第26話 失敗賢者は呼び出しを受ける
・失敗賢者よもやま話26
黒系統の魔法は――、
※続きはあとがきで!
「レントさん、私、これからがんばります!」
宿に戻ってそれを俺に言うルミナの瞳は、元の輝きを取り戻していた。
ルミナに大賢者の本性を教えるという劇薬は、見事に効果を発揮してくれたようだ。
あとは、ワーレン達に任せればいい。今のルミナの仲間はあいつらだ。
俺はそう判断して、ルミナを三人のところに連れて行った。
「ルミナ!」
ワーレン達は、ルミナを温かく迎えた。
急な復活に驚いてもいたが、まずはルミナの元気そうな姿に全員が安堵した。
なお、ルミナもエルシオンでだいぶレベルが上がっていた。
しかしそのレベルは、117。
俺の予想よりも随分と低い。こいつは一体、どういうことだ?
「ルミナさんが低いのではなく、旦那様が特別高いのではないでしょうか」
と、アルカが自分の推論を語り始める。
「旦那様の肉体は大賢者の生まれ変わりであることに間違いはないので、他の方と比べて潜在能力がひときわ高いのではないか、と……」
「伸びしろの差、か。食べる人間によって効果量も変わってくると」
なるほど、納得できる仮説だと思う。
ルミナは急激に上がった自分のレベルに目ん玉飛び出んばかりに驚いていた。
「え、何ですかこのレベル!? 私、別に何もしてないのに!」
「実はな、エルシオンにある果物、全部神果なんだわ」
「ええええええええええええええええええええええええええええ!!?」
仰天するルミナに、俺はエルシオンのことを口外しないよう頼んだ。
「当たり前でしょ! こんなの公にしたら大変なことになりますよ!」
何故か叱られてしまった。
まぁ、ごもっともな話なので俺はうなずくしかなかった。
さて、ルミナの一件も何とか片付き、さらに数日が過ぎた。
この日、俺とアルカは呼び出しを受けて冒険者ギルドを訪れていた。
「おお、来たぜ! レントさんだ!」
「あれが新しいSクラスか。って、失敗賢者じゃねぇか!?」
「あの人、ドラゴン百体狩って、スゲェ巨人も一人で倒しちまったんだぜ!」
ギルドの建物に入ると、これまでにない出迎え? みたいなのを受けた。
そこにいる冒険者全員が、俺とアルカに注目していて、視線の痛いこと痛いこと。
「あ、レントさん。お疲れ様です!」
これまで塩対応が当たり前だった職員まで、普通に挨拶してきやがる。
それは気持ちよくもあるけど、同時に気持ち悪くもあるな、って。
「レントさん、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
だが、最も俺を何とも言えない気持ちにさせてくれたのが、リィシアだ。
俺を見るなり、彼女は恭しく頭を下げて、丁寧に対応してくる。
こいつについては俺ではなく、ピエトロからの薫陶が効いたんだろうがなぁ……。
「ギルド長がお待ちになられております。ご案内させていただきます」
ここまで態度を変えられると、俺もどうすればわかんねぇや。
ひとまず「あ、はい」と生返事をしてリィシアのあとについていった。
通されたのはそれなりに広い個室。
内装はさほど豪華ではないが、人に使い古された馴染みやすい空気があった。
大きなテーブルがあり、椅子が幾つか。あとは棚が置かれている。
「待ってたよ~」
部屋で、ピエトロが相変わらずのゆるい調子で俺達を迎えてくれた。
俺とアルカは、軽く会釈して椅子に座る。
「さて、早速だけど例の件についてだよ~」
例の件。
ラズブラスタの卵に関する件、か。
「まずは報告から。黒幕の名前がわかりました~」
「……早くねっすか?」
ガルトを引き渡してから、まだ一週間も経っちゃいないんだが。
「そこはそれ、色々やったからね~」
「ガルトはどうなったんで?」
「フフフ~、生きてはいるよ。生きては、ね~」
その、ピエトロの答えだけで十分だった。
今のガルトは人の形をしているかも怪しいが、別にどうでもいいや。
「で、ギルド長、卵盗難の黒幕ってのは?」
俺が尋ねると、ギルド長は軽い調子で答えた。
「王都のゼルバール侯爵」
ぶっは。
「こ、侯爵って、上級貴族じゃねぇかッ!?」
「そうだよ~。並みいる貴族の中でも五本の指に入る、正真正銘の大貴族様さ~」
貴族関連の事情に疎い俺でも名前くらいは知っている。
そんなレベルの有名人だ。
「彼、今年で八十超えるクセにまだまだ陰謀企むくらい元気なんだね~」
「元気で済ませていい話じゃねぇでしょ……」
「フフ~ン、エルフからすれば八十とかはね、若造も若造なんだよ~」
ものすげぇ意味のないマウント取られた。
「ちなみに拙者、元々ゼルバール侯には目をつけてたんだよね~」
「そりゃまた、何で?」
卵の盗難なんて御法度を犯す以前に、何かやらかしてるのか、そのじいさん。
「実はね~、去年辺りから神果を買い漁ってるらしくてね」
「神果、を……?」
神果は、エルダードラゴンの卵ほどではないが、かなり入手しにくいシロモノだ。
それを買い漁っている、というのは確かに目立つ行動ではあるだろう。
「もちろん、それだけなら金に飽かした貴族の道楽。気にすることじゃないね」
「じゃあ、何か他にあるんすね。そのじいさんに注目した理由」
「うん。どうもゼルバール侯、闇依頼も使ってらしくてね~」
「そいつは……」
俺は目を細める。
闇依頼とは、暗殺者やギルド未登録の盗賊などの裏稼業連中に対する依頼の総称だ。
「とにかく、神果への執着が尋常じゃないんだよ」
「寿命でも延ばしたいんですかね?」
「それだったら、もっと早くから動き出してそうに思うけどね~」
ギルド長の言う通りだ。
寿命を気にしての行動なら、八十過ぎからってのは遅すぎるような気もする。
「去年から急に、みたいでね。ちょっと探ってたところに、例の卵の盗難事件さ」
「さらに加えて四日前の『巨神魔像』騒ぎ、か……」
いよいよキナ臭さが増してくる。
特に、黒魔法が使われているという点がヤバい。
「まぁ、世界中探せば今でも黒魔法使いはいるかもしれないけどね~」
「そうですね。侯爵ともなれば、子飼いの黒魔法使いくらいいるかもしれねぇ、が……」
「モノが『巨神魔像』となると、話が違ってくるよね~」
そう、そこなのだ。
黒魔法は、長らく禁忌として扱われている魔法系統だ。
禁忌とされる理由は、異常な殺傷力や術者への反動などにある。
だが何より、魔族によってもたらされた魔法系統であるという点が大きい。
「あの魔法はね~、大魔王と直属の配下くらいしか使えなかったはずだよ~」
大魔王の種族である魔族は、人間よりも強靭な肉体と莫大な魔力を持つ。
その中でも一握りしか使えなかった黒魔法を、生物として劣る人間が使えるだろうか。
こいつはつまり、そういう話なワケだ。
「まずは『巨神魔像』の術者が誰なのか、それを探るところからっすね」
魔族はエルフ並に寿命が長いとも聞く。
或いは、大魔王の配下の生き残りがゼルバール侯爵と繋がっている可能性もある。
黒魔法の使い手か。さて、どうやって探し出そうか。
そう、思案しかけていたところに――、
「あの黒魔法を行使した術者でしたら、すでに特定できております」
アルカが、そんなことを言いだした。
「……アルカ?」
「私の中に保存されている魔力波形記録の中に、魔像の出現時に感知された魔力波形と合致するものがありました。98.57%の確率で両者は同一人物です」
何かアルカがわからんことを言っているが、それが事実ならお手柄だ。
「アルカ、そいつは何者だ?」
俺が尋ねると、アルカは「はい」とうなずき、教えてくれる。
「あの『巨神魔像』を操っていた術者は、大魔王です」
・失敗賢者よもやま話26
――使用するだけで問答無用で牢獄行き!
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