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バンッと音をたてて白い少女が扉を開けた。そして、扉の先を見た瞬間に眉を寄せて厳しい声発した。
「……おい海、残りは何処だ? 」
「陸と幹人は夕飯の買い出しにコンビニまで行ったみたいよ、カグラさん。お帰りなさい」
白い少女はその奥にいる誰かに尋ね、その誰かは答えた。青は白い少女に引っ張られる形でその大部屋の中に入り、白い少女が話していた相手を見た。
「……はじめまして、貴女が上倉青さん? 」
そう青に挨拶をした少女は青い長い髪の大学生位の少女だった。水色の夏らしいロングワンピースを身に纏い、姿勢正しく白い綺麗な椅子に座っていた。そして、その目には包帯が巻いてある。
何も見えないはずなのに少女の顔は青の方を向いていた。
「どちら様で? 」
青は気味が悪そうに視線の先の少女たちを睨み付ける。白い少女は笑うようにそれに答えた。
「自己紹介は全員揃ってからの方が良いだろ。そこら辺に座っててくれ。あ、棧。悪いがそれはお前が飲め。飲み物ならあいつらに買ってこさせるから」
いつの間にか五つの小さなティーカップに紅く良い香りの紅茶を入れた大柄の男……棧が青たちが入ってきた扉の前に立っていた。棧はそう言われて頷いてすぐにその場を立ち去ったが、青は少しかわいそうにも見えた。
「ぅおっと、ごめんな、英さん、気づかなかった」
「僕は伝えるように緑くんに言いましたよ。本当にすみませんね、棧さん」
棧が青の視界から完全に消えるのとほとんど同時に二人の男の話し声が廊下から聞こえてきた。その二人が扉から入ってくると、青はそれを見て驚いたような無視をしたくなるようなよくわからない感情を抱いた。
一人は茶髪の髪を清潔に整えた三十歳くらいの真面目な男性。もう一人は濃い緑色のくせっ毛な髪をボサボサになることも構わずに少しだけ伸ばした高校生と言われても二十代後半と言われても違和感のない少しチャラそうな青年。
見た目の印象と話し方の印象は逆に近い。茶髪の男性は声量の調整ができないのかばかでかい声で乱暴に話す。緑髪の青年は静かな優しい声で敬語を使って話していた。そして、その緑髪の青年が座っている車椅子を茶髪の男性が優しく押す。
「お嬢、夕飯ついでにいつも通り二リットルのお茶十本買ってきたぞ」
「あぁ、おかえり。陸も幹人もそれより前に言うことがあるんじゃないのか? 」
茶髪の男性が白い少女に乱暴な声で言う。白い少女が答えてから少し間を置いてから茶髪の男性が青の方を見てそれにつられるように緑髪の青年も青の方を見て二人が声を揃えて言った。
「これが青? 」
「この人が青さんですか? 」
初めの声こそ揃っていたが、言葉の長さでバラバラではあった。そして、白い少女は答える。
「そうだ。お前らも座れ、自己紹介だ」
相槌を打ってから白い少女は手をパンッと叩いて全員を座らせた。青とその他の一対四のようにも見える。
変わらず白い椅子に座る青髪の少女。その隣に車椅子を置かれ、そこに座る緑髪の青年。少し後ろに下がって床に胡座をかいてだらしなく座り、値踏みをするように青を見るが時々全く違う方を見ている黒髪の男性。その三人の中心で少し高くつまれた木の空箱の上にまるで少年のように軽い調子で座る白い少女。
その中にさっき見たはずの赤い少女は、やはり、いなかった。
「前からいこうか」
白い少女が言い、緑髪の青年が頷いて名乗った。
「僕は笛外 幹人、二十三歳です。よろしくお願いしますね、青さん」
「え、はい。よろしくお願いします……」
車椅子を進めて幹人が青に握手を求める。その手を取り、訳もわからず青は握手をした。
「次、海さんですよ」
顔がいいからなのかニコッと微笑まれたら青は何故かこの状況を許したくなる。連れ去られて閉じ込められてるこの状況をだ。考え直しても許したくはない。
「ありがとう。私は薮下 海、十九歳よ。貴女の姿は見えないけれど可愛らしい子なのはわかるわ。中学生? 」
海は一つ一つの所作を丁寧に自分を指し、青を指し、自己紹介をした。口元には優しい笑みを浮かべ、良いお姉さんのような雰囲気を感じる。だが。
「……高三ですけど」
許すなんて思ったことを後悔するほど青は不機嫌に質問に答えた。髪型や顔のせいでよく言われることはあるが、目の見えない人に言われると何処がそうなのかわからず怒ることもできず、ただ不機嫌になるしかできない。
「あら、ごめんなさいね。あまりに可愛らしかったから……」
「私は教えてたからな、こっちを睨むな」
何故か自分のことを知っていた白い少女が嘘を言っていた可能性に賭けて青はその少女を睨んだ。それも検討外れ。もう諦めることにした。謝ってもらったし。
「次は俺だな。俺は織中 陸。若く見られるのは俺も同じでこう見えても三十六だ。この中だと最年長(?)だな」
ラフな感じで変わらず大声で陸は言った。青は何も言えずに頷いたが、言われればそのくらいの年齢にも見えることができる。そんな感じでその言葉を流した。
「最後は私だ。私はカグラ、この集団のリーダーみたいな位置だと思ってくれ。さあ、一応青も自己紹介してもらってもいいか? 」
カグラは青に言う。その通りにしなければならないわけではないし、する必要もないが、他の人が自己紹介をしたのに自分だけしないわけにもいかないと青も話した。
「上倉 青、十八歳で高校三年生。受験勉強もあるので帰りたいのが今一番の心境です」
青にとってここまで勉強したいと思ったのはこれが初めてだった。
なんだかこの人たち気味が悪い。
ここにいてはいけない。
逃げたい。逃げられない。
誰かに助けてもらいたい。
誰に? 誰なら助けてくれる?
一人しか浮かばない。
助けてくれるわけがないのに、助けてほしい。
青はそんなこと口には出さないが。カグラが目の前で青の要望に答えもせずにニヤリと口を歪ませているだけ。
その歪んだ口から楽しそうに一言。
「次……五人全員隠れてないで出てこい」