1
ここはどこかの研究所、そして我々は被検体である。
しかしこの施設の様子は明らかに普通ではない。何らかの研究をしている場所であることは確かだが、研究設備のようなものにお目にかかったことはついぞ今までなかった。
建物はいくつかに分かれているようだが総じて民家ほどの高さで、例えるなら小学校、いやむしろ幼稚園のような場所なのだ。そしてその建物の間にある中庭のような場所で我々は普段過ごしている。
しかしそれだけだ。何の研究をしているのか、我々が何の被検体なのかも知らされていない。非検体といっても、今まで何かの研究に協力した覚えはない。何もさせられていない。せいぜい、こうして中庭で日向ぼっこをしているだけの毎日である。
我々が被検体であるというのも、それらしい格好をしているからそう仮称しているに過ぎない。おおかた、世間に公表できないような研究でもしているのだろう。そうであった方がむしろ納得するし、そうでなければおかしい。そういった風貌なのだ。
そしてなによりも、ここの警備設備は監獄のそれに酷似している。素人目にも分かる。これは外部からの侵入者を防いでいるものではなく、明らかに内部からの脱走者を防ぐための設備だ。
四六時中、怪しげな白い制服に身を包んだ施設の人間がそこらじゅうをうろつき、施設周辺には要塞よろしく厚く高い壁がある。研究所としてはどう考えても異常だ。当然、今まであの壁を越えて脱走に成功した被検体はいなかった。
しかし今、俺はその壁の外へ出た。