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この壁を越えると、目の前には牧場、右手には荒れた畑がある。前回は確か、牧場を迂回し、畑の向かいへ向かったのだ。そしてその先には施設裏から続く暗い森と、大きな川があったはずだ。
それ以上は覚えていないが、ひとまずそこを辿る必要があるだろう。記憶に従って畑の脇をすり抜け、小道に走り出る。
そこで、畑で作業していたと思しき老人がこちらに声をかけた。
・・・おかしい。明らかに不自然な風貌の俺が、不自然な建物から不自然な方法で出て来たはずなのに、その老人はさも当然のように世間話を始めようとしている。だいたいこんな場所に建てられた不自然な建物に疑問を抱かないはずがない。
いやちがう。そもそも、だ。自分のものではないかのような記憶であったからここまで気が付かなかった。なぜ前回、俺は壁を越えることに成功したのにも関わらず、その後のことを警戒していたのだろうか。
よく考えたら壁を超えた後のことなんて、どうでもいいはずだ。適当に遠くへ走ればいいのだ。この施設からの脱走が目的なのだから。
そうか。おかしいのは、この施設だけではない。