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第26話 波乱 3

すごくお久しぶりでございます。


 ラーフェドラス王宮で起きた凶事は、数時間後にアールシャド新皇帝ティムジン八世リオンの知るところとなった。

 宮廷では、まだ即位に伴う一連の行事が目白押しで、皇后として迎えられたシェラにしても、昼間はいっときも公式行事から解放されることは無かった。


 皇帝は、ただちに別の行事に臨席中の皇后シェラの許に使いを出し、執務室へと呼んだ。

「やはり、事は起こってしまったのですか」

 外務省よりの報告を聞いて、シェラの表情は青ざめている。しかし、その態度はそれまでのシェラの威厳を損なうこともなく、わずかの動揺の影さえ認められない。


「冷静なものだな」

 リオンは、シェラの態度をいぶかしく感じ、皮肉めいてぼやく。何も、実の兄の死に際してさえ、年齢に似合わない冷静さを保つことはないだろうと。それとも、肉親としての情が薄いというのだろうか。

 シェラの態度が気にくわないリオンは、待っているあいだ、頭の中で考えていたシェラに掛ける慰めの言葉を告げるタイミングを失った。

「皇后たる身で、義姉上様の私室参りますこと、陛下にお許しいただきと存じますが」

「なぜ、僕にそんな事の許可をもらう必要がある。ここはアールシャドだ。がちがちの宮廷作法など無い国だよ。自分の兄弟の一大事に、一族の許に駆けつけることを誰が咎めるというのだ」

 シェラの行いが、いちいち勘に触る。むしろ自分がシェラの手を引いて駆けつけてしまいたいほどじれったい。だが、自分が今行くわけにはいかない。

 国民が、即位を祝う行事なのである。それぞれが今日のために積み上げてきたものを、皇帝として受け取らぬわけにはいかなかった。

 そして、夕刻頃には、シェラも行事に復帰させねばならない。


 帝国は、久しぶりに玉座に皇帝を得て、歓喜に震えているのだから。


 シェラがロイエンライラを見舞った時、ロイエンライラはソファーの上に泣き崩れていた。王都は遙かに遠く、この場にあってはいかようにも動けない。

「義姉様」

 シェラが、ロイエンライラの側に駆け寄ると、ロイエンライラは上体を起こした。

「これは、リン=レーゼターク」

 ロイエンライラは、今日から皇后として遇されるべきシェラに対しての礼をとろうとした。

「義姉様、ここはアールシャドでございます。私的な場でそのような格式ばった真似などおよしください」

 シェラは、たったいま自分がリオンより向けられた言葉を、今度はロイエンライラに云った。

「お兄様は、宮廷に潜んでいた刺客に襲撃されたのだと伺いました。出血がひどいようでございますが、まだお命はとりとめていらっしゃいます。どうか、神々の御心を信じて、気持ちを強く持たれますように」

 沈痛な面持ちのロイエンライラに型どおりの励まししか掛けられない自分が悲しい。

 リオンのいらだちはよくわかる。

 肉親の一大事に際してさえ、内心は驚き、充分混乱しているというのに、王族として、皇后として、どう振る舞うべきかが先に行動に出てしまう、そのことが悲しい。

「どうもありがとう、シェラ。せっかくだから、今まで通りでそう呼ばせてね。

 ひとまず、帰国の用意は済ませました。今暫く仕度に時間がかかるようです」

「それは伺っております。ですが、ルートは、来たときに辿ったルートではいけません。かならずエイオラ公爵領を通ってのルートに。最悪の場合、義姉様は、入国を禁止されるかもしれません。エイオラ公爵領、ルーサザン公爵領など、かならず親王派の治める星域を通るよう、設定しなくては」

 嫁入りの船内の長い時間、シェラは兄によって与えられた危惧とそれから宮廷内の勢力の状況について様々に思いを巡らせた。政略というものを、まるでパズルを説くように頭の中で組み立てていくのはいわば、シェラの趣味である。

 つい昨日まで、それは政治の場にある皇后となるべき者として相応しい特質なのだ、といささか誇りにしてきた。

 だが、今はそれが誇りなどではない。

 もっと、心から心配したり、動揺したり、泣いたりするべきなのだ。


 リオンはこんな自分に、心を許してくれるのだろうか。

 苛立った先ほどの顔が胸に焼き付いている。

 

【作者コメント】

BLばかりを書いていた不徳な私をどうか罰してください。(女人天下ふうに)

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