第21話 神意たる玉座 4
【作者コメント】
なんと、本日vermilion連載開始一周年記念でございました。
まさか、一周年記念投稿がこの話なんて。
どのような展開になるか、私は分かっているのですが、ちゃんと意図した方向に書けるかどうか微妙です。今後ともよろしくお願いします。
カーレルは予告した時間に西宮を尋ねた。王太后はカーレルを絵画の間に通し、そこで待たせた。
しばらく待ったあと、ようやく王太后は現れた。話し相手役を務める数名の貴婦人を従えて。
「陛下が西宮においでとは、珍しゅうございます。息災でしたか」
「はい、母上。我らの間には、現在難しい問題が積み上がっております。ですが、今日は可愛い妹の晴れの日でございますれば、たまには政治的な立場を忘れ、親と子として、シェラの門出をお祝いしたく参りました」
ミスチアは、息子の立礼を受けた。今夜は親と子の立場である。
その席であることは、ミスチアにも異論はない。
「カシスのリキュールをお持ちしました。それからシャンパンも。
帝国に嫁いだのですから、帝国風に、シャンパンで乾杯をするのも一興かと思います」
侍従がシャンパンの栓を抜き、二人のグラスに注ぐ。
カーレルの背後の、やや離れたところで、心配して随行してきたソルダス候爵の姿がある。
「エイオラ家の者であろう。王妃もわが一族なれば、叔父であるそなたもわらわのグラスを受けよ」
ミスチアが、ソルダス候爵にグラスを勧める。
その席は和やかに始まった。
カーレルにとって、公式な場をのぞき、親子してグラスを傾けるなど全く初めての事で、こうして母の近くで柔らかく微笑む姿を見たような記憶がない。それゆえに、とても嬉しかった。
思いの他和やかな場になったので、カーレルは安堵した。
そして、王太后にそっと話しかけた。
「僕は、母上と二人だけでお話させていだだきたいのですが。政治的なものではなく、僕は母子として、母上とゆっくり話がしたいのです」
王太后は、久しぶりに快い気分であったので、快くそれに応じた。
室内の者たちは、それを合図に一斉に退出しようとした。
「よい。我らが小部屋に移ろう。女官長、用意せよ」
隣室の、小さな応接室に席を移す。その部屋には若い給仕役の侍女が二人ほど控えるのみであった。
話題は主にシェラの事ばかりである。だが、ミスチアは次第に言葉少なくなってゆく。
「……そなたは少しづつ、亡きグリーダ国王に面差しが似てこられた」
「僕も、あのように立派な方になれるのでしょうか」
真摯な態度でそう語るカーレルに対して、ミスチアは、アルコールの影響もあり、また考えが違う方向へと引きずられはじめる。
「あの方のようにおなりにあそばされませんように」
そうカーレルに告げると、ミスチアは椅子を発ち、部屋の隅へと歩き出す。
「母上、どう致しました」
カーレルは背後から声を掛ける。
するとミスチアは云った。
「陛下、なぜこのような場所に居られます。
王妃は、今、支度中でございますれば、どうかお待ちを」
突然、そう云われて、カーレルは戸惑った。
「グリーダ陛下、どうか、今夜はご容赦を」
酔いが回ったせいであろうと、カーレルは側に寄る。
その様子に、薬による幻覚症状である事に気づいた侍女は、隣室で控えるシドを呼びに行った。
「お目覚め下さい、母上」
カーレルは声を掛ける。そして背後から肩にそっと手をやる。
「おやめください、陛下、ミスチアは今宵は無理でございます」
「母上、どうか正気にお戻り下さい」
正気づかせるべく、少し強請ったそのときだった。
「陛下、お願い致します。ミスチアの傷はまだ癒えておりませぬのに」
ミスチアの身体を、痛みのフラッシュバックが襲う。痛いのは嫌、嫌嫌嫌!!!!
袖の中に隠したナイフをしっかりと握り占めた。
「母上」
今一度声を掛けたカーレルの目に、何かが飛び込んできた。