表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/46

第10.5話 『金色』の主は高をくくる(ゴルデン視点)

・失敗賢者よもやま話10.5

 『金色の冒険譚』の本拠地は――、


※続きはあとがきで!

 僕が冒険者ギルドを訪れたのは、昼をかなり過ぎた頃のことだった。

 僕はゴルデン・アドベルム。冒険都市オルダームでも、最高の冒険者だ。


 最高という呼称には些かの誇張が感じられるかもしれないが、事実だ。

 何故なら僕は、この街で最大のクラン『金色の冒険譚』のトップなのだから。


 だが、最近は僕自身が冒険に出る機会もめっきり減ってしまった。

 今日とて、街にある幾つかの商会や職人ギルドと折衝を終えて、ここに来たのだ。


 僕はもっぱら、前線で活動する後輩達を支える裏方となっていた。

 冒険者としての腕は落ちるだろうが、構わない。むしろ命の危険は遠ざかるし。


 元々、僕は最初から現実を見ている。

 共に『金色の冒険譚』を興した失敗賢者は冒険のロマンに酔っていたが、僕は違う。


 僕があいつと組んだのは、そこに現実的な判断があったからだ。

 あの男が持つ『大賢者の生まれ変わり』という謳い文句が、必要だったのだ。


 その比類なき宣伝効果こそが僕の欲しいもの。でなければ誰があんな無能を組むか。

 実際に、それもあって『金色』は順調に人を増やしていった。

 それなりに苦難もあったが、僕が全て実力で乗り越えた。レントはただのお飾りだ。


 だが『金色』がオルダームのトップになって、そのお飾りも役割を終えた。

 これ以上、使えない看板に用はない。だから看板を取り換えた。


 使えない看板から、使える看板へ。

 レントを追い出して、代わりにルミナを入団させた。

 実力もあって意欲も高い彼女を、僕は『新たな大賢者』として売り出す予定だ。


 ルミナならば、その重責をしかと果たしてくれるだろう。

 やがては冒険者の恥部と呼ばれるワーヴェル家の悪評をも覆すかもしれない。

 そうなれば、彼女を見出した僕の名声もさらに高まるだろう。楽しみだ。


「あ、ゴルデンさん! っちゃーっす!」

「ゴルデンさん、おはようございますッ!」


 冒険者ギルドの入り口をくぐれば、たむろしていた冒険者達が揃って僕を呼ぶ。

 皆、顔に愛想笑いか憧れを浮かべて、僕に見られようとしている。

 気持ちがいい。最高だ。ここが自分の王国であると改めて再確認できる。


 そう、僕は王だ。この街の頂点に立つ男だ。

 誰もがこぞって僕を敬う。それは、僕が敬われるに値する男だからだ。


 だが、僕はこんなところで終わるつもりはない。

 オルダームの街を制した今、僕は次に王都に打って出ようと画策していた。


 王都に集まる利権は、この街の比ではない。

 そこに食い込むことができれば、僕の人生はさらに栄華に満ちたものとなる。


 だが王都の冒険者ギルドでは、あのワーヴェル家が幅を利かせている。

 が、そのためのルミナだ。彼女という殺虫剤で、あの恥さらし共を駆逐してやる。


「おはようございます、ゴルデンさん」

「おはよう、リィシアさん。早速だけど、ギルド長に――」


 カウンターで女性職員にアポの確認を取ろうとした時だった。


御挨拶(よぉ、クソボケ)


 ――背後からかけられた、無礼極まるハスキー声。


 振り返れば、そこには巨大なハンマーを背負ったドワーフの女がいた。

 僕の『金色』に次ぐ第二位のクラン『靭たる一団』の棟梁、リュリだった。


「これはこれは、リュリ女史じゃないか。こんなところで会うとは奇遇だね」

「おう、確かに奇遇だな。何だい、依頼の物色(ハローワーク)かい?」


「いや、ギルド長との打ち合わせがこのあとあってね」

「ハッ、打ち合わせ、ねぇ。すっかり裏方(フィクサー)気取りじゃねぇの」


 表面は笑みを保ったまま、だが、僕はのどの奥で舌を打つ。

 この女は、物言いからして品がない。容姿こそ整っているが、中身が下劣だ。


「今の僕は裏方で十分さ」

「そりゃそうか。他を奉仕させる(コキ使う)のがおまえさんの仕事だモンな」


 ……くっ、この女。


「僕は、忙しくてね。世間話の時間も惜しいくらいなんだ。失礼するよ」

「実はよぉ、アタシもさっき依頼の打ち合わせをしてきたトコなんだ」


 話を聞け、この低能女。

 僕は、忙しいと言っているだろうが。


「へぇ、依頼の打ち合わせ、か。また遠征かい?」

(うんにゃ)、今回はアタシが依頼主(頼む側)さ。指名依頼だよ」


 何? リュリ・デュランドが、名指しでの依頼だって?


「お、表情が変わったな。そんなに興味津々(気になっちまう)かい?」

「そうだね。後学のために、聞いておきたいな」


「なぁに、依頼内容(オーダー)至極簡単(シンプル)さ。ドラゴン素材の調達だよ」

「……また、随分と思い切った依頼を出したね。誰に頼んだんだい?」


 果たして、誰にそれを依頼したか、そこが問題だ。

 もしや、僕のところのルミナのように、有望株を見出したとでもいうのか。


「レント・ワーヴェル」


 思いがけない返答に、固まってしまった。

 僕は彼女に「それは何の冗談かな?」と改めて尋ねる。


「冗談なモンかい! この『靭たる一団(デュランダル)』の三代目棟梁(アタマ)のアタシが、レント・ワーヴェルにドラゴン素材の調達を依頼したっつってんだよ!」

「……バカな」


 冗談じゃないのならば、それは狂気の沙汰だ。完全に常軌を逸している。


「あんな男に、そんな大それた依頼が果たせるワケがない」

疑問符(そいつはどうかな)。結果が出るまではわからんぜ?」


 何故そこで自信ありげに笑えるんだ、この女は。全く理解できない。


「あの、ゴルデンさん? ギルド長が部屋でお待ちですけれど……」

「あ、ああ。すまない。すぐに行くとお伝えいただきたい」


 女性職員に声をかけられ、僕は笑みを繕ってそう応じた。

 僕は踵を返し、リュリに背を向ける。


「打ち合わせがあるから、これで失礼するよ」

「ああ、またな」


 あっさりとした別れだが、これが金輪際のものとなるだろう。

 リュリ・デュランドはおかしくなった。その噂はすぐにでも広まるはずだ。


 ――終わったな。


 この街の最後の脅威であった『靭たる一団』が、まさか自滅するとは。

 ちょっとした寂寥感すら覚えつつ、僕はギルド建物の奥へと歩みを進めていく。


 これで、オルダームは完全に僕の手に落ちた。

 次はいよいよ王都だ。未来を見据えて、僕の思考は様々に巡り始めていた。


 凶報が舞い込んできたのは、それからすぐのことだった。

・失敗賢者よもやま話10.5

 ――結構広い中庭がある!

―――――――――――――――――――――――――――

読んでいただきありがとうございます!

よろしければブックマーク、★評価いただけましたら、今後のモチベーションに繋がります!


よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ