第37話 失敗賢者は本音を漏らす
書類を確保して外に出ると、フロスランデルから明るく話しかけられた。
『ねぇねぇ、そこな人間。えーっと、ケンタ・ツキーチキン?』
「レント・ワーヴェル。……おまえ、わざとだろ」
『ち、違うよぉ~! 我、偉大なるエルダードラゴンぞ? 氷皇竜ぞ?』
「少しは威厳ってモンを身につけてから偉大を自称してほしい」
『ガ~ン!?』
『フフフフフ、やはりレントはわかっていますね。誰が真に偉大かを』
わざわざその巨体をのけぞらせる白い方の横で、赤い方が得意げに笑う。
「いや、ラズブラスタもだぞ? 好感度は上がったけど尊敬度は下がったからな?」
『ガガ~ン!!?』
白い方と同じように、赤い方もでかいリアクションを見せてのけぞった。
幻想が滅ぶと書いて幻滅。
そう、俺が今味わっている感覚こそ、幻滅。間違いない!
『ううう、だが我は強いドラゴンだからへこたれんぞ! メンコ・パッチンコよ!』
「レント・ワーヴェル」
『レント! そう、レント! 我からの感謝の品だ、受け取るがよいぞ!』
やっと俺の名前を言ったかと思うと、俺の右手に何かの感触が生まれる。
硬い。金属に近い質感だ。指でさすると平べったくて丸いとわかる。
「こいつは……?」
目を落とすと、右手が掴んでいたのは時計だった。
貴族なんかが使う、機械仕掛けの丸い時計。いわゆる懐中時計、というヤツだ。
しかし、こいつは――、
「透き通っていますね」
時計を見たアルカが、そう呟く。
フロスランデルから渡された懐中時計は針を含めた全ての部品が透き通っていた。
光を通すと、内部に目にも鮮やかな七色の光沢が生まれて、何とも美しい。
『それなるは我が保有する宝物の中でも特にお気に入りの逸品でな、名を『氷皇の時計』という。それに魔力を流して竜頭を押すとだな』
「ふむ、押すと?」
カチ、と押してみる。
『お~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~』
「うおお!?」
いきなりフロスランデルの喋り方が変わって、俺は仰天する。
その際に、時計は俺の手から零れ落ちる。すると、途端に全てが元に戻った。
『まえの時間の流れが100倍に加速……、あれ、押したの?』
「押したわ! ものすげぇびっくりしたわ!」
俺は言い返して時計を拾い上げるが、これもまた、とんでもねぇお宝だな。
「……っていうかさ」
『何ぞ?』
「おまえ、氷のドラゴンだったら、逆じゃね? 時を凍てつかせるとかさ……」
『何を言っておるのだ? 時間が凍りつくはずがなかろう?』
そうだけどさ。そうなんだけどさ!
こいつに言われると、何でだか知らんけどムカつくな!
「でも、感謝するわ。すげぇシロモノだ。ありがたくもらっておくよ」
『うむうむ。喜んでもらえて何よりだぞ、っと。そうだ。ほいっと』
フロスランデルが何かを呟く。
すると、俺の『光魔の指輪』の表面に光が灯って、無色の宝石が表れる。
ラズブラスタからもらった、赤い宝石のときと同様だ。
「フロスランデル……、こいつは?」
『ラズっちのマネッ!』
あ、そう。……それだけか。
こいつ、さてはノリだけで生きてるな?
『これで、一通り済みましたね』
それまで黙っていたラズブラスタが、赤い翼を大きく広げた。
「ラズブラスタ。今回は助かったよ。ありがとうな!」
『よいのです。それと、帰りはそこの白いヤツに頼むとよいでしょう』
『え、我!?』
ボ~っとしてたフロスランデルが、いきなり呼ばれてギョッとする。
『我ちょっと、そろそろ巣に帰ろうかなって思ってたんだが?』
『何ということでしょう、卵を救ってもらった恩もあるのに、感謝の品一つで済ませたつもりだなんて! これが伝説のエルダードラゴン、これが……!』
『何だと、やったらァ! 人間を運ぶくらい、この氷皇竜には造作もないことよ!』
本当に造作もないことに全力で取り組もうとするドラゴンに、俺は少し困った。
『それでは、レント、そしてアルカ。おまえ達の道行きに幸多からんことを』
「ああ、またな!」
「またお会いしましょう、ラズブラスタ」
そして、俺とアルカは飛んでいくラズブラスタを見送った。
後日の話になるが、何でも、隣国との国境線沿いで赤い巨大なドラゴンが出現し、たまたまそこに居合わせた隣国のお偉いさん達が、泡食って逃げ出したらしい。
それを聞かされて、俺はラズブラスタがやってくれたんだと直感した。
廃城に向かおうとしていた隣国の連中を、わざわざ追い返してくれたのだろう。
本当に、ラズブラスタには世話になりっぱなしだ、俺。
『ムフフフン! さぁ、我の背に乗るがいい! 人間と、何か人間っぽいヤツ! この氷皇竜フロスランデルが全身全霊をかけて安心安全な旅を約束してやるぞ!』
一方で、無駄に気合を入れている白いエルダードラゴンもいたりする。
別に、そこまで力入れることじゃないと思うが、まぁ、いいか。
空を見上げれば、いつの間にか茜色。
太陽も景色の向こうに落ちかけて、すっかり夕暮れ時になっていた。
「よし」
俺はうなずくと、アルカの方に向き直って手を差し伸べた。
「行こうぜ、アルカ」
「はい、旦那様!」
アルカが笑って、俺の手を取る。
そのとき、俺の心臓がドキリと大きく跳ねた。
暮れなずむオレンジ色の太陽が、アルカを背後から照らしていた。
風が流れてアルカの銀髪が、陽の光に染まって、キラキラと光って見えた。
そこに、見慣れたはずの彼女の笑顔がまぶしく映えて、俺はつい見惚れてしまう。
「……旦那様?」
「あ、いや。……好きだぞ、アルカ」
「え……」
「あ、あー! 何、何言ってんの、俺!?」
このバカな俺は、一体何を口走ってるんですかねぇ!!?
本音、ダダ漏れすぎだろうがよォ!
「……旦那様! アルカも、旦那様のことをお慕い申し上げております!」
「わー! わぁ――――! やめてお願い! 恥ずかしさで、死ぬ!」
わかったから、そんな瞳をキラキラさせないで、アルカさん!
『え、ちょっと~、サカるのはいいけど我の背で交尾するのはやめてよ~?』
「するわけねぇだろうが!」
おまえこそ、やめてよと言いながら明らかに興味津々なその目つきをやめろ!
行きのときのラズブラスタといい、ドラゴンってのはどいつもこいつも!
「……ったくよぉ」
俺が息をつくと、そんな俺の手をアルカがキュッと握り締めてくる。
「帰りましょう、旦那様」
「ああ、そうだな」
そして、俺達はオルダームの街に帰還する。
このあとも王様との謁見やら色々あるんだけど、今は考えないでおこう。
さすがに疲れた。
今日は、気持ちよく寝れそうだ。




