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番外編 クロードの日常-後編-

「ちょっとマリアさん、そこどいてくれませんか?」

「どうしてかしら?私が先に座っていたのよ?」


 お昼時、食堂のいつもの席で、ルイーゼ、マリア、ラナ、そしてアレンとクロードはランチタイムを楽しんでいた。


 少し遅れてやって来たアレンが、ルイーゼの隣に座るマリアに目を怒らせて食ってかかっている。


「そもそも僕だけクラスが違うんです。不公平だとは思いませんか?」

「あら、全く思いませんわね。アナタが何と言おうともルイーゼ様のお隣は譲りません!!」

「ちょっと!?どさくさに紛れて姉さんと腕を組むとは何事ですか!?離れてください!!」

「ちょ、ちょっとアナタ達いい加減に…」


 アレンとマリアがルイーゼの隣を取り合うのはいつものことだが、何故かアレンはマリア同様にルイーゼの隣を陣取るラナには余り言及しない。どこかアレンに似た危うさを持つマリアに対抗意識を燃やしているようだ。


(同族嫌悪ってやつか?)


 毎日のことなのでラナやクロードは気にせず箸を進める。間に挟まれるルイーゼには悪いが付き合っていられない。料理は温かいうちにいただきたい。


 結局ルイーゼに諌められ、ブツブツ言いながらもマリアの隣にアレンが腰掛けた。

 ふふんと勝ち誇った顔をするマリアであるが、アレンを隣にどこか頬が赤らんでいる。


(ん?…もしかしてマリア嬢…)


 ピーンと何かを察知したクロードは、徐にマリアに話しかけた。


「そういえばマリア嬢、ケビン殿はロベルト殿下について隣国へ行ったんですよね?その後連絡は取っているのですか?」

「あ…じ、実は…ケビン様がロベルト殿下について行かれると決めた時に話し合いの場を持ちまして…婚約関係を白紙に戻すことになったのです」

「し、知らなかったわ…」

「えっ!?そうだったの!?」


 気まずげに白状したマリアの発言に、ルイーゼとラナも驚きのあまり目を見開いた。

 アレンだけは興味なさげにモグモグと食事を続けている。


「いいんじゃないですか?あの人は誠実そうには見えませんでしたし。マリアさんにはもっといい人がいますよ」


 そして素気なくそう言ったのだが、マリアはその言葉にどこか嬉しそうにしている。


「え、ええ…ですので、今は婚約者もおらず気楽に過ごしておりますわ」

「でもマリア様なら縁談の話も絶えないのでは?」

「…すべてお断りしています」

「まあどうして…」


 女性陣はマリアの話に興味津々だ。一方のマリアはチラチラとアレンに視線を投げている。


 やはりクロードの思った通りだ。


 モジモジと恥ずかしそうにするマリアに、アレンはカチャンとフォークを置いて口を開いた。


「分かります!婚約者なんかにうつつを抜かす暇があれば姉さんと過ごす時間を大切にしたい…姉さんをじっくり眺めて過ごしたい…そういうことなのでしょう?!ふっふっふ、その意気や良しです。僕も婚約者なんてまっぴらごめんですからね!姉さん以外の女性に構っている暇はないのです!」


 あっはっはと間抜け面で馬鹿なことを言うアレンに、マリアは頬をぷうと膨らませて怒りに震えている。


「もう知りませんわ!!」

「ん?何をプリプリしているんですか?」


 プイッと顔を背けたマリアに、アレンは首を傾げている。


 クロードを含めた残りの3人は、顔を見合わせて苦笑したのだった。

 マリアの恋は前途多難なようだ。



◇◇◇


 学園の授業が終わると、クロードはアレンと共に屋敷へ帰宅した。

 日によってはルイーゼも一緒に帰るのだが、今日はマリアとラナと共に図書室で勉強するとのことで、一緒に行く!と駄々をこねるアレンを引きずって帰って来た。


「ずるい…ずるいよ姉さんと楽しく勉強会だなんて…」

「試験が近いので仕方ないでしょう。アナタもしっかり勉強してくださいよ」

「え?試験勉強なんて不要だよ?きちんと授業を受けていれば十分でしょ?」

「…アナタはそういう人でしたね」


 帰宅して自室に戻ったアレンは机に突っ伏しながらブツブツ文句を垂れている。

 こう見えてアレンは秀才なので、特別試験勉強をしなくても学年トップをサラッと取ってしまう。クロードは、ふぅと息を漏らしつつ、アレンの前に書類の山を置いた。


「では、お仕事をしましょう」

「げぇー…」


 アレンは王家の支援を受けて、ドレス店やレストラン、雑貨屋など様々な店のプロデュースを行なっている。

 新商品の提案書や、企画書、その他諸々請求関係の書類が山ほどアレンの元へ集まってくる。


 アレンは渋々書類を手にし、詳細を確認しつつペンを走らせていく。


「うん、この案はなかなか面白そうだね。進めるように言っておいて。あー…これは費用対効果が低すぎる。練り直しだな」


 面倒そうにしつつもどんどん書類の山を片付けていくアレン。クロードは側に控えつつ、アレンの指示を取りまとめていく。


 アレンの手腕により、夕食前には山積みだった書類は全て片付いてしまった。


(本当この人は優秀だな)


 クロードはとんとんと書類を纏めつつ、笑みを浮かべて気怠そうに机に肘をつくアレンを見つめた。アレンはボーッと窓の外を眺めていたが、あるものを見つけたらしくガタン!と椅子を鳴らして勢いよく立ち上がった。


「姉さんが帰ってきた!!出迎えて一緒に夕飯を食べに行くよ!!ほら、そんな書類なんて全部後回しにして!姉さんとの夕飯が最優先事項さ!!」


 どうやらルイーゼが帰宅したようだ。


 大事な仕事の書類を『そんな書類』扱いして、アレンはクロードが引き止める間も無く自室を飛び出して行ってしまった。


「はぁ…だから屋敷を走るなとあれ程…」


 半ば呆れつつ、クロードはしっかりと書類を纏めてからアレンの後を追った。


 クロードが食堂に着くと、既に2人は席に着いており、楽しそうに会話を弾ませていた。


(ふ、姉弟仲はいいんですよね)


 クロードは給仕を手伝いつつ、2人と共に夕飯を楽しんだ。



◇◇◇


 夜は更け、アレンの就寝を確認したクロードは自室に戻りシャワーを済ませた。アレンの就寝時間はかなり早いのでその点は助かっている。


「ふぅ」


 ようやく訪れた1人の時間。

 自室でお気に入りの椅子に腰掛け、授業の予復習をサクッと済ませて読書に勤しんでいると、コンコンと遠慮がちにドアをノックする音がした。


 栞を挟んで本を閉じると、クロードはドアをそっと開けた。


「遅い時間にごめんなさい」

「ルイーゼ様」


 そこには、申し訳なさそうに眉根を下げるルイーゼの姿があった。湯浴みを済ませ、部屋着姿になったルイーゼは、ほんのり頬が上気しておりいい匂いがした。


「どうしました?」

「えっと、少し話があるのだけれど…入ってもいいかしら?」


 人に聞かれたくない話なのだろう。ルイーゼは廊下の方を気にしながらソワソワと落ち着きがない。

 クロードは、はぁと溜息をつくと、自室を出て後ろ手にドアを閉めた。部屋に入れて欲しいと言ったのに廊下に出てしまったクロードの行動に、ルイーゼは怪訝な顔をしている。


(全くこのお人は、警戒心がなさすぎる)


「…こんな時間に男の部屋を訪ねるのは感心できません。中庭へ行きましょう」

「!そ、そうね。不用心だったわ。ありがとう」


 クロードの気配りを察し、謝るのではなくお礼を言うルイーゼ。彼女のこういうところをクロードは好ましく思っている。小さく微笑みながらルイーゼの前を先導して歩く。


 廊下を抜けた先の中庭に出て、人目につきにくいベンチに着くと、クロードはポケットからハンカチを取り出してルイーゼが座る位置に敷いた。紳士の嗜みである。


「ありがとう。アナタは本当に気配りがよくできるのね。今朝借りたスカーフも綺麗に洗濯して返すわ」


 柔らかく微笑みながら、ルイーゼはハンカチの上にそっと腰を下ろした。クロードも少し間を開けて隣に腰掛ける。


「それで、どうされましたか?」

「え、ええ…その、今度のお休みの日なんだけど…」


 わざわざ夜遅く、()()()()()()()()()()時間を選んでクロードを訪ねて来たのだ、おおよその見当はついていた。


「ふっ、分かりました。アレン様を街にでも連れ出しますよ。それとも、王城の方がいいですか?」

「あ、アナタ…本当に話が早いわね…」


 どうやらクロードの推測は当たっていたらしい。頼む前にその内容を言い当てられたルイーゼは、驚き目を見開いている。


「ええと…街へ行きたいから、王城でお願いしようかしら」

「分かりました。レオナルド王にも協力を仰ぎましょう。俺1人ではアレン様を1日引き止めるのは難しいので」

「ふふっ、ありがとう。でもレオナルド王に協力していただくなんて…いいのかしら」

「いいんですよ。事情を説明すればきっと王自ら協力を申し出てくださいます」

「そ、そうかしら…」


 レオナルド王とアレンの交友関係に未だ戸惑いを隠せないルイーゼであるが、クロードに一任することを決めたのか、最後には「お願いするわね」と微笑んだ。


「部屋まで送りましょう」

「ありがとう」


 要件が済んだと判断し、クロードはルイーゼを彼女の自室まで送った。


「おやすみなさい」

「おやすみなさい……ああ、ルイーゼ様」


 にこやかに手を振りドアを閉めようとしたルイーゼに、ほんのいたずら心が芽生えて引き留めた。ルイーゼは手を止めて首を傾げ、クロードの言葉を待っている。


「今度の休み、アーサー殿下にくれぐれもよろしくお伝えください。今度はスカーフが必要になることがないように」

「っ!!つ、伝えておくわ…」


 ルイーゼは、ボンっと顔を赤く染めて目を潤ませた。そして瞳を揺らしながらかろうじて返事をすると、消え入りそうな声で再び「おやすみなさい」と言うと、静かに自室のドアを閉じた。


 アーサーはどうやら何とか時間を捻出して久しぶりのデートにルイーゼを誘ったようだ。1日2人で過ごせるとなれば、アーサーが暴走しかねないので釘を刺しておく。


「本当、手の焼ける姉弟ですね」


 クロードは肩をすくめながら自室へ戻り、電気を消してベッドに潜り込んだ。明日も朝早くから鍛錬し、寝起きの悪いアレンと格闘しなければならない。


 優秀なのにルイーゼのこととなるとたがが外れるアレン。ルイーゼもしっかり者だがどこか抜けたところがあり危なっかしい。


 クロードはそんなアレンとルイーゼに振り回される生活が、存外嫌いではなかった。

不意に書きたくなり番外編を更新してみました!

クロードの話は完結時から書きたいなあと思ってたので楽しく書けました。


「パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される」も第二部更新中なので、そちらもよろしくお願いします!異世界恋愛ジャンルではないものの甘めになりそうです。笑


では、また!

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