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5話 人魚姫との初バトル。私は応援したいのよ


 人魚姫の印象は、応接室でチラッと見た限り絵本と同じだったが、隣国の姫にケンカを売るシーンはなかったと思う。


 あの馬鹿馬鹿しい出会いの日、カナンからフレイル国の対応を詫びられ、仕切り直しをするまで滞在して欲しいと懇願された。


 仕方なく、しばらく滞在することにしたが、ついでに二人の仲を取り持とうと思う。


 ビアンカは、暇をもて余していた。ならばすることは人魚姫の応援だ。彼女がいそうな場所に行くことにした。メイドに人魚姫の居場所を聞くと、侍女に庭園に連れて行ってもらっているらしい。早速ビアンカは向かった。


 


 城の庭園のベンチに彼女はいた。ぼうっと景色を見ているようだ。そんな悩まなくても、私は略奪するつもりはない。


 


 だから、ビアンカは、警戒させないように人の良い微笑みを浮かべて、優しく声をかけた。


「こんにちは。マリンさん」


「……」

 

 そうなの。声が出ないから会話は成立しないのよね。私が一方的に話すしかないけれど、目は雄弁だわ。



 ビアンカに声をかけられたマリンは冷たい瞳で見返してきた。


「マリンさん、私とお話しませんか?」


「……っ」


 人魚姫は私を恋敵と思っているのか、プイと横を向いてしまった。



 (完全に私が悪役ね)


 正直、この国の(馬鹿)王子に気に入られるのも迷惑だし、彼女に敵視も逆恨みだ。


「マリンさん、あなた、アスラ王子とずっと一緒にいれると本気で思ってる?」


 そう。いられるわけがない。どこの馬の骨か分からない女と王子が結婚できる確率は0だ。まずは、そこを彼女に理解しともらう。


「王子は貴族と結婚します。貴族じゃないあなたはアスラ様とは結婚できない。側室にもなれない」



 私の言葉が真実だと分かっているのか、微かに肩が震えている。



「私がもらってもいい?私、彼から求婚されたの。私が彼と結婚したら、あなたには城から出て行ってもらうわ。あなた、アスラ様が好きなのでしょう?私と彼の幸せを見たくないわよね」


 パシッ


 私の言葉に激情したマリンは手を振り上げて私を殴ろうとしたが、それを待っていた私は難なくマリンの手を掴む。


「それが嫌なら自分を磨きなさい。誰にも文句をいわれないように、あなたが変わらなきゃ。・・・だから、私の国に来ない?」



 私を真っ正面からみたマリンは怪訝な顔をしている。



「私の国に来て、私があなたの後継人となれる貴族を見つけます。養女になり、勉強しなさい。そしてもう一度、王子にアタックするのよ」


 彼女は客人。身元不明なら、行きたい所へ行けるはずだ。私が保護者となり、彼女を高位貴族の養女にする。そうすれば(馬鹿)王子と釣り合いがとれる。淑女にして、王子に渡せばハッピーエンド。


 よい提案のはずだが、マリンは無言だ。


「あなた、(馬鹿)王子から離れたくないんだろうと思っているのね。でも、このままだと私が王子と結婚して、あなたは泡になるのよ人魚姫さん」


「!!」


 

 人魚姫は、エメラルドの瞳に驚きの表情を浮かべた。


「それとも、泡になりたいならこのままここにいれば?あなた、泡になりたいの?」



 ブンブンと首を横に振る彼女。そうだ。命をかけて恋をしたなら、形振り構うな。利用できるものは利用して欲しい。




「今のあなたは王子を追いかけるただの魚。ヒトになりたいのなら、私と来なさい。ああ、さっきはああ言ったけど、私はあなたの王子様のこと、全く好きじゃないから。むしろ、あなたを応援したい」


 


 ビアンカはマリンをじっと見つめた後、庭園を後にした。言うだけ言って、もしも人魚姫が今のままを選ぶなら、また別の手を考える。


 部屋に戻ってからも、人魚姫がどうするか気になったが、一応連れていく旨をノワール国の国王宛に手紙を送る。




 次の日、人魚姫が私の部屋に来て、意思の強い瞳で私の手を握った。



「決めたのね?」


 私の問いに、彼女は頷く。



「あなた、頑張るのね。馬鹿王子のどこがいいの?」


 この言葉にポカポカと膝を叩かれた。今度はその手を止めなかった。



「ごめんなさい。あなたの大事な王子のために、あなたを預かるわ。よろしくね」



 マリンの返事はプイと横に向いたものだが、恋敵にはこれでよいだろう。正直な様子を見て羨ましく思う。好きな人に一直線になれること、私にはできない。恋より公務が好きな私には、理解できない。




 少しだけ、人魚姫を羨ましく感じたビアンカだった。



 

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