助手 大門怜奈の復讐
「何て事だ…。」
私の横で、探偵の大神悟は悲痛な表情で呟いた。
「ほんとに酷い。」
私も目の前の被害者の死に様に、言葉が詰まる。被害者は仰向けの状態で、左胸から大量の血を流し倒れていた。凶器は見つかっていない。大神は被害者の指先に注目した。
「爪の中に犯人の皮膚片とかは?」
「ありませんでした。」
そう答えたのは、鑑識の石田。被害者の腕にも手にも指先にさえ、犯人と争った形跡はない。
「大神くん。これは君にとって辛く、難解な事件になりそうだな。」
この現場にすぐに駆けつけた刑事の水戸は神妙な表情で大神を見た。
「私の事務所で殺人事件なんて、許せません。」
「大神さん。被害者の体からは睡眠薬が検出されています。バックにも同じ睡眠薬が入っていました。寝込みを襲われたのでしょうか?」
鑑識の石田は持っている資料をめくりながら、大神に問う。
「その可能性は高いな。」
「目的は何でしょうね?」
「物取りだろう。彼女がいつも身に付けていたダイヤの指輪がなくなっている。金目当ての犯行だ。」
そう言われ、私は思わず自分の薬指を確認した。
(外されてる。今日も付けていたのに…。)
「水戸さん、この事件の捜査資料を僕に全て提示してくれませんか?僕の大事な助手が殺されたんだ。犯人は僕の手で捕まえたい!」
大神の強い意思に旧知の仲である、水戸は静かに頷いた。その後私の死体は警察病院に運ばれ、事務所には大神だけが残った。大神は先程までの緊張感に満ちた表情を緩ませて、ソファーに体を横たえた。そしてポケットから、私がはめていたダイヤの指輪を取り出し、まじまじと眺めた。
「大門くん、君は最後の最期まで、優秀な助手だったね。これがなかったら、僕が真っ先に疑われていたよ。」
薄く笑う大神の顔を見ていると、悔しさが込み上げてくる。私はいつの間にか睡眠薬を飲まされ殺された。バックの睡眠薬は彼の仕業だ。私はこんな男の為に私財も何もかもをつぎ込んで、彼に愛されていると勘違いをして、挙げ句に裏切られた。そして、彼からもらったこの指輪が皮肉にも彼の隠れ蓑になってしまった。結婚の約束の印だった、あの指輪が…。怒りは収まりはしない。私の魂は段々と熱を帯びていく。私は怨霊になっていくのだ。しかしそれは返って好都合。私は必ず大神を呪い、悪事を吐かせてやる。このままでは終わらせないから。私の復讐は始まったばかりだ…。
読んで頂き、ありがとうございました。