第19話 神意たる玉座 2
翌日、リオンは帝国議会に入廷した。
議場は、国民議会、宮廷議会の双方とも全員の議員が揃い、栄えある日の議決に備えていた。
アールシャド帝国においては、即位に際して両議会の承認を得なければならない。それはもちろん、手続き上の形式的なことで、非承認などという事はない。これはいわば、帝国は皇帝といえど議会の承認の上に万事を行う、ということの象徴的な儀式である。
リオンはまず宮廷議会場において、満場一致で即位についての承認を得た。続いて国民議会においても。
そしてその後に、帝国教会の大聖堂において帝国教会教主よりアストレーデの開示宣誓が行われ、これにより、リオンは皇帝となる。
そして議会に戻り、両議場の間にある大ホールの玉座に座し、帝国と人々の安寧を祈り神々へ祝福を捧げ、そして皇帝名を宣し、皇帝たることを明示する。
「余、リオン・ルイは神々のご意志の命ずるところ、玉座に着くものなり。
我、以後、皇帝ティムジン八世と称するものとする」
リオンが玉座においてそう宣したとき、不思議と今までとは異なる感覚にとらわれた。皇太子となってより今までの、どこか地に足が着かず、つねに落ち着かぬ気持ちから、急に落ち着いた気持ちになったのだ。
なにか、身体の中心におもりが載ったような、手足に血がめぐるような感覚である。
玉座がいつのまにか身体に馴染んでいる。何も不安な事はない。この国の玉座にある者がすなわち、この国の中心である。その国土の隅々を感じるようだった。
これが帝位に就く、つまり、アストレーデが開示され、皇帝にその意志を伝え始めたことだと理解した。
一方、ラーフェドラス王国の玉座の間に、国王シーヴァエドナ十二世カーレル・エスファナは座していた。新皇帝の誕生は、ラーフェドラス国内でも大きな話題の的であり、そしてこの宮殿でも、シェラ王女の婚礼も併せて、華やかな席が設けられている。
カーレルは、それらには一切出席しなかった。
人のいない玉座の間には、ボディーガードが目立たぬように控えるだけで、ただ王だけがいた。
目を閉じて、思案をめぐらす。
母より摂政権の返上を申し立てる日は三日後に設定してある。
だが、その前に、母としての良識で、自ら返上するように説得できないかと。王と王太后ではなく、母と子としての個人に立ち返り、一度充分に話し合いたいという考えはおかしいだろうか。
カーレルは思い出す。
国璽の返却を求めた折りの、母の態度を。
母は自分を嫌っているのか、と思った。しかし、あれは怯えていたのではないかと。
もし、自分と母との間にあるものを、カーレルが理解できれば説得の糸口は見つかるかもしれぬ。今なら、母の元に伺う理由はある。
シェラの婚礼に際して、二人で祝うのも良いだろう。
カーレルは侍従に命じ、王太后の好みの果実酒を用意させた。
明日、婚礼が終わったら、母の元に祝杯を上げに行こう。
カーレルは玉座を降りた。