第五話:初戦闘と武器の初お目見え
ついに転移、そして初戦闘となります!
ついでに彼の愛用の武器のお披露目…いや待ってください、貴方も小学生の頃しませんでした?こう、振り回して…ね?
ファンタジーだ、繰り返すがファンタジー世界である。一見、普通に見えて実は触れたものを呪ったり、そうでなくてもドロドロに溶けるとかあり得るのかもしれない。先程、アイテムボックスを軽く見た感じでは結構な量の飲食物が入っていた。
其れこそ数ヶ月の間は何を考えずに飲み食いしたとしても、十分にやっていけるくらいには。だが万司は己の苦い経験から食べ物を無駄にと言うと大袈裟だが、とにかく消費することを恐れていた。
「何時食えなくなるか分からんからな~、出来ればこの水も確保しておきたいんだが」
検索をかければ空の木の樽、とあった。ポリタンとかなっていない所が何とも男の細やかさを感じる、いやポリタンもありはするようだが。
『木の樽 Rank:N
オーク材で作られた何の変哲もない普通の樽。容量は200L』
樽の項目に視線を移せば簡易な解説が浮かぶ。これを見た万司はふと気づいた。
「もしかして…」
早速、アイテムボックスを漁り目的のものを探す。
『木製のコップ Rank:N
オーク材を削り出した簡素なもの』
「あった、と」
木製のコップを取り出し、其れをそっと池に差し入れる。8分目ほど水を汲み、それをそのまま再びアイテムボックスへと収納する。
「どうかな…おっ!」
歓声の先、アイテムボックスのウィンドウにはこう表示されていた。
『キラズの湧き水の入った木製コップ Rank:A
キラズの大森林に湧く水を汲み上げたコップ。水は飲料に適している、美味。雨に含まれた魔力が山に染み込み精錬され、通常の水よりも魔力が豊富、魔力枯渇状態の生物に飲ませれば効果がある』
再度、コップを取り出しグイッと中身を口に含む。
「美味い!」
思わず叫び残りも飲み干す。グイと口を拭いながら二重の意味での成功に万司は歓喜した、水が飲めることともう一つ。
「一度、アイテムボックスに入れてさえしまえばこうして鑑定できる。仕様かな?それとも抜け道か…どっちにしろありがたく使わせてもらうけど」
一杯では足りず、再度汲んだ水を飲み干した万司はコップをアイテムボックスへ放り込み、代わりに先程見つけておいた樽を取り出した。その数、10。
それだけ樽が入っていたことに突っ込むべきか、其れを気にした風でもなく取り出し使う万司にか。当の本人は鼻歌交じりに栓になっているコルクを引っこ抜いた樽を抱え、そのままザブザブと池の中へ入っていく。
「フンフンフ~ン♪」
ご機嫌な鼻歌とともにゴポゴポとかなり大きな音を立てて樽の穴から空気が漏れ出てくる。この男、何をしてるかと言うと樽を水に沈めて汲んでいるのだ。ペットボトルを沈めていれるかのように。
当然、樽には空気が入っていて浮力を持っている。2Lペットボトルですら大人しく掴まれば人を浮かせておくだけの浮力があるのだ、樽ともなれば通常の腕力では水に沈めるなどとても出来るはずもない。
だが万司は其れを鼻歌交じりにこなす、1つが一杯になれば其れを抱えて上がり栓をして、次の樽の栓を抜いてザブザブと池に入り直す。
「あ、アイテムボックスに入れといて一つ入れたら次を出す、ってすれば良かったじゃん。ま、良いか楽しいし」
そんな事を呟きながら10往復、全ての樽に水を詰め終え並べた其れを眺めた万司は満足げなため息を漏らした。どうもこう、収集癖とまでは行かないが集めることの楽しさに目覚めつつあるようだ。全く濡れてないズボンをなんとなく叩き、樽を収納しようと手を伸ばす万司。
「使う使わない関係なく、こう集める行為自体、ガッ!」
呑気に独り言を呟く万司の背に衝撃が走る。たたらを踏み、慌てて振り返るが誰もいない。地面を見ても落ちている物はなく何者かが石でも投げて攻撃してきた訳ではないようだ。
「なんッ!?またか!?」
再び背中に衝撃、今度は多少は気構えて受けたことで分かった。当たったのは背中の上の方、そのまま穿けば心臓をぶち抜くコースだ。間違いない、何者かわからないが明確な殺意を持って此方へ攻撃を仕掛けてきている。
取り敢えず樽は放置し、万司は走り出す。近くに生えている木まで辿り着くと其れを背に、辺りを睨みつける。目測で直径50センチはある木だ、余程のことがない限りは盾になってくれるだろう。
静寂があたりを包む、針の落ちる音すら聞き逃すまいと集中する万司の耳に次に聞こえてきたのは何かを砕くような音。其れが自分の後ろから聞こえてると気づいた万司は振り返りながら悲鳴に近い叫びを上げる。
「オイオイオイオイ!嘘だろぉ!?」
振り返った先、大丈夫だろうと思っていた木から何かが飛び出してきて万司へ飛来する。何とか避けようと身を捩るその肩へ打つかって来た。
「ッ!」
衝撃で不安定な体勢で受けた万司は地面に転がる、だが代わりと言っては何だがその強化された目で確実に相手を捉えた。甲虫の類と思われる手のひら程度の虫、それが先程から万司へ攻撃を仕掛けていたのだ。
凄まじいまでの速度も、羽音がしなかったのも魔法か何かでやっているのだろう、既にその姿も音も万司には見聞きできない。ヤレヤレと立ち上がり背にしていた木に目を向けた万司は「げっ」と呻き声を漏らす。
木には拳大の穴が空いていた、その縁はかなり滑らかで黒くなっているのは摩擦で焦げたのだろうか。相当な速さと硬さ、鋭さがないと出来ない芸当だ。それを数発食らって「げっ」くらいで済む万司が異常なのだが。
「今の強度じゃ衝撃まで消せないか、少し上げるか」
呟いた万司、特に見た目は変わらないが満足気に立ち上がる。其処を狙ってか再び虫が飛来し万司の背へ攻撃を仕掛けた、だが今度は万司は身じろぎもしない。精々、何か当たったかなくらいの認識しかしていない。
「さっきの強度が対物ライフルの弾を防ぎ切るレベルだったから、ただの虫がそれと同じ威力くらいかよ…異世界怖え〜」
ブツクサと、それでいて楽しそうに万司は笑う、本人は気づいていないようだが。何か武器を、と手を見れば既に握っていた。神に呼び出された部屋でアイテムボックスで試しに取り出してみたそれ、元の世界でも長く彼の相棒として幾多の修羅場をくぐり抜けたそれを、万司は剣を握るかのように構える。
コンビニ傘を
…そう、コンビニ傘をである。白いプラスチックの柄で透明なビニル傘、ワンコイン程度で買える少しの風でラッパ傘になっちゃうやつだ。だが、そんな安っぽい傘も万司が握り、魔力で覆って強化すれば殴った装甲車を凹ませるほどの武器と化すのだ。
そこ、なんでも良いんじゃ?などと言ってはいけない。食事用のナイフ持っただけで最強となる大魔王かよ、とかも。万司にとっては良き相棒なのだ、武装集団に襲われ、無我夢中で掴み振り回したときからの。残念ながらしかし激戦で数本は失われこれも何代目かになるのだが。
万司は静かに、次の敵の攻撃を待つ。耳と目に他より多めに魔力を流し、強化しながら。万司が魔力、当時は色から青結晶だの何だのと適当に呼んでいたが、それを使えば己の体を強化出来ると気づいたのは偶然だった。相手も分からぬ集団に捕まり、手錠をかけられ連行されている最中に自棄になって外そうと力を込めていたところ、アッサリと鎖が砕け散ったのだ。
これには万司も拉致集団も苦笑い、とはならなかったが…それからただ逃げ惑うだけだった万司の行動が変わっていく。最初は強化の加減がわからず自分の目を潰しかけたり、敵対者を殴ったら…止そう、お茶の間には見せられないよな空間になってしまう。
「…今!」
強化された皮膚感覚や地球で培った経験と勘、其れらが今だと万司に示した。振り返りざまに手に持ったコンビニ傘をフルスイングする。其れは確かに飛来していた虫を真正面から受け止め、そして。
「フンっ!」
一切の抵抗を許さず虫を打ち返した。虫は自身が飛んできた速度を遥かに超える其れを持って吹き飛び。
「よっしゃぁ!」
万司が盾にしていた木にその角を突き刺し、止まる。暫くはジタバタと足を動かしていたがやがて其れもくたりと力なく垂れ下がった。こうして万司の異世界における最初の戦闘は終わった。
主人公の武器…伝説のコンビニ傘
でも読者のみんな、一度は剣に見立ててチャンバラしたり技の再現とかしたでしょ。何の技をやったかで、大体の世代がわかると思うんだ。
以下、本文に出たアイテム等のランク設定。都合により変更はあるかもしれません。
アイテムのRank
N 一般人でも容易に買える、雑貨屋に並んでるレベル
R 一般人が収入の数カ月分を払えば買える、一般的な贅沢品
SR 一般人が数年か一生かけて買える、かな?貴族でも末端なら少し難しい
SSR 上位の貴族ならj買えるがそれ以下は…年に数個オークションで見かける程度
NT 国宝級、国が予算はたいて買うレベル、国庫が空っぽ?増税すれば良いのです
WT 世界級のお宝、国でも買い取れない。持ち主は不幸な事故に遭いやすいようだね、何故だろうね
GT 神級、伝説やおとぎ話で語られてる。え?持ってる?…なんで?