第4話 単刀直入に
彼女は、サイドテールに結わえられた髪をぴょんと揺らし、きっちり着込んだ制服のプリーツスカートを翻すと、来訪者たる巧真のほうを振り返った。
『ふむ。妾には劣るとはいえ、なかなかに可愛いらしいではないか』
脳内で同居人が率直な感想を口にした。
鬼姫に劣るかどうかはともかくとして、たしかに巧真の目から見ても、そこにいた女生徒が美少女というに相応しい容姿であるのは違いなかった。
胸に下げられた蒼玉のペンダントが、より一層に美貌を引き立てている。
女生徒は少年の姿を瞳に映すと、すぐさま視線を鋭く細めて、キッと睨みを利かせてくる。
巧真の全身に殺気が襲い掛かってきた。
「わたしの呼び出しに応じてくれて、ありがとうございます。一応、確認を取っておきますが、あなたが『怪魔殺しの鬼姫』ですね?」
「…………まずいな」
巧真は思わず呻くような声を漏らしてしまう。
女生徒が身に纏っている気配は、まるで凶悪な刃のようだった。あどけない顔立ちと、その華奢な体躯には似つかわしくないものだ。
明らかな敵意を向けられたこともショックであるが、それ以上に問題だったのは、
『ほう。よもや妾をその蔑称で呼んでくれるか。可愛らしい娘でなければ、危うくいますぐに殺してしまうところだった』
冗談めいた口調であるのに反して、冷たく凍ったような声音だった。鬼姫の静かな怒りが、嫌なくらい巧真にも伝わってくる。
『だが次はない。小娘を死なせたくなければ、主がどうにかしてみせるしかないぞ』
「あの、聞こえませんでしたか? あなたが『怪魔殺しのお――――」
「それ以上はいけない! ちゃんと聞こえてる! あと、これからその別名は『殺鬼姫』とか、そんな感じで省略して呼ぶようにしてくれ!」
「は……?」
女生徒の言葉を慌てて遮って、巧真は必死にそう叫んでいた。
肉体に同居する鬼姫は、『怪魔殺しの鬼姫』という二つ名が好きではなかった。理由は単に「美しくないから」とのことで、彼女は忌み嫌うその称号を略すことによって、『殺鬼姫』と改名した経緯がある。
そのことを知っているのは、おそらく現状では巧真だけなのだが。
「さつ、き……ひめ? よくわかりませんが、とりあえずわかりました……」
女生徒はいまいち意味を理解していない様子で首を傾げたが、ひとまずこの場は収まったということでいいだろう。
巧真は額に吹き出た冷や汗を拭って、どっと溜まった疲れをため息と一緒に吐き出した。
それから改めて訊ねる。
「で、アンタが俺の机にラブレターを仕込んでた犯人ってことでいいんだよな?」
「らぶれたー? それは、えっと、わたしが書いた手紙のことですか? それなら、たしかに犯人はわたしで間違いありませんが……」
このとき巧真は確信した。
いきなり睨まれたり、殺気をぶつけられたりして察してはいたが、この呼び出しは絶対に色恋沙汰とは無縁なものだ。
なにせ女生徒はラブレターの意味すらわかっていない。
ハートシールまで貼っておいて、なんとも紛らわしいことをしてくれる。
「まあいいや。手紙には『興味がある』って書いてあったけど、愛の告白じゃないなら俺にどんな用件があるってんだ?」
「はい。では単刀直入に――」
小柄な女生徒は胸いっぱいに空気を吸い込んで、
「いまここで、あなたという悪を滅させていただきます!」