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許された殺人者  作者: 黄崎うい
一章 青
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▼▼


「……んぁ。…………あ、そっか」


 目を覚まして見えた天井が自分の部屋よりも明らかに豪華だったことで眉を寄せながら不機嫌そうな顔で青が呟いた。


『おはよう、青ちゃん。よく寝れた?』


「あ、兄貴……」


 ふわりと視線の先に現れた空に青は笑顔を浮かべかけて、それを心の中だけにとどめて興味なさそうな、少しだけ寂しそうな目だけを浮かべた。夕べの話を忘れたわけではないが、何だか気持ちが軽い気がする。


「うん」


『よかった』


 空は青が浮かべたかった笑みを浮かべて本心から嬉しそうに言った。


「兄貴、今何時?」


『七時』


「カグラ何か言ってたっけ?」


『腹が減ったらいつでも来い、そうでなくても八時集合。だってさ』


 簡単に今聞きたいことだけ聞いて青は気持ちを入れ換える。良い夢を見ていた気がするが、夢は夢、現実は現実。またあの団体と顔を合わせると思うと気づいたら口がへの字に曲がるが、そうとも言っていられなさそうだ。


 さっきは浮かべることが出来なかった笑顔を浮かべて青は空に言う。


「ありがとう」


 その言葉を受けとると、空は空気に溶けるように薄くなり、姿を消した。青が着替えるのだ。


 結局あの後、カグラの声で青は起きてしまい、せっかくなのでパジャマに着替えていた。汚れているだろうと、次の日用の服まで渡されて、何故かサイズが一致していることだけは疑問だが、人の善意を踏みにじるほど青の性格は悪くない。


 カグラの趣味か他の誰かかはわからないが、無駄なフリルが付いている服だ。青を小学生か何かと間違えているのではないだろうか。身長は平均以上だし高校三年生だというのに。


「……十年ぶりくらいにこんな服着たよ。兄貴、もう良いよ」


『俺は可愛いと思うけどなぁ。これからはそういう服着ない?』


 制服のスカートも折らずに膝丈なのに膝上十㎝はある青のスカートをふわりとした穏やかな笑みで空は誉める。


「パーカーの方が楽」


 照れることもなく、青は冷たく返した。


「……焼きそばパンあるかな」


 仕方がなさそうな弱い笑みを浮かべて空が青の言葉を流すと、気不味くなったのか青がボソリと呟いた。


『あると思うよ。コッペパンも』


 頬を掻いている青を見て微笑ましげに空が答えた。


「……来いって昨日の場所だよね」


 にっこりと空に顔を見られているのが恥ずかしいのか、青は俯きながら確認するように尋ねた。


『たぶんそうだな。俺も何も言われてないし、集まれそうな場所は他に無かった』


 左上を眺めるようにして少し思い出しながら空が答える。それを青は「そっか」と小さく答えると、借りたパジャマを持ってその部屋から出た。


 やはり豪華で広い。一見シンプルで夕べは気がつかなかったが、白い壁と窓枠に微かな装飾がある。部屋にもあったが、廊下にもその装飾が広がっているのは青も予想していなかった。触ると凸凹としていてしっかりとしている。青でも高い素材だとわかってしまうほどだ。


「おはようございます、上倉様」


 ボーッと窓から見える中庭を眺めていると、青は話しかけられた。


「えっと……棧さん。おはようございます」


 棧の高い身長から見下ろされながら青は微かに笑みを浮かべて挨拶を返した。


「洗濯物、お預かりします」


 棧はそう言って青からパジャマを受けとると、軽く会釈をして階段を降りていった。


「怖くないよね、怖いけど」


『怖いよ、怖くないけど』


 階段を降りていく棧の後ろ姿を見て青が呟くと、それに答えるように空が呟いた。


 今までに出会った誰よりも背が高くて体格も良く、姿勢も良い。強面でどこかのヤクザと言われても納得できるような容姿なのに棧のことを何故か怖く思えない。雰囲気で言えば虎とか狼よりも子猫とか子犬の方が合っているような可愛らしさが滲み出ている。話をしなければ怖いのだろうが。


「ぬいぐるみとか作ってそう」


 青がそう呟くが、その通りだ。フラッと昨夜のうちに棧の部屋にも入ってその事を知っている空は、その事を言うかどうしようか悩み、笑っていた。


「どうしたの、兄貴?」


 笑いをこらえて震えている空に青が尋ねる。


「え? い、いやぁ。さ、俺らも行こうか」


 笑いとその原因を飲み込んで空は青に言った。青も頷いて階段を降り始める。階段の手すりまで良い木材に華やかな装飾がしてあり、無駄に金持ちだなと思う。


「……誰もいないじゃん」


 一階に着き、白い両開きの扉を開けると、誰もいない真っ白な部屋が静かに広がっていた。


「散らかってるなぁ、こんなんで良いのかな?」


『でも奥の方は片付いてるな。昨日夕飯食べたのもあそこだろ』


 青は数歩部屋に入り、本当に誰もいないのか確かめようとした。そして、入り口のすぐ横に積まれた段ボールと、昨日から高く積まれている木箱に青が目を止める。


「全部ネットの買い物かー」


 段ボールの宛名は全て剥がされていたが、段ボールに書かれたマークは青もよく知っているネットショップのものだった。中身は見ていないが、重いので入っているのだろう。


「まさかこれさ、カグラが座るために買ったのかな」


『さあ、でもそうらしいな。これ新品だ。しかもまた高そうなものを……』


 木箱はカグラが二、三段に重ねて座っていたのを青は覚えている。こんなものどこで買うんだかと青と空が話していると、入り口の方から声がした。


「思ったよりも早かったな、青。そっちの片付いてるところにテキトウに座っててくれ、全員叩き起こしてくるな」


 昨日とは違う寝起きなのだろうか、ぼさっとした髪に目を獲物を睨むように鋭くさせたカグラがそこに立っていた。そして、頭を掻きながら青が何か言う隙も与えずに伝えたいことだけ伝えると、カグラはまたどこかに行った。


『……とりあえず言うこときいとこっか、青ちゃん』


 何なんだ、青がそう思っていると、空が優しく青に言った。

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