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白くよく洗浄されたいわゆる高級車の後部座席の真ん中で水色のワンピースを身に纏った小学三年生くらいの少女が足と腕を組んで不機嫌そうに横を向いていた。
「……カグラ様? 」
「え? 何、呼んだの? 」
ハンドルを両手で十時十分、しっかりと握ってスーツを堅苦しく着こなした大柄の男が少女に声をかけた。
「いえ。退屈なのかと思いまして」
「あぁ、退屈よ、確かに」
安全運転のために正面から目を一切離さずに大柄の男は空気だけで少女を気遣うような言葉をかけた。少女はその言葉に空を仰ぎながら答える。
「では時間もありますし、次のサービスエリアで何か買いましょうか? 」
「そうね。お腹は空いてきし、賛成よ」
二キロほど先にサービスエリアがあることを確認すると、大柄の男は、わかりました、とバックミラーに映るように笑顔を作った。
そして、また無言が続く。重苦しく夏なのに冷たく凍りつきそうな空気が社内に閉じ込められるように濃度を増していく。
『───あ』
三十秒ほどの沈黙なのに五分は誰も何も話していないような空気を壊すように少女だけに聞こえる声がした。そしてその直後、バチンッ、と、何かが弾ける音がして車が止まった。
「ちょっと、何するのよ」
『ごめんなさいね、カグラ。でも見て、あの軽自動車の助手席の後ろ。見辛いけど、そうじゃない? 』
いつの間にか少女の隣に存在感のない別の少女が座っていた。そしてその少女は窓の外を指で青が乗っている紺色の軽自動車を指した。青もその車も止まっている。それだけではない。周りの他の車も運転席の大柄の男も全く動く気配もない。
「見辛いなら私がわかるわけないでしょ」
『なら降りて見に行きましょうよ。見るって言うまで進めないわよ』
ガチャ、と、車の扉を開けて存在感のない赤髪の少女が元からいた白髪の少女の腕を引っ張る。
「そういうの、脅迫って言うのよ。なー」
『いいじゃない、脅迫でも』
シートベルトを嫌々外して白髪の少女は外に出る。軽自動車の窓に顔を近づけて中をよく見ると何も言わずに振り返り、高級車の元いた真ん中の席に戻り、シートベルトをした。
『カグラ? もういいのかしら』
「良いから戻ってきて」
そう言いながら白い少女は車の扉を大きな音をさせながら思いきり閉めた。
いつの間にか赤い少女は白い少女の隣に座り、話を聞く体勢になった。
「進めたら藍のところに行ってあの女の子を見張るように伝えて、華蓮に後を付けてもらって。なー、お願いね」
『はぁい。可愛いカグラの頼みなら聞いてあげる。じゃあ、進めるわね』
また何かが弾けるような音が響いて車が動き出した。何事もなかったかのように大柄の男も運転を続ける。
「カグラ様、どうかされましたか? 」
さっきまでとは逆の方を見ている少女に男は尋ねた。
「何でもない」
冷たく返事をし、少女はまた空を仰いだ。
後部座席には一人しかいない。小さな小さな白い少女が一人だけ。いつの間にか赤い少女はいなくなった。
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