第六話:ファンタジーが目の前に現れました
主人公には適当にこう、ダラダラとしたいように生きてほしいです。
「うわっ、思いっきりぶっ刺さってる!抜けるか?これ」
木に刺さった虫を見た万司の第一声である。それは矢張りというかカブト虫であった、姿としてはヘラクレスオオカブトだったか?日本のと違い下に向けて反っているスラリとした角が特徴のアレだ。ただ、こちらは甲殻が虹色に輝き万司が少し視界をずらすとその輝きも変わる、非常に美しい見た目をしていた。ただ、その生態はアレだったが。
「下手に引っ張ったらボコッと首だけ残らない?ううむ」
木をぶち抜く勢いで飛んでくる虫の強度だ、大丈夫とは思うがと悩む万司。ふと、思いついたことがあり手を虫にかざす、そのまま
「収納、おおっ!」
そう唱えれば虫はスッと消えた、ウィンドウを開き新規獲得順になるようにソートすれば一番上にその項目が表示される。万司は迷うことなく選択した。
『レインボーオオカブト Grade:B
虹色の甲殻が美しいカブト虫、肉食。風魔法を使い己の周囲に円錐状の風の壁を生み出し、音をほぼ完全に消して獲物の背後から心臓といった主要器官を貫く。ドラゴンも低級なら防ぐことは難しい。その美しい甲殻は防御力も高く、主な倒し方は広域魔法による範囲攻撃が最適解。物理攻撃はほぼ通らない。甲殻の素材としての価値は先の倒し方から無事なものが出回ることが少ない事もあり、欠片でもRank:R、完全なものになるとSRにも届く』
「え、殴ったら死んだんだけど。間違ってない?てか肉食なんだ、どうやって食う…お、解説画面にあるこいつの3Dデータ回転するんだ、拡大も?…うえっ、口の中ギザ歯一杯じゃん!これで齧るのか?えげつなー」
ウィンドウをいじりながら楽しげにしていた万司だが急に止まる、あることに気づいたからだ。それは…
「腹が 減ったぁ…」
グッと押さえる腹からは押さえきれぬほどの音がキュゴゴと聞こえてくる、そう言えば此処数日はろくな食い物も食べずに戦い続けていたなぁ…等と遠い目をする万司。幸い、食料はアイテムボックスに入っている。さっさと樽を収納して食事にしよう。
そう決断しウィンドウを消そうとする万司の目にレインボーオオカブトの解説文が追加される。
「何々?『身はそこそこ美味しい、お薦めは塩茹でシンプルに』…ってなんでや!誰が食うか!!」
万司のツッコミと叫びはウィンドウをすり抜けた。
・・・
・・
・
樽を収納し、水辺に折りたたみ式の椅子を出して座る、机も出して広げて上へアメリカンドックと言ったホットスナックと、少し迷ってバドワ○ザーの瓶ビールを取り出し其れで流し込む。既に戸籍上は成人しているので問題ないだろう、この世界での成人、アルコールが許される年齢は知らないが万司は気にしなかった。
因みに検索には条件付がありその中に『現地準拠』と『地球準拠』がある。察しはつくとは思うが前者で検索をかければ、この異世界で人に見られても問題ないレベルの技術で作られているものが表示される。さっきの樽やコップなどもこの部類だ。
今座っている椅子や食べ物を置いている机はキャンプ用の後者だが、辺りに人もいないようだし問題ないだろう。万司は4本目のフライドチキンに齧り付きながら他に何を食べるか考えた、因みに既に育ち盛り体育会系高校生の一食分に相当するカロリーは消費していたが。
なんせ地球ではいつ、どれだけ食べられるか分からない生活をしていたので『食べられる時に限界まで食べる』が身についていた、食べる速度もだがその量も。故にまだこれでも満腹まで程遠かったりする。
「何食うかな…しかし食べ物は程よく暖かいし、ビールは冷えてるし。時間停止系のアイテムボックスかな?ホントに良いもんもらったわぁ…そうだ!」
思いついた万司は必要なものをボックスから出す。ホットサンドメーカー、卓上ガスバーナー、ジッポライター、食パンにチーズやハムといった具材。そう、ホットサンドを作ろうと思い立ったのだ。
「まだ、ただの学生だった頃Twitt○rで見たんだよな、無言でホットサンドメーカで色々肉とか焼いたりしてハイボール決めるってそれだけの動画。其れ思い出したらなんか食いたくなったわ、ま、普通にホットサンド作るけどな?肉とかはまた今度で!」
楽しげに独り言を言いながら万司はホットサンドメーカーを開き食パンを一枚乗せる、後はハムだのチーズだのを適当に積み上げ其れをもう一枚の食パンで上から押さえる。それでもまだコンモリと盛り上がっているのだが気にした様子もなく蝶番で繋がっているもう一枚を降ろし蓋をする。
よくもまぁ、閉まったものだと感心するほどホットサンドメーカーはかなりの重量を示している。其れを一旦放置し、ガスバーナーの上部の五徳部分を開き指示通りの操作をぎこちなくこなしてから万司はジッポライターを掴む。
動画を思い出しカッコ付けて蓋の部分を掴んで勢いよく振り…ライターはその遠心力を持って吹っ飛んでいった。
慌てて藪に突っ込んでいったライターを探しに走り、数分後。見つけたライターを握りそっと椅子に座る。何事もなかったかのように今度は大人しく日をつけ、其れをガスバーナーに近づける。灯ったガスの青い火の上にコトリと置き暫し待つ、ジュウジュウと焼ける音、垂れたチーズの焦げる音が響いてくるところでおもむろにひっくり返す。ストッパーを外しそっと開けてみればギリギリきつね色で済む焼け具合。
「やべっ、少し焼きすぎか?難しいな~。初めてだからしょうがないか」
今度はさっきよりも焼く時間を短めに。ひっくり返して様子を見れば今度こそ、満足の行くきつね色に焼き上がっていた。
「おぉ…最高か?」
そっと持ち上げればズシリと重い、ホットサンドが出来上がった。端から具が漏れ出すこともない其れの芳香を胸いっぱい吸い込む万司。因みに熱々を素手で掴んでいるが手も魔力で覆い、強化しているため熱さもへっちゃらである、羨ましい。
「よし、いただきま」
す、は言えなかった。突如として感じるプレッシャーのようなもの、両手にサンドを持ち開けた口をそのままにそちらへ顔を向ける万司、其処には。
「は?ドラゴン?」
自身と木々の間、其処に一体のドラゴンが鎮座していた。サイズは三階建ての家屋並、デザインはよくある西洋の竜、細い首の先に頭部で二本の角が生えている。背には一対の羽、コウモリのような被膜があり其れを今は畳んでいる。少し細い腕の先には三本の指、其れが物を掴めるように生えていた。太目の足は大地を踏みしめ、かなり長い尻尾は静かに地面を叩いていた。
テンプレな外見との差異はと言えば目が左右に三つずつ、合計六つあることだろうか?その目を交互に瞬きさせ万司をじっと見つめている。その全身は淡い翡翠色の鱗に覆われた非常に美しいドラゴン。思わず万司が見惚れるほどに。
だがいつの間に現れたのか?間違いなくこの巨体で飛来すれば羽音はするはずだ。魔法でどうにかしたのだろうか?それにしても上はそれなりに鬱蒼とした枝葉で遮られている空間だ、其処をどう避けたというのか?
其れは置いておいても何故、姿を現したのか?もしかして縄張りに入って起こってる?だが特に怒ってる風では無し。どうしたものか決めあぐねた万司は取り敢えず、という形で
「あの、食べます?」
手に持ったホットサンドを差し出してみた。そんな万司をドラゴンはじっと見つめ…手を伸ばした。
ホットサンドメーカー料理は本当に飯テロ、カロリーとか気にしたらいけない。
モンスターのGradeは以下に、これもなんかあったら変更するかもです
モンスターのGrade(あくまで一体の、集団ではまた別扱い)
E 成人男性が素手で倒せる、捕獲も容易。子供も道具を使えば、ぶっちゃけ無害
D 成人男性が道具を持ってなんとか倒せる、見かけたら子供は逃げること。
C 一般男性では無理、きちんと経験を積んだ冒険者ならサシでも倒せる、職業によるが
B 中堅どころの冒険者、訓練された騎士でも1対1は無理、もしくは事前準備をしてなんとか。
A トップランクの冒険者、英雄と言われるレベルの国に所属する騎士、魔術師でも1対1は困難。
国によっては国家存亡の危機
S 大国が国家予算数年分を使い、人的資材を使い切ってそれでやっと相打ち、まさに災厄
L Legend、生ける伝説、見かけたらどうするって?…諦めたら?