第12話 昔語り2
二人の間にあって、そのやりとりを黙ってみていたシェラは云った。
「義姉様。
残念ですが、リン=ルーフェンタールの仰ることは真実ですわ。
この国の、いえ、閉ざされた宮廷の史実は書き換えられております。修道会と帝国の資料には、正確に、ファランティア掃討作戦の総司令官の名が記されております。
ソルドレア伯グリーダ・エスファナ。私のお父様の御名ですわ。
カレン先生がお持ちになった我が国の記録に、その記述を見つけたものですから、私も気になって調べてみましたの。
それで、修道会の公式文書を取り寄せて照会致しました。
我が国の、というより、王宮の公式文書は改ざんされております。
母上の命によって」
まだ幼さの残るその顔に、ひどく大人びた聡明な眼差しがきらりと光る。
厭世に甘んじていた国王に諌言した王女のその目は、常に真実を暴きだす。
「さすが、皇后として嫁ぐ御方でございます。
そのように何事にも惑わされぬ見識を持つ者が玉座の脇にあれば、リオン殿下が陛下になられた暁には、さぞ心強く思われましょう。
王妃様、リン=ガーレンディラはあくまで嘘を貫くおつもりのようですから、私は陛下に真実を申し上げるわけにはまいりません。
ですが、あなたには、真実を知ってもらわねば」
大公妃は、王妃に向き直った。
「リン=ガーレンディラが、ただ権力が惜しくて、陛下を宮廷の奥より表に出されなかったとお思いか?
あの方が守りたいのは、ただカーレル陛下を、お父上のような横暴さを持たぬようにと、ただそれだけの事。
そして、カーレル陛下は、ご自分の父君をこの上もない名君と信じて疑わぬ。
その真摯な心を守りたい親心もあるのであろう。
ゆえに、前王の記述のその点のみを改ざんし、全てを無かった事にした。
この件については、修道会が事実を進言することも出来たのであろうが、ルーサザン公とて、先の国王陛下には何かと深い因縁がおありであるから。
この度、ルーサザン公がリン=ガーレンディラより実権を回復する手段に出たのは、自らの懐を探られたくない気持ちもあったろう。
何より、あの頃の宮廷にあって、リン=ガーレンディラの身を哀れむ気持ちを抱かなかった者はまずおるまい。
年老いた政治家の気持ちの中には、まだあの当時のリン=ガーレンディラの痛ましさに同情の念を抱いたまま、付き従っておる者もある」
大公妃の昔話は、上流婦人らしい嗜みで扇で隠された口元から止めどなく溢れる。