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第27話 波乱 4

 事件の直後、一時、王国教会として王宮に勤める修道士らは、グランヴィル大聖堂より宮殿の別の一室に軟禁された。

 ロムルス王国教会教主は、余計な摩擦を避けるために、軟禁の指示を粛々として受けた。

 その数時間後に、ロムルス教主とその随員数名を残し、王宮の兵士らによって他の全員は修道会へと送り返された。その時、ようやく事態が修道会の知るところとなったのである。


 王国教会は、表だって騎士団を常駐させてはいなかったが、ロムルスは通常の修道士資格で勤務していた騎士団員らにも抵抗するなと指示を出した。

 宮殿には、ラヴィロアが潜伏させたルーサザン公爵家の密偵が何人かいた。ロムルスはラヴィロアの生前より彼らのことは知っており、現在も修道会に情報を逐一提供していた。今回も些細な情報収集は彼らに任せることが最良の策であると判断し、撤収に応じたのだ。


 議員であり教主であるロムルス自身が残っていれば、実質議会への干渉自体に影響はない。一方で、今回の不当な王国教会に対する仕儀は、後々、修道会がラーフェドラス王国宮廷に対しての攻撃材料としても使える。今後、ラーフェドラス王国の国政への参画について、何か支障があるようならそれも追求材料にできる。


 ロムルスはそれほど長くラヴィロアと仕事をしたわけではないのに、短時間に様々なことに指示を出すうちに、考え方がずいぶん影響を受けていることに驚かされた。


 修道士として、基本的に他人を信じるように勤めてきた者にとって、後々の『攻撃材料』という考えがこれまで無かった。今回の、この王国教会の設立には、他国の王族と各国教会の承認がある。宮廷が王国教会の権利をないがしろにすることは、これら各国の承認についてをないがしろにした事に等しいのだ。


 ロムルスは軟禁を解除され、グランヴィル大聖堂の私室に戻ってから今後のことについて思索した。


 宮殿の広報を信じるとするなら、現在、国王は命を取り留めており、暗殺者もその身柄を確保したという。当然、議会としてはその背後の勢力についての捜査を徹底することになろう。

 一方で、国王カーレルが政治の場に立てぬことは、当然摂政権の保留を意味することになる。

 現状、摂政権はミスチア王太后にあり、直前まで、王国教会と国王派はミスチア王太后への摂政権の返上を求めてきた。


 事件は、ミスチア王太后の生活する宮殿の西翼で起こった。

 しかも、王妃不在の状況下である。


 母が我が子をなどと、怖ろしい事は考えたくもないが、この事件に背後があるとすれば、摂政権の返上を拒むミスチア派自身か、ミスチア派を罠に嵌めようという勢力の仕業のどちらかであり、ミスチア派を罠に嵌めようとする勢力がもしいるとするなら、それは国王派ではないことになる。考えるまでもなく、国王派が自身の主に生死の境をさまよわせるわけがない。


 聖職者としては、王太后自身が指示を出したと思うわけにはいかない。ましてや、王太后と国王の間にわだかまりがあるにせよ、王太后自身はシェラ王女をそれなりに可愛がっていた。その王女の婚礼に際して、そのような事を指示する必要があるだろうか。


 ならば、派閥の誰かの意向、ダール公爵家か、あるいは、単なる事故か。

 事故であれば事故と公表したほうが、ミスチア派とて妙に探られる必要もあるまい。


 事件の子細を聞いた総教主が通信でロムルスに報告を求めたので、一連の事実の報告に加え、自分の推察を包み隠さず話してみた。

 総教主も解せぬものを感じたようで、ロムルスの推察に特に言葉を返しこそしなかったが、特に否定もされなかった。


 ただ、ひと言、付け加えた。


「もし、摂政権を行使するに当たり、議会に諮らず勅を出す際には、王印と国璽に配慮せよ」と。


 ロムルスは、その言葉を心して聞いた。

 修道会がこの場にいるのは、王権が正しく行使されることを見守るためであるから。




 そのようなやりとりが交わされたグランヴィル大聖堂の天井の空洞で、その時ぼうっと光が灯った。光が闇の中で煌々とともり、一冊の聖典を浮かび上がらせた。


 聖典の中より、一つの別の光が現れた。その光がその空間を照らしはじめると、先に点っていた光は徐々に弱まり、聖典のなかへと引き込まれてしまった。


 聖典から生まれた新しい光は空洞の天井を越えて王宮の上空に駆け上がり、そのまま星の海の中へと消えていった。



※     ※     ※



 タリアンファットのエストリダ教会で、ユーリはベッドから半身を起こした。

 聖アムルテパン修道会の、真の主たるシェル=ダル=シャハールは、その時彼の中で目覚めたのだ。

 彼は、自分の中に住む神の僕であるシェル=ダル=シャハールによってひとつの真理をもたられた。そして、その真理を、ただ苦々しい思いで嚥下せねばならなかった。


 ラーフェドラス王国の玉座が空位となる。


 その瞬間、ラーフェドラス・アストレーデは、持ち主を変え、聖典魔術師であるユーリはその事を知らされた。

 国王が変わるという事。

 それは、悩み続けた一人の少年の死であった。

お久しぶりです。なんか、スカスカに行間を空ける書き方がデフォになってしまいました。読み辛いかもしれませんね。ご免なさい。

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