第3話 失敗賢者は迷い込む
・失敗賢者よもやま話3
ギルド職員リィシアは――、
※続きはあとがきで!
気がつくと、夜になっていた。
「…………は?」
俺はまばたきを繰り返し、右を見る。木が見えた。
「…………え?」
さらにまばたきしながら、左を見る。木が見えた。
「……森じゃん」
森だった。
どうしようもなく、ここは森の中だった。
「何でェェェェェェェェェェェェェェ――――ッッ!!?」
でぇぇぇぇー……
でぇぇー……
でぇー……
ぇー……
俺の絶叫が、夜の森にこだましていった。
そしてこだまも薄れ、訪れたのは静寂。暗闇と無音の世界があるばかり。
――どうして俺は、こんな場所に?
静寂の中で、ようやっと俺の意識はそこに至る。
直後に思い出した。そうだ、開かずのアイテムボックスが、何故か開いて、
「そうだ、アイテムボックス!」
俺は、ボックスを掴んでいる右手を見る。しかし、そこには何もなかった。
「……あれ?」
一瞬きょとんとなって、すぐに我に返って俺は絶叫する。
「アイテムボックスどこだァァァァァァァ――――!!?」
のどの奥が擦れた感じがして痛い。
夜の森だ。辺りは暗くて、ロクに見えない。俺は這ってアイテムボックスを探した。
「おぉ~い、アイテムボックスよぉ~い!」
よぉ~い……
ぉ~い……
~い……
~……
こだまはやっぱり虚空に消えて、物静かな森の中、俺はひたすら探し回る。
しかし、アイテムボックスは見つからなかった。
「何でだよ……」
やべぇわ、これ詰んだわ。途方に暮れて、俺は大の字に寝転がった。
疲れて熱を持った体に、冷たい土の感触が心地いい。
その冷たさがいい方向に働いたのか、一つ、思いつくものがあった。
左腕の腕輪だ。俺は身を起こしてそれを見る。
これは、冒険者ギルドから支給される、冒険者であることを証明する魔具だ。
この腕輪には幾つかの便利機能があって――、
「ステータス、オープン」
告げると、左手の甲側にはめ込まれた宝珠が輝き、スクリーンが投影される。
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レント・ワーヴェル(27)
レベル:8
ランク:G
クラス:キャリアー(荷物持ち)
HP 30
MP 10
筋力 7
耐久 7
敏捷 4
知性 5
器用 4
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相変わらずひでぇステだ。
普通は三年も経てばランクはE、レベルは10、平均ステも15は超えるのに。
冒険者生活十年を超える俺のステがこれだ。やっぱ大賢者ってクソだわ。
「……ッ、はぁぁぁぁ~」
俺は盛大にため息をついて、ステータス画面を次に移す。
自分の無能を嘆いても仕方がない。今は、居場所を確認するのが先。
ステータス画面は全3ページで構成されている。
1ページめは自分のステータス。2ページめは保有スキルが記載されている。
そして、最後の3ページめ。
そのページは、受注した依頼が記載されるページである。
また同時に、時刻と居場所が表示されている。はずなのだが――、
「何だ、こりゃ……」
そこに見える表示に、俺は軽くうめいてしまった。
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◆現在進行中の依頼
――現在進行中の依頼はありません。
・現在時刻:■■:■■
・現在地点:■■■■■■■■■■■■■■
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表示機能が働いていない。そんなバカな。
二つの表示機能は、冒険者ギルドが魔法技術の粋を駆使したと豪語するものだ。
大陸のどこにいても、必ず現在地点と時刻を表示する。
ギルドがそう太鼓判を押すこの機能が狂うなんて話、俺はついぞ聞いたことがない。
そこで、あり得ない可能性が頭に浮かぶ。
まさかここは――、そもそも大陸のどこかではない?
「もしかして……」
俺は立ち上がって、空を見上げた。
そこには月も星もない。なのに、辺りが分かる程度に空が明るい。
「この不自然さ。……ここはアイテムボックスの中、なのか」
アイテムボックスに吸い込まれた記憶を思い出して、俺はそう結論づけた。
「あー……」
だが、それがわかったからって何だってんだ?
入れたからって、出られるとは限らない。出口などどこを向いても見当たらない。
つまるところ、俺は依然として途方に暮れるしかないのだった。
と、そこで腹が鳴る。そういえば、今日は何も腹に入れていないことを思い出す。
「……えーと」
俺は、とある方へ歩いて行く。そこには、背の低い木が生えていた。
その木の枝には、リンゴっぽい果実がなっている。
さっき星を探そうとしたとき、たまたま目に入ったのだ。
「よいしょっと」
俺は、果実を一つもぎとって、意識を込めてそれを睨む。
「『可食鑑定』」
手にしたものが食べられるかどうか、それを判別できる俺の唯一のスキルである。
ま、普通の『鑑定』スキルに比べたら、完全な劣化版だけどな。
ふむ、毒性はなし。
食べても問題なさそうだ。
俺は、果実にかじりつきながら、今後のことを考えた。
とにかく、前に進むしかないだろう。どこかに、出口があるかもしれない。
こんなところで野垂れ死になんて、絶対に認めてやるもんか。
思いながら、俺は果実をかじりつつ、歩き始めた。
――それにしても甘くて美味いな、これ。
・失敗賢者よもやま話3
――オフのときは眼鏡をかけている!
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