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第9話 失敗賢者は依頼を受ける

・失敗賢者よもやま話9

 神果(アムリタ)は――、


※続きはあとがきで!


 あれだけ賑やかで騒々しかったギルド内が、俺の一言で一気に静まり返った。


 全員が、沈黙。

 完全に、静寂。


「……な、何でしょうか。皆さん、どうかなさったんでしょうか?」


 場に沈黙の帳が落ちる中、アルカが不思議そうに尋ねてくる。

 この子にとっちゃ神果なんて特別なモノでもないし、この状況が理解できないか。


「バカか、テメェ!」


 っと、ようやく我に返るヤツが出てきたか。

 ギルドに併設されてる酒場から、いかついヒゲ面のおっさんがやってくる。


「言うに事欠いて、神果だとォ~? そんな安っぽく塗装したリンゴがかよ!」


 あ、そう見えちゃうんだ。

 だが納得はできる。アルカにはありふれていても、冒険者には超一級のお宝だ。

 いきなり本物と思うワケもないか。そうだよなぁ。


「フカシコイてんじゃねぇぞ、失敗賢者ァ!」

「ついに報酬の偽造なんてコトまでしやがったか、見下げ果てた野郎だ!」

「あんたなんかが神果を手に入れられるはずないでしょ!」


 そして、冬の乾ききった草原に火種を落としたかの如く。

 静まり返ってたギルドが、瞬く間に騒がしくなる。

 しかも今回は、俺への敵意と怒りがド派手に膨れ上がって、場の過熱具合が凄まじい。


「そんなに言うなら、誰かこいつを『鑑定』してみろよ!」


 こうなった場合に備えて、俺は用意していた一言を叫ぶ。

 ここには俺などとは違う本物の『鑑定』スキルの使い手が何人もいるはずだ。


 そいつらに『鑑定』してもらえば、今騒いでる連中も黙るしかなくなる。

 と、俺は目論んでいたんだが――、


「『鑑定』なんていらねぇよ!」


 あ。ヤバ。

 一際大きな声でのその叫びに、俺は自分の失策を悟る。


「何が神果だ、ふざけやがって!」

「とんでもねぇ野郎だ、ここから叩き出してやる!」


 どうやら、連中のヒートアップ具合を見誤ったらしい。

 完全に頭に血がのぼっているらしき数人が、俺めがけて殺気を叩きつけてくる。


 一縷の望みを持ってカウンターを見れば、リィシアがいない。逃げやがったな!

 クソ、と内心に毒づき、俺は向き直る。

 すっかり殺気立った同業が、群れをなして俺とアルカを囲みつつあった。


「旦那様……」


 気圧されたアルカが、俺に身を寄せてくる。

 これはさすがに一旦逃げるべきか、と俺が考えていたところに、



(いいぜ)! その『鑑定』、アタシがやってやろうじゃないか!」



 救いの声は、ギルドの入り口からもたらされた。

 声の主は、赤い髪の背の低い女だった。

 スラッとしたスマートな体つきに似つかわしくない黒い重鎧に、赤いマント。


 真っ赤な髪を大きな三つ編みにして垂らし、威風堂々たるその立ち姿。

 背には、自分の背丈ほどもあろうかという巨大なハンマーを背負っている。


 何よりも目を引くのは、可愛さより気の強さが優るその顔に刻まれた一本傷だ。

 顔の真ん中、右頬から鼻筋を通って左頬まで、鋭い傷が走っている。


 俺はその女を知っていた。

 いや、俺だけじゃなく、アルカ以外の誰もが知っている。


「あ、あんた、……リュリ・デュランド!?」


 誰かが、女の名を叫んだ。

 呼ばれたリュリは「応よ!」と威勢良く返し、八重歯を剥き出しにして笑う。


「旦那様、あの方は?」


 クイクイと俺の袖をひっぱって、アルカが尋ねてくる。


「あいつは、リュリ・デュランド。この街で二番目に大きいクラン『靭たる一団(デュランダル)』の三代目棟梁を務めるドワーフだ」

「ついでに言っておくと聖剣の鍛錬法(ドえらいテク)を今に伝えるドワーフの有力氏族『剣句の士族』の次期氏族長(アタマ)でもあるからよ、よろしくな!」


 リュリが、俺とアルカに向かってウィンクを一つ。

 こいつのようなドワーフを始め、この国にはエルフや獣人などの亜人が結構多くいる。

 冒険者ギルドのエライ人もエルフだし、国王の愛妾にも亜人がいるって噂だ。


「ほら、寄越しな。アタシがそいつをしっかり『鑑定』してやるよ」

「あ、ああ。頼む」


 リュリに手を突き出されて、俺は言われるがまま神果を渡す。


「ふ~ん、こいつが神果(アムリタ)、ねぇ……」


 全身に視線を浴びながら、だがリュリはマイペースに神果を眺めている。

 いや、さっさと『鑑定』してくれよ、と、俺が思っていたら――、


一口(がぶ)っ!」

「あああああああああああああああああ!!?」


 こいつ、いきなり神果にかじりつきやがった!


二口(しゃく)っ、三口(しゃく)っ、咀嚼中(もっしゃもっしゃ)。ごっくん。ごちそう様!」

「ごちそう様じゃねェェェェェェェェェェェェェェ――――ッッ!?」


 芯まで残さず食べちゃったんだけど、このドワーフのチビ棟梁!?


「ん? ん? ん? んッ! 絶頂(ンほ)ォォォォォ! 何かパワー漲るゥ!」


 今度は大声で騒ぎ出し、両腕で力こぶを作るリュリ。

 そりゃそうでしょうねぇ、何せ本物の神果ですからねぇッッ!!!!


「おまえ、何してくれてんだよォ――――!」

「何って決まってんだろ。先払いで報酬(ブツ)をもらっただけさ」


「……へ?」


 意味が掴めず、俺はそんな抜けた声を出してしまった。

 リュリは呆れたように自分の赤髪を掻き、


「何だ、理解不足(わかんなかった)か。だからよ――」


 と、そこで一度言葉を切り、直後に八重歯を剥いて目を細め、俺を指さす。


「『靭たる一団』三代目棟梁(アタマ)であるこのアタシが、失敗賢者のおまえさんに特別指名依頼(イカしたオーダー)を出してやる、って言ったのさ。……まさか断るはず、ないよな?」


 このドワーフ、ちょっと男前すぎんか?

・失敗賢者よもやま話9

 ――ぶっちゃけドラ●エでいう「○○のたね」!

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