表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

いつの間にか乙女ゲームの世界にいたけどもうすでに帰りたい

作者: 桃源

「ふっ、おもしれえ女」

「髪にうどんついてるよ取ってあげる、つるっ」

「おっとあぶねえな、ん?お前空気みたいだな」


冒頭からとんでもないセリフを読み上げる豪華声優陣のイケメンボイス。

赤面しようにもセリフに気を取られて腹筋の方が熱くなってきてしまう。

事の始まりはいつのことだったか。ちょうど1週間前の夕方まで遡る。


「やっっった!念願のイケメン学園!」


乙女ゲームが大好きだった極々普通の女子高生である、私、佐藤春花は声優陣が超豪華と話題の育成ゲーム「ドキドキ♡イケメン学園〜個性派揃いなラブラブパラダイス〜」というゲームを購入しスキップしながら帰っていた。

しかし不幸にもバイクと衝突し、気がついたらこの学園のベンチに座っていたのだ。

私だって夢かと思った。だけど寝ても覚めてもご飯は美味しいし、ゲームのキャラがそこらへんを歩いていたりするのだ。もう認めるしかないだろう。そこで私は理解して思った。もう仕方がない、この乙女ゲーム、完全攻略してウハウハ逆ハー目指してやる!思考放棄もいいところだ。

そうして立ち直ったのが三日前。授業に部活に生徒会、正直キャラクターとの接点はいくらでもあった。

だけどさ、ちょっとひどいと思うんだよね。


「おはよう、僕のマイスウィートエンジェル!今日も神のように神々しいね!……ふっそう簡単に落ちてはくれないか」

ちょっとやばい人なのかと思ってスルーしたら好感度上がったの。え、なんで?私は天使なの?神なの?どっちだよ。


「やあ子犬ちゃぁん、今日の放課後暇かい?一緒に宝探しに行かないかい?」

「あ、今度は蕎麦がついてるよ!ずずっ」

「ふっ、俺の前を歩くとは……おもしれえ」


なんで!!!!!どうして!!!!!まともな人はどこに!!!!!3日間こんな具合でストレスが溜まる一方。



「顔、顔と声がめっちゃ良くてもあれはもう……死ぬ、無理」


あ、そういえば死んだ(?)んだったな、はは。


「お、おい」

「もうやめて、一人にして……ってあれ、達也?」

絶望的な中顔をあげると見慣れた顔がそこにはあった。幼馴染の高橋達也だ。

「そうだけど、あんたどうしたんだ?うずくまって体調悪いのか?」

そういって背中をさする彼の声に安心感を覚える。私のこと、もしかしてわからないのか。感情が綯い交ぜになって涙が出てきそうだ。

私はこの世界でたくさんかっこいい顔や声を聞いてきたのに、小さい頃からずっと一緒に遊んでくれていた達也の顔の方が、声の方が好きだと思った。

そっか。私、達也のこと好きだったんだ……。それなのに死んじゃって、伝えておけばよかった。

安心感の後に来たのはとてつもなく肥大した後悔だった。堪えていた涙が次々とこぼれ落ちて達也が慌ててるのがわかる。

「あ、あれ」

それと同時に頭も痛くなって呼吸もままならなくなり、私の意識は暗い闇へとひきづりこまれていった。



◇◆◇◆◇



「春花!春花!」

「達也…?お母さん、お父さんも」


何分ぼーっとしていただろうか。意識がはっきりするまで私の名前を呼び続けていたのは、いや、なおも呼び続けていたのは達也だった。母も父も涙を流している。あれは、やっぱり夢、だったのか。冷めてよかった。


「春花、春花、好きだ!こんな時だけど、言いたくて!」


泣きながら伝えてくる達也を見て、やっぱりフツメンなんだなあと思う。それでもいい。私は達也が好きだから。多分、顔も、声も、私のためにたくさん泣いてくれたであろう彼が


「私も好きだよ」


助けてくれてありがとう。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ