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土下座から始まる異世界譚  作者: アルフン
4/6

第四話:その存在かけても妄執を果たす

やっと転移、のようですが…

さて、異世界転移を承諾した万司だったが心残りが1つだけ。其れは姉だった、あの世界でたった一人の味方といえる存在。男に聞けば少し言葉を濁したが「間違いなく元気でいる、其れは保証する」とのことだった。言い淀んだのに少し疑問を覚えたが、確かめようもないのだから仕方あるまい。


何か言葉を伝えたいと言えば男は便箋を出してきた、手紙なら責任を持って手に渡るようにすると。万司はそれに自分は元気でいる、色々あって異世界転移することになりもう会うことはないだろうがそちらも元気でやってほしいと綴る、最後に二人にしか分からないことを付け足して自分だという証拠代わりに。


書いてる途中にふと、気になったことを万司は尋ねた。「戦闘系のチートはないのか?」と、ファンタジー世界ともなれば元の世界よりも強い相手がいるに違いない、其れに対抗手段は?と聞いてみたのだ。解答は男の凄く微妙に引きつりつつ漏らした


「…え?」


との一言だけだった、何言ってんの?そんな隠しきれない態度に万司は言い募ろうともしたが「万司さん、今の段階で魔力を吸収 加工 放出 展開 出来ますよね?それだけ出来ればあの世界では無双可能です、これ以上なんて…オーバーキルになりますので止めてください」


そう、真顔で言われれば返す言葉もないとはこのことだ。微妙に納得できなかったが万司は其れを飲み込んだ。そうしている内に手紙を書き終える。


その便箋を封筒に入れ、男に渡す。特典の方は既に手紙を書いている間に付与したとのことなのでアイテムボックスを試してみる、言語の方は確かめようがないからだ。


「音声か思考入力で開き、指か思考で操作できると。おぉ…」


目の前に浮かんだ半透明のウィンドウに並ぶ品物に軽く感動を覚える、検索をかけ万司はあるものを呼び出した。軽く光を放ちながら現れた其れは万司の手に収まった、その感触に何処か安堵を覚え立ち上がる。


「おっと、すまんな」


また聞こえたグエッという悲鳴、すっかり何に座っていたか忘れていたのだ。一応、謝罪の言葉が出るのは日本人のゆえだろうか。


「準備、整いました。後ろの扉から出れば異世界へ、ジスフィアへ転移します。治安の良い地方の近くへ着きますので後はそちらで。万司さん、その…今回は…」


これ以上何と声をかければいいか、そう迷う男に万司は首を振る。


「色々世話になったな」

「そ、んな!私は、私どもは貴方を…」

「無理やり問答無用で俺を送り込むことだって出来たはずだ、こうして便宜を図ってくれた時点でアンタは良いやつ、いや神だよ。裏に保身があったとしても当たり前だろう?そのくらい、誰だってあるさ。だからその…あ~、ありがとな」


ポリポリ、と照れて頭をかく万司に男は俯く。最後に万司の視線は椅子にしていた女性へ、視線だけは此方へ向けて睨んでいるのが見えた。さっきよりその負の感情は肥大しているように感じた万司はそんな彼女に、自身をこんな目に合わせた元凶へ


「その、なんだ。まぁ頑張れよ?失敗しちまって今後どんな罰があるか分かんないがさ。また仕事やるってんなら…もう俺は恨んじゃいないから、許すほどではないけどな。じゃ…」


女性の目が一瞬、限界まで開かれたのを確認すること無く万司は扉へ向き直り。特に気負うこと無くドアノブを捻り、開いたドアへ身を躍らせた。淡い光りに包まれ、そして…


・・・

・・


「結局、謝罪の一言もありませんでしたね…すまないという気持ちがあれば外れるようにはしていたんですが」


万司が去った後、男は静かに女性の側に寄り指を1つ鳴らす。其れが解除のキーだったのか、女性はギョロリと目を剥き、怒鳴り始めた。


「謝罪?謝罪と言ったか!?私を何だと思っている!神だ!神だぞ!!あの虫ケラを統べる!!其れが何だ?頑張れよ?恨んではいない?何様だというのだ!!」


そのあまりの内容に男は眉をしかめる、当然のように女性は気づいてもいないが。


「…その考えはスカウトする際に持つな、持っても最小限にと伝えたつもりだけどね?我々は確かに高次の存在だ。だが、だからといって万能でもなく失敗も犯す。今回で其れも分かったと思うのだが」

「何がだ!?もう少しやれば上手くやれていた!やれていたはずなんだ!!なのに、なのに…お前たちが、よってたかって私をつまらない罪を並べ立てこのザマだ!いづけば全ては終わっていて…おのれ、おのれぇ!!」


ブツブツと怨念を吐き出す女性に男は溜め息を1つ零し…ギョッと目を見開く。女性の体から金色の粒子が立ち上がり始め、同時に末端から消滅をし始めた。それは


「禁則事項を!タブーを犯したのか!?一体、何を…まさか!?」


叫んだ男は慌てて机へ走りより書類の一枚を掴む。其処には万司の情報が書かれていたがその項目の1つ、転移先の部分の文字がジワリと滲み、変わり始めた。変化は一瞬、其処に書かれていた内容は。


「転移先が…馬鹿な!キラズの大森林!?最低でもGrade:Bのモンスターが跋扈するジスフィア世界の人類が未到達な土地だ!そんなところに彼を!?そんな、こんな馬鹿なことに自身の存在を…何故…」


呆然と呟く男の前で女性は狂ったような笑い声を上げた、いや実際に狂っているのだろう。


「あいつが、あの虫ケラがいなければ全ては上手く行っていたのだ、そうだ、全部、全部あいつが悪いのだ!!だからこうしてやった、飛ばしてやった、キヒ、ケヒヒャハハハハハ!!!」


その笑いは最後にその頭部が消えるまで続き、其れが止んだ後には何も残ってはいなかった。男はヨロヨロと彼女があった場所へ近寄り、膝をつく。


「どうして、こんな事に…」


もはや世界へ降り立った知的生命体への干渉は不可能だ。先の地球へ万司がいた頃に行った精神干渉とて、世界の滅亡がかかっていたからこそ可能だった、いやそれでも正直グレーな行為だったのだから。


打つ手は、ない。男は俯き万司の無事を祈るしかなかった…


・・・

・・


「…ふむ?」


同時刻、万司は転移先を最悪の場所へずらされたとも知らずあたりを見回していた。見えるのは木、木、木、次はと見せかけてやはり木。どうやら森の中の空き地のような場所へ転移したようだ。


その空き地の真ん中、其処には池があり静かな水面は鬱蒼と茂る木々を写している。その端に万司は屈み込み、己の顔を水面へと写した。


「…ひっでぇ顏」


ポツリと漏らす。別に怪我か何かで醜くなっているわけではない、だがこの数年の激動の日々は確実にその相貌へ影を落としていた。切れ長の目が特徴であった姉と違い、どちらかと言えば垂れ目気味で優しい顔だと言われていた万司だったがその目は軽く釣り上がり、瞳は何処か死んだ魚みたいだと彼は自嘲的な笑みを零した。


髪もそう、特に癖のない黒髪だったがろくに洗わず切る時も適当な刃物でやっていたので、ボサボサ。ツンツンと立つほどの癖毛となっていた。まぁ其れはどうでもいい、顔を洗ってさっぱりさせようと手を水へ突っ込もうとし、その寸前で止めた。


「この水、安全なのか?」


その呟きは水面にこだますること無く吸い込まれていった。

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