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許された殺人者  作者: 黄崎うい
一章 青
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▼▼


「じゃあね、青ちゃん。お勉強、頑張るんだよぉ」


「うん、お婆ちゃん。毎年はゆっくり来るから」


 山と山に囲まれた田舎の家の玄関で青とその祖母が話をしていた。墓参りも終わり、祖母の家でお茶を飲んだ。日も傾いてきて母親から電車賃と夕食代を、祖母からお小遣いを受け取り、父親に車でも二十分はかかる最寄り駅まで送ってもらう。


 無言。


 仲が悪いわけではない。最後に話したのが結構前だったのと嫌われていると勘違いしている父親が原因でただただ気まずいだけだ。


 エンジン音とタイヤがあまり整備されていない道路を走るパチパチとした音だけが響いている。


 数時間がたったのではないかというほど体感時間で過ぎた頃、ようやく駅舎が見えた。他の車もタクシーも無く、歩行者すらもいない廃れた駅の前に父親が車を止めると、青は脱出するように車から降りた。


「……気を付けろよ」


「わかってるよ。早く帰れば? お母さん達待ってるだろうし」


 不器用そうな顔で事務的に言う父親に青が不機嫌そうに返す。つい強い言い方をしてしまったが、謝る気はない。結局何も答えずに父親は帰っていった。


「……」


 青はそのまま電車に乗る。何度も来たことのある道をただ帰るだけ。祖母の家を出たのはまだ日が傾き始めたばかりの青空だったが家の最寄り駅までつくと流石にオレンジ色の空が広がる夕方になっていた。


「……」


 最寄り駅の改札を出たときに気がついた。そんなに混んでいないはずなのに青と一定の距離をとって誰かが後をつけている。不自然にならない程度で立ち止まったり歩く速度を変えたが、足音はいつも同じ距離から聞こえてくる。


「……っ! 」


 段々気味が悪くなりながらもどうすればいいかわからず、とにかく駅舎から出ると、誰か小さな手に腕を捕まれて引っ張られた。


「お姉ちゃん、来て! 」


 見知らぬ少女だった。綺麗でおしゃれな薄桃色のワンピースを着た白く長い髪の少女だった。


 疑わしげに手を引かれながらも青が睨むと、少女は小声で言った。


「いいから、後ろは絶対に見ないでついてきて」


「え……? どういうこと? 」


 そう言いながらも青は少女はの手を振り払うことなくついていく。


 二人が走る音で後ろの足音は聞こえない。


 白髪の少女は大通りから一本裏へ。さらに奥へと進み、青の家からは離れて隣の駅の方が近いと言える地区にまで来た。


「離してっ! いい加減誰もいないし、何なのよ貴女! 」


「……もういいか。(かけはし)


 最初に腕をつかんできたときと違い、冷たい目で少女は誰かを呼んだ。


「はい、カグラ様」


 いつから止まっていたのか、すぐそこにある白い高級車の後部座席に青は押し込まれた。バタン、と、扉が思いきり閉まったが、青はすぐに逃げ出そうと扉をガチャガチャと開けようとした。開かない。


「無駄ですよ、上倉様」


「そこの扉は内側からは開けられない。そんな顔するな、心配しなくても誘拐するほど金に困ってるわけではない。用があるのは君にもだがお兄さんの方がメインだからな」


 見た目通りの小学生らしさが全く感じられない話し方で白い少女は言う。助手席に乗り込み、運転席の大柄の男に進むように命じた。


「兄貴……? 兄貴に用って四年くらい手遅れだと思うけど」


 お兄さんと言われたとき、青は血の気が引くような感じがして扉を開けようとした手を止めた。死んだ空に用事があると言われて青を誘拐されてと困る。そもそも初対面の奴等が青の名前や空の存在を知ってるなんてわからない。青はわからなかった。


『あら、心配しないでほしいわ。貴女も話を聞けば納得せざるを得ないはずよ? 』


 さっきまで誰もいなかったはずの青のとなりに存在感のない赤髪の少女が座っていた。そして、その赤髪の少女は前を向いたまま青に言った。


「なー、余計なことを言うな」


 白髪の少女は目を向けずに赤髪の少女に言った。怒っていることだけは青にも伝わった。


『ふふふ、ごめんなさいね。貴方も身構えないで。別にその可愛い妹ちゃんに危害を加える訳じゃないわ』


 赤髪の少女は青の方に顔を向け、しかしその目は青の先を見つめながら笑った。青が不思議そうにその方を見てみるとまたいた。空の幻覚が窓の外に浮かぶようにしていた。


 車は進む。駅を一つ越え、二つ越え、三つくらい越えたところの洋館に車は入っていった。


 入ってきた門はガチャリと重々しい音で鍵を閉められ、もう出られない。


「さ、降りなさい。棧、人数分の紅茶を用意してから来るように」


 白い少女は青を車から降ろす。何故だか抵抗する気も逃げる気もなくその子に従った。後ろを振り向いてもどこを見ても赤い少女と空の姿はない。


「二人で話してるんだろうよ、気にしないで行こうか」


 白い少女は青に右手を差し出して洋館の扉を開き、その中に青を招いた。


 そこは青も知っている高級住宅街だったが、その中でも目立つ広い広い敷地を持ち、日本だとは思えないほどの西洋的な外観の館だった。


「……何かあったら通報するから」


「通報か。勝手にするといいさ」


 差し出された手を取らずに青は警戒している目で白い少女を睨みながら言うと、白い少女は微かに口の端を上げて言った。


 見た目以外は小学生とは思えない。大人びた小学生と言うよりも九歳くらいで時間が止まってしまったようだ。

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