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施設の裏手には古い小屋やガラクタが転がっており、森に面していてあらゆる方向から死角になっている。
そのガラクタの一つ、錆びてひびの入った古いタッチパネル。これは、他のがガラクタ同様に転がっているように見えて、実際は施設の壁に固定されている。これを操作するのだ。
操作方法は体が覚えている。前回も同じことをしようとしたのだから。そして、前回は解毒剤を手に入れ、たのだろうか。覚えていない。それ以上の記憶がぷっつりと存在しないのだ。しかしこの隠し場所を暴いたことは確かである。前回と同じようにすれば良いのだ。
無機質な電子音と共に、手順が進んでいく。操作を完了すると、武骨なパネルは白煙を上げながら開き、中から数本のアンプルが姿を現した。
これが、今俺に必要な物のはずだ。記憶通りにいった安堵か、未知なるモノへの恐怖か、震える指を携えアンプルに手を伸ばす。
瞬間、施設全体にアラームが鳴り響いた。
慌ててアンプルだけでも回収しようとするが、固定されていて取り外せない。逃げようにも、外は不可視の網で囲われていて逃げられない。計画は中断せざるを得ない。こうなってしまったら一度施設内に戻る他ない。
自分でも不思議なほどに冷静に、かつ迅速に踵を返し、元来た道を辿り始めた。一つ一つルーティーンをこなすように、丁寧に、正確に自分の軌跡を辿る。
「失敗すれば全てを失う」という緊張感、そしてそれと矛盾する「無事に戻れる」という確信、それらを平行に感じる。しかしそれが俺に異常なまでの冷静さを与えたからか、安全に壁を越え施設内に戻ることを許されたようだった。