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ゾッと冷たい雰囲気が青の背中を撫でた。
『あらぁ? 私だけ? 』
赤髪の少女が青の後ろに立っていた。
『いじめないであげて、あと私たちもいるじゃない』
赤髪の少女の襟首を掴んだ海によく似た少女もそこにいた。
二人の少女はまるで存在感がない。そこにいるようでいない。いるような気はするが、目にも見えるが、いるような気がしない。
『さっきも会ったわね、ナギって呼んでちょうだい。ね、青』
『はぁ、私は薮下 藍よ。海のお姉さん。こんなこと言うのもあれだけど、よろしくね』
襟を掴まれたナギは動きずらそうにしながら青の頭を撫でた。青はナギに触れられた部分だけゾッと冷たい空気に触れたように冷える。ビクッと震え、青は怯える。
『怖がらせちゃダメだよ、ナギお姉ちゃん』
怯えで俯いた青の目の前には濃い緑髪の小学一年生暗いの少年がいた。
さっきまでは誰もいなかったはず。青は驚きと恐怖で後ろに飛び上がった。
『一人の新入りの所に密集してるから怖がられるのよ。緑も』
声のする方を向くと、灰色の長い髪を緩く束ねた高校生くらいの少女がいた。
『あ、ごめんなさい……。ぼく、華蓮お姉ちゃんのところに行ってるね、青お姉ちゃん』
青の目の前の少年は深々とペコリと頭を下げてから灰色の髪の少女のところに走っていった。
ちょうどその時、ナギと藍もそれぞれカグラと海の元へと戻る。
代わりに現れたのは、青のよく知った少年だった。
『……俺の青ちゃんに何してんの? 』
「……兄貴…………? 」
黒い癖の強い髪の少年。目の前に現れた少年に空は声を掛けた。
『青ちゃん、こいつら怪しいから帰ろう』
「夢か」
「残念ながら夢じゃない。私も最初は夢を疑ったよ。それに青には記憶がないから仕方ないとも言えるのか? 」
いつもの幻覚ですらぼんやりと見えるだけなのに生きているようにそこにはっきりと存在している空の姿に青は夢を確信した。
しかし、カグラはそれを否定した。
『帰れないわよ。優しい優しい藍姉さんが教えてあげるけどね、貴女は彼を殺した代償で普通の生活を送っていけなくなってるの。どうにか今は普通でいられても後少しで全てが破裂して親も日常も全てを失うわ』
「藍の説明は相変わらずよくわからないよな」
藍は海の座る椅子の肘掛けに音もなく座りながら説明した。カグラはその説明に文句があるようにニッコリとそれを切り捨てた。
『いい加減にしてくれないか? 俺は青ちゃんの普通を守るよ』
「兄貴待って、私だけ話がわからないの嫌だから説明してもらいたいの」
空が青を守るように優しく抱き締めながら言うが、青はその手をどけて空を止めた。あのまま空に抱き締めらたままでいたら気を失う予感しかしなかった。
『青ちゃんがそう言うならいいけど……』
空は、青には優しくそう言ったが、カグラをはじめとするその他のそこにいる人を鋭くない優しい目でキツく睨んだ。
「さてと、説明上手と言えば私……と言いたいところだが、一番まともな華蓮に頼むか」
陸の側で濃い緑髪の少年……緑の世話をする灰色の少女がピクリと動き、青をじっと見た。
『……いいよ、私と緑と棧さんは自己紹介してないし、そこからはじめてあげる』