襲撃と協力 前編
「父上、私ですら知らない通路を襲撃者が通る可能性は低いのではないですか?」
考えすぎではと首を傾げるリアンハイドに、ゼルトウェードは困った顔で答えた。
「リアンハイドの言う通り、あの通路を使うとは限らぬ。通路の存在を知っているかも不明だ。しかし、嫌な予感が……」
突然、リアンハイドが勢いよく立ち上がり、カッと目を開いてゼルトウェードを睨んだ。何事かとセラヴェルリーネが怯えている。
「隠し通路どうこうよりもそれを先におっしゃってください! 父上の嫌な予感はいつも想像以上に悪い方向で当たるのですよ!?」
リアンハイドに同意するようにジェスパーが青い顔で頷く。どうやらゼルトウェードの嫌な予感はただの予感で済ませられる問題ではないらしい。なんとも不吉だ。ミラルリーナが「はぁ」と溜息を吐いて椅子の肘掛けに頬杖を突いた。
「襲撃者がこちらへ来るのは時間の問題でしょうね。わたくし達、今日が命日かしら」
「母上、冗談を言っている場合ではありません! やり残したことが多すぎます。逃げましょう」
リアンハイドが笑い事じゃないと必死になっているのに対してミラルリーナは薄く笑みを浮かべて冷静だ。肩にかかった鮮やかな金髪を後ろに払い「リアンハイド」と笑みを深める。お父様がベリオレッツィに見せた黒い笑みとそっくりだ。
「あまり騒ぐとセラヴェルリーネやミリアディーナが怖がるでしょう。上に立つ者が狼狽えてはいけません。わたくしはそう教えたはずです。冗談が言えるくらいの余裕があった方が良いのですよ」
自分に向いたものでは無いと分かっていても有無を言わせぬミラルリーナの威厳に身が引き締まる。
「……申し訳ございません。以後気を付けます」
「ふふ。早く避難してしまいましょう。襲撃者共をどう捕まえて差し上げるのか考えなくてはなりませんからね」
ゼルトウェードに目配せをしてエスコートを要求し、ミラルリーナが颯爽と歩き出す。背筋の伸びた美しい姿勢や崩れない微笑みはわたしが見習うべき完璧な姿だ。謁見の間に入る前のミラルリーナは幻だったのではと思うくらいに、王妃として相応しい立ち振る舞いをしていた。
……ミラルリーナ叔母様かっこいい。暴走した姿を先に見なければ尊敬してたよ。
わたしが見とれているうちにゼルトウェードとミラルリーナが近付いてくる。わたしがど真ん中に突っ立ていては邪魔だ。避けようとすると、ミラルリーナが立ち止まった。
「ミリアディーナも一緒に行動しましょう。今から向かう場所は城の中でも極めて安全なのよ。よろしいですわね? ゼルトウェード様」
「あぁ、構わぬ。ただミリアディーナ嬢はあの部屋に入れぬのではないか?」
「ふふ。ミリアディーナならやってみせますわ」
「……そうか。彼女なら入れるな」
何故ゼルトウェードが納得したのかはサッパリ分からないが、慣れない場所で一人で取り残されることはないようで安心だ。わたしはミラルリーナの後ろを歩くリアンハイドの隣に入らせてもらった。後ろにはセラヴェルリーネとその侍女もついてきている。
もうすぐ選別の扉だという所で、しきりに後ろを警戒していたリアンハイドが首を後ろに向けたまま足を止め、「あっ」と声を上げた。
「どうされましたか?」
後ろを振り返ると、リアンハイドが声を上げた理由が目に入った。隠し通路の入り口である幕がユラユラと動いている。本当にゼルトウェードの嫌な予感は当たるようだ。
「どうやらお出ましのようですね」
「……そうだな。来てしまったようだ」
「陛下と皆様をお守りするのだ!」
ジェスパーが腰のポーチから笛を取り出してピーと吹くと、選別の扉から騎士達が入ってきた。一斉にわたし達の周りを囲み、ダンッと音を立てて盾を構える。騎士は総勢八人だ。選別の扉に弾かれるのを防ぐためか、誰一人として武器は持っていない。
謁見の間にいる護衛対象は四人の王族と客人のわたし、戦闘要員にはなれないジェスパーとセラヴェルリーネの侍女だ。ミラルリーナの侍女ディクドリードはわたしのヴェールを外したあと、謁見の間の外に下がったようで見当たらなかった。
……あれ、よく考えたら護衛めちゃくちゃ手薄じゃない?
「リアンハイド王子、確認なのですが騎士団長も苦戦していらしたのですよね」
「ああ、ジェスパーの話ではそうだね。騎士団長は現役の騎士団員の中で飛び抜けて強いはずなんだけどな」
「あら、そうなのですか? でしたら益々この人数で守りが足りるとは思えないのですけれど」
「普段から訓練を重ねている騎士十人に負傷を負わせた奴らだ。正直、不安だな」
不穏な話をしつつ、幕に目を凝らす。騎士の一人が「来たぞ!」と叫んだと同時、幕がパッと舞い上がって中から長剣を持った数人が飛び出した。共通して口元は黒い布で覆われ、簡易的な銀色の鎧を着けている。そして、ダイヤの形をした特徴的な赤い耳飾りが鈍く光っていた。
彼らをジッと見ていたリアンハイドが頬をピクリと動かして「四人しかいないぞ」と呟いた。
「ジェスパーさん、襲撃者は五人いるはずですよね?」
「ええ、そのはずです。報告よりも人数が多い事は有り得ても、少ない事は有り得ないかと存じます。……もしや、杖を持った者がおらぬのではございませんか?」
わたしは目を細めて彼らの手元を注視する。確かに彼らが持っているのは剣で、杖ではないようだ。すなわち、一番重要なポジションにいるはずの杖を持った人物がいないことになる。背中にゾワッと寒気が走った。なんだかわたしも嫌な予感がする。
「……もう既に潜んでいるのではありませんか?」
「潜んでいる、だと?」
「ほ、ほら、透明人間とかそういうやつです」
ゼルトウェードは怪訝そうな目をわたしに向けて、眉間に皺を寄せた。
「透明の人間がいると、其方は言うのか」
「いないとは言い切れませんよ、陛下。例えばこういう所にいたりして……。えいっ」
周りがポカーンとしたのを背中で感じた。わたしは何も無い空間を蹴るという奇行に及んだのだ。どうして蹴ったのかは自分でも理解出来ない。苦笑いでもしておこうかと思ったその時、パキッと音がして目の前の空間が歪んだ。
「痛ってぇ! おい、テメェ何しやがる!」
「え?」
声がした。目の前から。
目を凝らして見てみると歪んだように見えた場所には油膜のようなものがうようよと浮かんでいた。砂のようにサラッとその油膜が消えだし、人型を表していく。
……嘘でしょ!?
初めは何もなかったはずの空間に白いローブを被った男が現れ、あろうことか杖を持っている。他の男達と違って鎧も付けていなければ顔に黒い布も付けていないが、この男が回復役の魔法を使う者なのだろう。
わたしはこの世界の魔法の仕組みを知らない。しかし、回復魔法が使えるのならば他の魔法が使えてもおかしくはないのではないだろうか。わたしはそっと後退りをして身構えた。
「なっ、くそ。透明化が切れたか」
「真に透明人間とやらが居るとは……」
チッ、と舌打ちをした男が杖を振り上げる。杖の先についた魔石が水色に光り、そこから瞬く間に大量の水が噴き出した。その水はまるで意思があるかのように、守られているわたし達を避けて騎士だけを飲み込んでいく。ガタンガタンと盾が床に落ち、逆らう術もなく倒れ込んでいく騎士達を見て男は笑った。
「これで邪魔はいなくなったな。けっ、面倒なことをさせやがる」
わたしは驚きで声も出なかった。先程噴き出したはずの水は既に消え去り、濡れた形跡もない。
……これが……魔法……?
実感が湧かない。憧れを抱いていた魔法を目にしたというのに、男が持つ杖の先がわたしに向いているせいで全く感動出来そうにない。
……なんでわたしなの!? やだよ! 死にたくないよ!
後ろからは四人も迫って来ているのに、騎士達は打ち上げられた魚のように小刻みに動いているだけで今すぐに戦えそうな者はいない。
「ミリアディーナ、私の後ろに」
わたしはもう怖くて不敬だの作法だのは全く考えずにリアンハイドの背中へ隠れた。それと同時に横から「きゃあっ!」と悲鳴が上がり、「マリーシエ!」と叫ぶセラヴェルリーネの悲痛な声が響いた。
「何をするのですか。離しなさい!」
「なんだごらぁ! 黙ってろ!」
「ひっ……」
マリーシエと呼ばれたセラヴェルリーネの侍女の首に剣の刃先が触れた。途端に彼女の首にすうっと赤い線が入る。下手をしたらとてつもない光景を見てしまいそうで、わたしの頬は自然と引き攣った。
「動くなよ。首が落ちるのを見たくなければ俺らに従え」
ミラルリーナがゼルトウェードを見てコクリと頷くと、ゼルトウェードは厳しい顔をして「望みを申せ」と杖を持つ男を睨んだ。男は勝ち気な笑みを浮かべて杖を下ろし、マリーシエに触れている刃先を離すように指示を出した。
「俺らの望みはリューナの花だ。それを寄越せばそこの女は解放してやる」
「花? リューナの花とはなんだ」
「大国の王が知らないフリか? 情けねぇな」
「余はそのようなものを知らぬ」
ゼルトウェードと杖を持った男とでお互いに一点張りの言い合いが続いた。男が「出せ」というのに対してゼルトウェードは「知らぬ」と返す。酷く困ったようなゼルトウェードの表情を見る限り、嘘をついているようには思えない。本当に知らないのだと思う。残念ながら襲撃者達には隠そうとしているようにしか見えなかったようだが。
「話さない気か。じゃあそのガキも追加だ。捕まえろ」
「セラヴェルリーネ!」
セラヴェルリーネが体格の良い男にガシッと左手首を掴まれて勢いよく引っ張られた。男に手加減と言うものは存在せず、セラヴェルリーネの細くて白い腕に痣が出来てしまいそうだ。
「いや! やめて、離して!」
セラヴェルリーネが恐怖を顔に貼り付けてジタバタともがき、こちらへ手を伸ばした。わたしの心臓がドクリと鳴る。
……助けなくちゃ。
足が勝手に動いていた。セラヴェルリーネに近付こうと前に踏み出していた。けれど、後ろからわたしの肩をグッと押さえた手がわたしの動きを止めた。その少し重い手はセラヴェルリーネの手を取ることを許してはくれない。リアンハイドの宥めるような声が耳元で囁かれる。
「ダメだ。不用意に動けばセラヴェルリーネもあの侍女も危ない。……今は耐えよう」
わたしはハッと気づいて足を元の位置に戻した。冷静に考えれば、どうあがこうとわたしが彼らにかなうとは思えない。セラヴェルリーネの絶望したような顔が目に入る。心臓がバクバクと早くなり、額から冷や汗が流れた。
……でも、早く、早く助けなきゃ。
「可愛い王女様は高く売れそうだな。ほら早く吐けって国王さんよぉ」
「無礼者め、王女殿下を離せ!」
ジェスパーが青筋を立てて男達を怒鳴りつける。杖持ちの男は動じること無く、老人一人で何になると鼻で笑い、杖の先を水色に光らせた。先程と同じだ。わたしは反射的に目を瞑った。薄目を開けると、ジェスパーが水に飲まれ「ぐあっ」と苦しそうな声を上げて床に沈んでいくのが見えた。わたしは思わずヒュッと息を呑む。
「余が知らぬと申しているのが聞こえぬのか。もう手を出すのを止めろ!」
「シラを切らなきゃいい話だ。さっさと言ってそこの女も王女さんも楽にしてあげろよ。聞かないようなら次はそこのガキだな。王女二人となりゃあ、王様も吐くだろう?」
男がわたしを指さして「ふっ」と鼻を鳴らした。
「えっ、わたくし?」
「俺の透明化を見破ってくれたんだ。存分に可愛がってやるよ」
男が舌なめずりをしてわたしを見下ろす。その視線にまた背中がゾワッとして、この場から今すぐに逃げ出したい衝動に駆られた。この男は全くもって可愛がってくれそうには見えないし、危険人物に可愛がられるなんて絶対にお断りだ。なんとしてでもこの場を切り抜けなくてはならない。
……お父様、都合良く部屋の前を通りかかったりしないかな。でも、通ってくれなければわたしはあの男に……いやぁあああ!!
こちらから助けを求めに行く方が確実だ。まず、どうやってこの謁見の間を抜け出すか、考えねばならないだろう。
わたしは脳の端から端まで、前世から今世までの全ての知識を引っ張り出した。確実にこの部屋を出ることができ、安全性も高い方法を導き出すのだ。
……扉の方に敵はいないんだよね。でも、男達の視覚に入るからこっそり抜け出すのは無理。堂々と走って逃げるのも難しいだろうし……。
周りの喧騒は遮断し、黙々と考えに耽ける。襲撃者とゼルトウェードが揉めている声が耳に戻ってきた頃、やっと一つの最適解に辿り着いた。
おもむろに足を前に踏み出すと、周りの視線がわたしに集まったのが分かった。小さく息を吸って作戦開始だ。
「あのぉ、わたくし、お手水に行きたいですぅ」
「は? 便所?」
「ミリアディーナ、この状況で?」
何言ってんだこいつ、という雰囲気が漂った。わたし大好きなミラルリーナでさえも頬に手を当てて、「あら……」と呟いている。とりあえず皆の反応は見なかったことにするが、そう、わたしが出した最適解とは、ずばり「お花摘み作戦」だ!
「誰が許すかよ。阿呆か?」
「丁度いい間ってもんがあんだろうが」
周りの呆れた視線が心にグサグサと刺さった。なんだか泣きたい。けれど、ここで挫ける訳にはいかない。わたしは胸の前で手をグッと握って男達を一人ずつ睨みつけ、大きな声で返してやった。
「わたくしがここで漏らすのを見たいのですね! この、幼女趣味!!」
一瞬、部屋に静寂が広がった。時が止まったのかと思うくらいに周りの動きがピタリと止まる。次第に目をぱちぱちと瞬かせ、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になっていくのは実に見物だ。わたしは追い討ちをかけるように言葉を続ける。
「わたくしの哀れな姿を見たいならどうぞ放置なさって。けれど、わたくしは王女です。幼女趣味の変態共にあられもない姿を見られて死んだと歴史書に載りますのよ。貴方達の名前と共に後世に刻まれるのですわ。あぁ、おいたわしいこと」
わたしのスピーチ力を最大限に引き出した全力の弁論は狙い通り男達の心に響いた。男達はわたしのことを王女だと思っているようなので、これくらい言ったほうが効果があるだろう。目がキョロキョロと動き、仲間同士で顔を見合せている。
「お、俺らは変態じゃねぇ」
「そ、そうだそうだ。幼女趣味扱いするな」
「では、行ってもよろしくて?」
「あ、あぁ」
……大成功だよ。やったね!
正直な所、本当に成功するとは思わなかった。代償としてとてもとても大事な何かを失った気がするのだが、気のせいだと信じたい。
……そういえば、城内を把握してないから案内役が誰かいないと分からないのよね。
出来ればリアンハイドを連れて行きたい。城内はもちろん詳しいだろうし、お父様を探すにはもってこいの人材だとわたしの勘が言っている。
「皆様、お兄様も一緒に行ってもよろしいですか? わたくし一人では辿り着けませんから、お兄様に連れて行って欲しいのです」
「え? 私は……」
下手なことを言われるとまずいので、わたしは咄嗟にリアンハイドの袖をグイッと引っ張った。リアンハイドはハッとしたように口を噤み、ニコッと笑顔を浮かべる。察してくれたようだ。
「あぁ、そうだね。私が連れて行くよ」
男達に生暖かい目を向けてやると即座に許可してくれた。「変態扱いされるよりはマシ」という呟きが聞こえてきたのでわたしは満足だ。苦しゅうない。
「セラヴェルリーネも行きたいようなのですけれど、もちろんよろしいですわね。さぁ、彼女を離してちょうだい」
男の力が緩んだ所で、少し戸惑っているセラヴェルリーネの手を強引に引っ張り、わたしは扉の方へとずんずん進む。
「皆様のご慈悲は忘れませんわ。では失礼致します。ほら、お兄様、セラヴェルリーネ、行きますわよ!」
「あぁ、早く行こう」
「……は、はひっ」
謁見の間からは見えない位置まで早足で駆けて来た。設定が設定なので違和感はなかったと思う。
行く時は侍女や従者がそれなりに行き交っていた廊下は、今は静まり返って誰もいない。襲撃を聞き付けて避難したのだろうか。それなら王族を助けに来る人がいてもおかしくないだろうに、騎士以外は誰一人として来なかったのは少し違和感がある。
わたしが首を捻っていると「二人とも、こっちだ」とリアンハイドが部屋の扉を開いた。
「従者用の部屋だ。ここに一度身を隠そう」
彼は扉を閉めて鍵をかけると、「はぁ」と深く溜息を吐いて床にへたりこんでしまった。
「リアンハイド王子!? ……あっ、大きな声を出してはいけませんね」
わたしは慌てて自分の口を塞いだ。声で気付かれたらせっかくの作戦が台無しだ。
「ここの部屋は防音の効果があるから心配いらないよ。さすがに思い切り叫んだら外に聞こえるけどね」
「それなら良かったです」
わたしの安堵の溜息と共に、リアンハイドがまた深い溜息を吐いた。
「本当に、ミリアディーナの行動力には驚いた。私だけでなく捕まっていたセラヴェルリーネまで助け出すとはね。最初はミリアディーナの頭がおかしくなったのかと思ったよ」
「……恥ずかしいので忘れてください」
今更、羞恥心が襲ってきた。成功したから良いものの、もっとマシな作戦を立てられなかったのだろうか。穴があったら入りたいとはこういうことなのだろう。顔を覆ってもまだ足りない。
「あの……ミリアディーナ様」
空気に溶けてしまいそうなか細い声が耳に入る。声の方を見ると、わたしにガッチリと手を掴まれたセラヴェルリーネがおどおどと視線を泳がせていた。すっかり忘れていたが、わたしはセラヴェルリーネの手を握りっぱなしだった。
「うあっ! セラヴェルリーネ王女、ご無礼を致しました。あの、おこがましいのは分かっておりますがどうかお許しを……」
「いえ、あの、大丈夫……です。ミリアディーナ様……助けてくれて、ありがとう。わたくし、怖くて、怖くて……。でも、お養父様も、お養母様も、マリーシエも、みんなまだ……」
途切れ途切れの言葉を紡ぐセラヴェルリーネの瞳から涙が床にポタリと落ちた。またポタリ、ポタリと落ちていく。水色の瞳は不安そうに揺らぎ、瞼は赤く腫れている。わたしは慌ててポケットからハンカチを取り出してセラヴェルリーネに差し出した。
「セラヴェルリーネ王女、涙を拭いて下さい。必ず助かるとは言えません。けれど、きっと大丈夫です。わたくし達は出来る事をしましょう。待つだけでは解決しませんからね」
「ミリアディーナ様……あり、がとう……」
目元をハンカチで押さえながら小さく微笑むセラヴェルリーネを見たら、なんだか胸の辺りががじんわりと暖かくなった。グサグサに刺された心なんぞ過去の事だと力が湧いてくる。わたし達の様子を静かに見ていたリアンハイドがぬっと出てきてにっこりと笑った。
「セラヴェルリーネはミリアディーナと仲良くやっていけそうだね。安心した」
「ま、まぁ、それは後々話し合いましょう。ね? 今は緊急事態ですし」
……危ない危ない。忘れてたよ、影武者候補。




