6話 マリン
16歳の誕生日。
私は、初めて外に出られるわ。
暗い海で、毎日退屈だった。
お姉さま達は、自由に広い海を冒険してる。
ひとりぼっちの私。地上ってどんな所?お日様の光は本でしか見たことはないわ。魚以外の生き物も見てみたい。
歩けなくても広い世界を眺めたい。
ーー海にいることは幸せ。でも足りないの。
私が本当に欲しいもの、それはーー。
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誕生日の日、私は初めて出た海上から空に煌めくヒトデを見ていた。色とりどりのヒトデは空に上ってはキラキラと消えていく。初めて見る地上のヒトデはとてもきれいで、夜空を彩っていた。
ドボンッ
私の近くで大きな箱から何かが落ちた。バタバタしているみたい。
ーー傍に行くと、誰かが今にも沈みそうだ。地上人は水中で息ができない。沈むと死んでしまうのよ?泳げないのかしら。
「大丈夫ですか?」
泳ぎながら問いかけるが、溺れた人はそのまま沈んでいった。姿を見られたくないけど、死んだら可哀想だから助けようとイシスは動く。
「今、助けます」
だって、初めて見た地上の人を死なせたくない。その思いでその人を掴み、必死に泳ぐ。自分より大きいからとても大変だった。
時々水を飲むその人に、「ごめんなさい」と伝え、必死に岸を目指さした。
そうして、ようやく岸に着いた頃、助けた人は微かに息をしていた。良かった。と思いながら、まだ夜も深く、心配だから傍にいることにした。
地上人は足が生えているから泳ぎが下手なのね、そんなことを考えながら飽きることなく見つめていた。
ーーあなたの瞳は何色?髪も暗くてよく見えないわ。ねぇ、明るくなったら、あなたの『色』見えるかしら?
(私の名前はイシス。あなたの名前は?)
返事がないのは分かっていたけれど、私は初めて触れた地上人に対して何故かドキドキしていた。海の底でつまらない毎日を過ごしていたの。何かを変えたい、でも、何も変わらない。
海の静けさの中にいる私を迎えに来てくれる人がいないか望んだわ。でも、そんな人いないの。私を探しに来てくれる人はいない……。
あなたに出会ったことは、何か意味があるのかしら?私が本当に欲しい物、誰かに言える日が来るのかしら。
朝日が昇り、助けた人の『色』を見ることができた。珊瑚のような赤色の髪に綺麗と喜びを感じたが、お父様と同じ男の人だと気づくととたんに恥ずかしさが込み上げてきた。
(え。男の人?何を話せばいいの?お父様以外の人なんて無理無理無理)
そうして、イシスは離れた所まで逃げ泳いで岩場から助けた男の様子を見ていた。その後、別の人間に救助されて安心したが、残念に思う気持ちも強かった。
「お話、やっぱりしてみたかった」
ーーもう一度、会いたい。
でも、地上人に会うためには地上人の振りをしなきゃならない。
イシスは知っていた。
地上人になれる方法を。
そして、引き換えに差し出すものがあることも。