卒業試験と修学旅行
―なんで、そうなるの?
アカデミーの学寮の個室で、俺は一人で悶絶していた。
そりゃまぁ、修学旅行の一週間前まで卒業試験を受けていない俺が悪いのだが。。。
13歳から始まるアカデミー生活の6年間で、最終年次の6年生だけは勝手が異なる。
1年生から5年生までは授業を中心とした座学を受けるのがメイン。
6年生は実際に現場で働くセプテムの師匠 と共に行動し、生活する。
卒業試験の内容は各々のマスターが決定し、合否もマスターが決定する。
マスターの選択自体は生徒たちが自由に決められる。
つまり、俺たちがなりたいセプテム像に合わせたマスターを選べるわけだ。
セプテムの花形ともいえる「国同士の交渉の仲介」から、魔導具の開発に至るまで、さまざまなセプテムがいる。
故に、卒業試験の内容もおのずとそのマスターの特性に合わせたものになってくる。
俺の場合はというと、紛争の調停に関わるマスターに師事している。
だから、試験の内容も紛争の調停。
でだ、ここから問題だ。
紛争の調停が卒業試験ということは、どこかで紛争が起きなきゃいけない。
ところがどっこい、国際紛争なんてものはそう簡単に起こっちゃ困る。
そうならないように、交渉役のセプテムが活動してんだから。
だから、俺の卒業試験なんてものは、そう滅多にできるもんじゃない。
え?じゃあカリキュラムに問題があるだろうって?
それがさ、マスター選びの時に先生と生徒の多方面から反対されたのを、むりに押し切っちゃった経緯があるのよ。
―だから言ったでしょ。
甲高い学級委員長の声が、俺の頭の中でリフレインされる。
これには深いワケがある。
ちょっとした身の上話だが、俺には親がいない。
代わりにアカデミーに入るまで育ててくれた「親代わり」がいた。
その人はセプテムであり、紛争の調停者だった。
結局、任務の途中で亡くなってしまったのだけれど、その人の弟子が俺のマスターだ。
そういった縁もあって、アカデミー入学以来、マスターが俺の面倒を見てくれていた。
だから、俺は今のマスターに師事している。
いや、安易っちゃ安易か。
くだんの委員長なんかは、いつもそう言ってくる。
で、話を戻そう。
現状の問題点の確認
→卒業直前の修学旅行に卒業試験を受けていないヤツが行こうとしている。
現時点での解決策
→つい先ほど卒業試験の日程が決まった。
新たなる問題点の出現
→卒業試験と修学旅行が丸かぶり。
これは非常にマズイ。いや、どう考えても卒業試験優先に決まっているんだが、とてもマズイ。
―ピロロロロロロロロ
俺が個室の隅で悶絶していると、机の上に放置された通信端末が無情に着信を告げる。
相手は確認せずともわかっていた。
イヤイヤながらも応答すると。。。
「クローフィル!!」
甲高い声といっしょに、声の主の等身大のホログラムが端末から投影された。
ビビ・ノルテ、我らが学級委員長である。
「「「「だから、言ったでしょ、アンタは!」」」」
個室にビビの声が響く。
俺はすかさず受話音量を限界まで下げた。
ビビはとても真面目な性格の学級委員長だ。
細かいところまで、気配りが行き届いている。
そう、修学旅行の班行動の計画さえ、綿密に。
ゆえに、予定外は許されない。
ましてや、メンバーの一人が修学旅行に欠席するなどということは、彼女のルールブックでは許されない。
「んなこと、言ったってよぉ。こればっかしは、どうにもなんねぇって」
「アンタの事情なんてどうでもいいのよ。この際、卒業試験はキャンセルしなさい!」
おいおいおいおい、ちょっとマテ。
修学旅行に行くために卒業試験キャンセルして、卒業見送りってか?
ジョーダンキツいって。
ケン・クローフィル (18)
セプテム・アカデミーの最上級生(6年生)
幼少期にとある山の中でセプテム・マスターのフーロン・オルガネラによって保護された。
以後、フーロンによって育てられ13歳でセプテム・アカデミーに入学する。
クローフィルのマスターはマルク・グアニル。
グアニルは、フーロンの弟子であり、フーロン亡き後の「セプテム紛争調停チーム」のリーダー格。