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第25話 波乱 2

 シドは、その通信を終えるとすぐにダール公爵の待つ部屋に向かった。

「お待たせ致しました、公爵閣下」

 深々と頭を下げる。

「何をしておる。王太后陛下のご様子は」

「薬でお休みでございます。国王陛下のご容体は変わらずでございますが」

「一進一退だ。しかし、決して良いほうの兆しは見られないようだが。

 いずれにしろ、この事態を公表せねばならぬ。元老議会が、事態の詳細を求めている。

 お前は当事者だから、事情を知っているのだろう。どういう事なのだ」

 応接用の椅子から立ち上がり、まるでシドの襟首を掴むような勢いで詰め寄ってきた。

「本当の事を、ダール公爵様だけにお話いたします。

 これからお話することの一切を、決してこの部屋の外ではなさらないようにお願い致します」

 そう云って、シドは一旦ダール公爵のほうを見た。そして、声を低くして云った。

「──国王陛下に傷を負わせたのは、ご乱心なされたリン=ガーレンディラご自身でございます」

「なんと……」

 ダール公爵が呆然と椅子に崩れる。

「王太后陛下のお立場は守らなければなりません。ゆえに、私の判断で侍女を殺害して、これに全ての罪を被せておきます。公爵閣下には、どうぞご了承いだだきたくお願い致します」

「この宮廷の者ばかりならいざ知らず、今は修道会も干渉してきているというのに、そのような事、隠し仰せるとでも」

 不審の眼差しがシドに向けられる。

「ファーマムール王国を、味方につけることが叶いました。

 リン=ガーレンディラの地位は、ファーマムール王国に守って頂きます。この密約は決して外部には漏らさぬように、お願い致します」

 うやうやしく頭を下げるシドを、ダール公爵はいぶかしい様子で見下ろした。

「そなたはやはり、一介の色侍従ではなかったようだな」

 ダール公爵に対して、目下の者の態度を崩すことなく、しかし、先ほどまでの一介の使用人らしい雰囲気とはうって変わった上流貴族に相応しい威厳を備えて、その言葉に返答する。

「先日まで、アギール公爵の下で、従家であるファルティア候爵エル・シドとして働いておりましたが、今は地位を返上致しました。現在は、王太后陛下の忠実なる犬、王太后陛下に頂きました唯一の地位であるライール赤貴爵シド・エルバンでございます。ファーマムール王国元帥、エプタプラム公爵閣下には、先日までこの宮廷の様子を報告するよう依頼されておりました。

 アギール族が最近まで、君主であるトランザール大公の身柄をファーマムール王国に握られておりまして、アギールの一人として、私もエプタプラム公爵の意向に逆らうことは叶いませんでした。

 しかし、アギール族は大公を奪還し、そして私は地位を返上した今、この身は、王太后陛下だけの物。この命全てを捧げ尽くし、リン=ガーレンディラをお守りする犬でございます」

 忠義の言葉を口にするシドに、ダール公爵は冷ややかな視線を向ける。

「犬……だと。ただ主に対しての愛情だけの忠誠を、私に信じろと云うか」

「現実に、陛下のお心をお慰めし、お心の安定をはかるのが私の仕事と任じておりますれば。

 ダール公爵閣下も、この宮廷がこのまま王妃様の勢力の支配下に入ることは面白くございませんでしょう。どうか、ここは私にご協力願えませんでしょうか。

 エプタプラム公爵とて、この国で表立って勢力を拡大するわけにもいかないでしょうから、ダール公爵閣下には、ぜひエプタプラム公爵との協力関係を築いていただきたいと。

 国王陛下が不測の事態に見舞われました今、この国の混乱を治められるのは、長年にわたって摂政職を務めて参りましたリン=ガーレンディラであり、その支えでありますダール公爵様でございます」

 王国は、今、シドの手の中にある。心の奥から暗い炎が燃え立つのを感じた。ただ一人仕えた女主人とともにその修羅の道をすすむことは思いの外甘美な蜜の香りがする。

 今まで存在を消して生きてきた反動なのかと思うが、もうどうでもよい。

「とりあえず、陛下のご容体の発表と、その後の状況の収拾に全力で当たられるのが肝要かと存じます。リン=ガーレンディラが現在お心を乱している状況では、国政のことは公爵様が頼りでございます。ファーマムール王国よりの通信がまいりましたらお取り次ぎ致しますので」

「そなたが暗殺したことにして処理すれば全ては安寧にいくと思うが、違うか」

「左様でございますね。ですが、私がアギールである事が暴かれれば、私の背後にいるのがファーマムール王国であると知れます。ファーマムールの助力が無ければ、国の中枢は王妃様、及び修道会に賛同する派閥に掌握されても致し方のないものと存じます。これを機会として、ダール公爵様の基盤を盤石となさいませんか。

 わたしもリン=ガーレンディラの僕として、陛下の生きる場所を守ってさしあげたいのです」

 ダール公爵は、シドの申し出に乗った。

 あとは、崩御までに王印と国事を王太后の元に持って来させるだけである。

 まだ、リン=ガーレンディラは摂政権を手放してはいない。


【作者コメント】


「二ヶ月以上更新されていません」を消したくて更新しました。次話はまだです。ごめんなさい。

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