第106章:総括(25):神経痛との闘い(その8)
・・・ぼくは、電車で語学書を読むのが好きだ。
いまはあまりそうしていないが、
少し前までは、
堂々と、
「見せびらかすように」、語学本を、和書・洋書問わず、電車の中で広げてみせては、
声は出さぬものの・・・くちびるだけ動かして、
ぶつぶつと「音読」していた。
外国語・・・
それも、「マイナー言語」の威力はすさまじい。
本の背表紙やタイトルを見せるだけで、どんな人間も黙らせることができる。
・・・ただし、感心しているのではない。
「絶句」しているのである。
「チベット語にアイスランド語・・・いったい、何者なの、この人!?」
って感じでね。
ぼくのすぐ右どなりに座った若い女の子・・・
おしとやかな「お嬢様タイプ」の彼女なんかは、
ぼくが見せびらかしていた「アイスランド語の洋書」を、チラチラと、それとなく髪をいじりながら覗き見しては、
興味ぶかげに、ぼくの横顔も見てくれていたな。
(すごい・・・いったい何語なの、これって?? 初めて見る文字もあるし・・・英語じゃないのはわかるんだけど・・・。)
東京の山手線に揺られていたぼくが、
目の前に座った、西洋人の男性と仲良く、流暢な英語で話す日本人女性の若きレディの前で、
「通訳になるための本」というような雑誌を広げて見せたときには・・・
カノジョ、
急に、恥ずかしそうにうつむいて、会話を中断してしまっていたな。
(よりによって、「通訳のタマゴさん」の前で、あたしったら、得意げに英会話なんか披露しちゃって、もう・・・。)
って感じだったのだろうか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
・・・話を戻そう。
ぼくは、最悪の激痛のさなかにも、
こんな調子で、東京の本屋に電車で出かけては、
語学書や受験参考書を求めて、
現地をぶらぶらとうろついては、
途中途中にある、食べもの屋さんやソバ屋・ラーメン屋をハシゴして、
ゆっくりと休日を満喫していたものだ。
・・・東京駅周辺には、
あの「八重洲ブックセンター」をはじめとする、
魅力的で大型の書店がいくつもある。
健康体のときのぼくは・・・
タクシーやバスを使わず、
かならず「徒歩」で、書店におもむき、
カネの許す限り、
書籍を「爆買い」して帰ったものである♪
でも・・・
あの日だけは、つらかった。
激痛の中、
お目当ての本が置いてある書店まで、たどりつく体力がなくて、
失意のうちに、矢板市に戻らざるをえなかった、
「あの日」だけは・・・。