私の隣の席の悠也が見えないくらいの人でいっぱいになった。私は急いで席を立ち、その場を離れた。


「五十嵐さんよろしくね!」

「どっからきたんだ?」

 悠也は遠慮せずにたんたんとみんなの質問に答えていく。あっという間にクラスに溶け込んだみたいだ。

 クラスがこれほど騒がしくなるのは初めてだ。


「ありさー。話さなくてもいいの?」

 悠也と話していた高橋友花が言った。

 ありさは自分の席に座っている。珍しいな。


「ん? ありさ?」

 悠也は友花に聞いた。

「ありさはあの子。とても活発でクラスをいつも、盛り上げてくれるの。あ、ちなみに私はありさと親友の友花だよ!」

 ポニーテールで優しい女子、高橋友花はありさの親友でクラスの中で二番目に目立っている。


「へー。よろしく。友花さん」

 悠也はそう言って友花に向かって微笑んだ。

 友花は嬉しそうに微笑んだ。


 この調子じゃ席に戻れなさそう……。

 私はそっと窓に手をおいた。

 その様子を悠也が見ていた。

 授業が始まる時間になるとみんなは急いで席に戻った。それに続いて私も席へ向かう。


「相澤さんは話に参加しないの?」

 座ると同時に悠也が私にこそっと話しかけてきた。

「別に」

 そっけなく私は答えた。


 この人と話す必要はない。逆に私なんかと話していると変に思われちゃうよ。

 私は座る向きを変え、そっぽを向いた。

 私と話していると「変に思われる」これは間違っていない。


 私は悠也と関わる必要はない。

 ほんと、どうしようもない私だ。

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