第6章:実際に、東大を訪れてみて(3)
・・・そのうちに、試験用紙が配られ、ふと僕の右隣の席に目をやると、
例の「オタク男」が、あたりまえのように鎮座していて、
鋭い眼光をぼくに向けてきた。
(・・・キミには負けないよ。ここまで、猛勉強を積んできたんだからね、ぼくは。ところでキミは、どのくらい勉強してきたんだい?)
そう言いたげな、どこかほくそえむような笑みさえ浮かべている。
ぼくは、すっかりヤツの自信たっぷりな態度とたたずまいに、ビビってしまっていた。
・・・それに加えて、ぼくには、残念ながら、この日のために、この国家試験の合格に見合うだけの勉強を積んだ記憶が、ほぼほぼなかったので、
最初からカブトを脱いでいたのである。
事前に、書店の「国家Ⅰ種」の模擬試験の問題集などで、その難易度は、嫌というほど理解していたからだ。
実際、いざ、試験が始まると、
ものの1分もしないうちに、ぼくはすでに「敗北」を認めていた。
(いやー・・・冗談じゃねぇわ、コレ。模擬試験の問題集の比じゃねぇ。合格以前のハナシじゃねぇのか、コレってよ・・・。)
一次試験の合格発表は、もちろん見に行かなかった。
行かなくたって、そんな結果なんぞ、ぼく本人がいちばんわかっていたからだ。
「不合格」。
例の、イヤミなオタッキー野郎が、その後、この試験に受かったかどうかまでは・・・
ぼくの知る限りではない。