第17話 変革への道程
王国軍最高司令官ベリード元帥は、王妃の一族であるエイオラ家の筆頭従家ソルダス候爵セルドール・オムニと対面していた。
現在、元老院生産施策部長官の職にあるが、このたびの一連の変革において、国王より宰相職を担うようにと、直々に打診を受けている。
国王側の派閥としては、エイオラ家が中心を担うが、元ランディラ公であるマルファル公爵家の従家が間接的な助力を申し出ている状況である。
「グラーノ殿下が陰ながら見守っていて下さる限りは、それほど悪い状況とは思えません」
ソルダス候爵は云った。
「私は、もちろん王妃様の御為に、今回のご下命は快くお引き受けする所存でございます。
議会での選挙に正式に出馬の意図は固まっております。陛下にはそのようにご返答いただきたく、宜しくお願い致します」
「陛下は、政治的な基盤の掌握を急がれております。もし、ソルダス候家に縁のある元老議員がおいででしたら、どうぞお声をかけていただければと」
「この国の現状を憂慮する者は多い。今は大勢の影に隠れておりますが、陛下が政治の要となられた暁には、きっと基盤を支える力となりましょう」
ベリード元帥は本来、こういった政治工作には無縁であった。軍に中立性を持たせるなら、本来は政治の場に近づくべきではない。
しかし、なし崩し的ではあったが、国王の王権回復に王太后派と対立する形で立ち会う事態となり、王太后派を後ろ盾とする軍務大臣側と国王派を後ろ盾とする国軍総司令部という形となった以上、国王をもり立てて国軍総司令部に政治的な優位性を確立することが急務であった。
先のシエルダルでの攻防の際に起こった造反組の処遇もある。あれは国益に準ずれば決して造反ではない。しかし、軍務大臣派との軋轢がこれ以上大きくなり、軍の指揮系統に混乱が生じることがあれば、それこそファーマムール王国との緊張に隙をつくり、国益に反する事態となるだろう。政治的に、軍務大臣派、つまるところ、その背後のダール公爵家の権力をなんとしても弱めねばならぬのだ。
「先の造反組の処遇、彼らが謹慎ではなく、帝国国境域への移動となったことは、ひとまず幸いでございましたな」
本題が終わり、話題は軍の情勢へと移る。
「現状、謹慎させておくほど、人員にに余力はありません。大半の者の階級の格下げは仕方のないことなのでしょう。ひとまず、エイオラ家の宙域の駐留軍として、ノアイユ候爵ユーラ・エランドラ准将を参謀として、処分された将校をねじ込みましたので、そこで政治基盤が安定するまで息を潜めているしかないでしょう」
ベリード元帥はそう応じたが、ソルダス候爵は声を潜めて云った。
「あのあたりに、彼らを配備したということは、波乱を見越しての事でございますか」
その問いに、ベリード元帥はほんの少し眉を上げ、そして手を振った。
「いえいえ、決してそのような訳では。
ただ、現状で、私が単独で決定権を持つ区域があのあたり、というだけですから、あまり勘ぐられないように」
そのようにはぐらかすが、もし王太后派と国王派が分裂してしまえば、その最悪の危惧は現実のものとなってしまう。
当分、先の見えない状況は続くであろう。
ベリード元帥は、出された飲み物を飲み干すと、早速国王の許に帰還した。