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それでも俺は壁の外へ出た。
外の世界に帰りたいわけではない。ただ、この施設に居てはいけない、そう本能が語り掛けてくるのだ。こうして常に状況を整理しなければ、自分というものが無くなってしまいそうな不安が漠然と存在する。
精神の奥底に眠る恐怖が呼び起こされるのだ。理由は分からないのに、ここに居てはいけないという真理だけがそこに在る。ここは自分の本質さえ揺らいでしまうような危険な場所であると。
だが、それだけの理由でこの無謀な脱走を決行したというわけではない。確証はないが、勝算はある。俺は以前、この壁を越えて脱走に成功したことがあったのだ。
それ自体の記憶はないが、脱走したことがあるという事実だけははっきりと覚えている。いや、知っている。
何のために脱走したのかも、なぜ再びここにいるのかも分からない。連れ戻されたのか、それとも何らかの理由で断念し自ら戻ったのか。
しかし確かなのは、一度このルートで安全に壁を越えることができたということだ。今はそれだけで十分だ。
正直に言えば、この壁を越えることはそう難しいことではない。監視の目も、人数をただ持て余しているだけのようで、行き届いているわけではない。というよりも、白服たちは我々に無頓着なのだ。