魔獣と魔物
ようこそ知恵の塔へ。みんな大好きエールベンだよ。今回は魔獣と魔物について語って行こう。
まずは魔獣の方から説明しよう。
とは言っても魔獣の定義はとても簡単だ。「魔力を持った生物」、それが魔獣さ。
まぁ、この世界には魔力を持たないものなんて存在しないから、魔獣は全ての生物と言っても問題ないかも知れないね。極論、人間だって魔獣と言える。
······いや、「魔力を持たないものなんて存在しない」というのは少し前に誤りになったんだったね。ユキ君という存在が出来てしまったから。本当に彼は例外ばかりで困ったものだ。
話を戻そうか。一応魔獣の定義的にはそこら辺に生えている雑草すら魔獣ではある。
でも、雑草に向かって「魔獣だ」なんて言う人間はいない。地球世界でも雑草を見て「生き物だ」なんて言う人間はいないだろう。それと同じことだ。
じゃあ、一般的にはどういう存在を魔獣と呼ぶのかと言えば、「魔獣特性」を持っている存在を指すことが多いんだ。
人間が「種族特性」、「能力」、「魔術」、なんていう力を持っている通り、魔獣達もそれぞれ独自に進化していて様々な能力を持っている。
これを主に「魔獣特性」と呼ぶんだ。まぁあ名前の通り人間の「種族特性」の魔獣版だね。というよりは人間という魔獣の魔獣特性が種族特性なのかも知れないけどね。
あ、「種族特性」が分からない人は「人類種説明」獣人種を読んでね。
でも一応魔獣と言えば人間以外の特殊な力を持った生き物のことを指すということは覚えていて欲しい。地球でいう野生動物のことだと思ってくれてもいいかも知れないね。
魔獣の特徴としては魔獣特性以外に個体差が激しいと言うのもある。これは人間も魔獣であるということを考えれば分かりやすいかな。
これで一番困るのは冒険者ギルドだ。冒険者ギルドには討伐する魔物に第十級から第一級の等級に分けている。これによって冒険者が自分の実力にあった魔物を討伐出来るようになっているのだけど·····魔獣を等級分けするのは難しい。
同じ種族で同じ見た目でも第十級から第一級まで全く実力が違うなんていうことすら有り得てしまう魔獣を正しく等級分けするのは難しいからだ。
だから冒険者もあまり魔獣を討伐しようとは考えない。個体差が激しい魔獣はどうしたってリスクが大きいからね。素材としても魔物よりも特別優秀という訳じゃないし、あんまりこの世界では起こらないけど魔獣は乱獲したら普通に絶滅するしね。
でも実はこれはそんなに問題じゃない。理由は簡単。魔獣は積極的に人間と敵対しようとはしないからだ。
魔獣は基本的には能力以外は地球の野生動物とかわり無い。人間の方からちょっかいを出す、または、何らかの切実な理由があったりしない限り、魔獣側に人間を襲う理由は特に無い。
だから冒険者ギルドも基本的には魔獣に手を出さない。リスクばかり大きくて見返りが少ない魔獣討伐は誰も得しないからね。積極的に討伐するのは畑を荒らされた地方の農家ぐらいだろう。
人間と魔獣は共存というよりはお互い不可侵な関係なんだ。
ただ、今説明したのはあくまで野生動物としての魔獣のことだ。当然例外は存在する。主なものは二つ。
一つ目は虫だ。虫系の魔獣は基本的にはとても弱い。でも数が多く、環境適応能力がとても高い。
そして何より虫系の魔獣にとって魔力を多く含む人間の身体は苗床としてとても優秀なんだ。だから獣系の魔獣に比べて、積極的に人間を襲うんだ。
街中に大規模な巣でも作られようものなら最悪だ。実際、街中の人間が虫の苗床になって滅んだ街も多くある。
だから人間側も他の魔獣とは違って虫系の魔獣に関しては討伐対象に設定している。
二つ目の例外としては、虫系の魔獣の敵対関係とは逆に共存関係の場合だ。
例えばペット。単純に愛玩用のペットもいるにはいるが、ここでいうのは所謂、猟犬などのパートナーのことだ。
冒険者や騎士には魔獣を使役するものなどがいるし、馬に似た魔獣に車を引かせる馬車も存在している。そういった一部の魔獣は人間の供として共存関係にあるんだ。
ただペット以外にも人間と共存している魔獣がいる。魔獣の中には人間と同レベルで思考できるものも存在しているからだ。
その中でも特に知能、戦闘力、特殊能力、他にもあらゆる点において人間よりも優秀な三種の魔獣のことを「三大魔獣」と呼ぶんだ。
ハル君の種族でもある「九尾」はこの三大魔獣の一角だね。当然あと二種いるんだけど···「九尾」の詳しい説明も含めてまた今度にしようか。
さて、魔獣とはなにか分かってきた所で今度は魔物について話そうか。
結論から言えば魔物は生き物ではない。
この世界では魔素と呼ばれる物質が至る所に存在している。食べ物にも水中にも宇宙空間でも魔素が存在しない場所というのは存在しないものと思ってくれていい。
·········ここでまた例外としてユキ君が出てくるのだが、当然、省略だ。
その魔素という物質が一定以上の密度と量が集まると魔物が発生するんだ。言ってしまえば魔物というのは雨や雷といった自然現象に近いね。
だからか魔物というものには生物としての本能や知性は存在していないんだ。
しかし魔物にも目的はある。それは魔素を集めることだ。
血も肉も魔素で構成されている魔物は、定期的に魔素を補給しないと死んでしまう。空気中の魔素を取り込むことも出来るけど、多くの場合、それだけでは足りない。
だから魔物は人間を――正確に言えば魔力を多く含んだ存在を食べることで存在を維持しようとするんだ。
また、魔物は大量の魔素を吸収することでより強く進化することもあるんだ。それを知ってか知らずか魔物は魔力を求め続けるんだ。
だから魔獣と同じような関係はありえない。魔獣は積極的に人間を襲うし、知性の無い彼らをペットやパートナーとして扱うのは無理だからだ。
でも実はお互いの不可侵なら一時的には可能なんだよね。何故なら魔物は自分が発生した魔境から基本的に出ないからだ。
これは魔素で構成されている魔物にとって魔境の外というのは不快な場所だからと考えられているよ。
だから魔境に入ることをしなければ一時的に魔物と関係を断つことは出来る。でもその方法はいつか破綻する。
魔物大行進が起こるからだ。
魔物大行進というのは魔境から魔物が一斉に溢れて出てくる現象のことだ。
誰かが魔物の駆除をしなければ魔物というのは延々と溜り続けるんだ。そうなれば当然魔素の濃度がどんどん下がる。そして魔境の外と魔境の魔素濃度が同じレベルまで下がれば魔境に溜り続けた魔物が魔素を求めて魔境の外に出てくるんだ
これが魔物大行進だ。
魔物大行進を止めるには魔物を定期的に間引き続けるしかない。だから人間と魔物の共存は不可能なんだ。
それにもっと現実的な話をすれば食料問題もあるしね。
魔物は魔素から構成されているけど、倒せば身体はしっかりと残るし、魔物の肉は意外に普通にうまかったりするんだ。
だからこの世界で肉に困ることはほとんどない。魔物は魔素がある限り永遠に湧き続けるからね。そういう意味では魔物は無限の資源とも言えるかもね。
それに魔物の体内には魔石という物質があるんだけど、これは様々な分野で必要な物質で常に需要が尽きないから冒険者の主な収入源になっているんだ。
これで魔物の説明も終わり·····と、言いたいところだけど、もう一つだけ。
それは魔人という存在だ。
魔人は人とついているけど人種ではない。そもそも生物ですら無い。何故なら彼らは魔物の一種だからだ。
当然魔物というからには親も兄弟もなく、魔境で虚空から生まれる。というか魔人というのは何か特定の種族を表している訳じゃないんだ。
意思を得た魔物······それが魔人だ。
先ほど教えた通り、魔物というのは現象の一種に過ぎず、そこに本能や知性と言った生物特有のものは存在していない。
でも極々稀に自意識を持った魔物が生まれる。彼らは自分の意思で考え、成長する。それが魔人という存在だ。
魔人には知性がある。でもだからと言って人間と共存できるかと言われれば答えはノーだ。
それには様々な理由があるが、一番はやはり倫理観が無いのが一番だろう。魔人は魔物と違い知性も自意識もあるが、本能だけは存在していないんだ。
死にたくないという本能が無い以上、死なせたくないという考えも起きないのは当然のことだ。
どんなに知性が育とうと魔人にとって人間とは魔力を含む、餌ということには変わりないのだ。
魔人は知性がある分、効率的に魔素の収集が出来る為、他の魔物よりも強く成長することが多い。でも、当然人間側も魔人の脅威が分かっているから、その存在を感知すれば本気で討伐しようとする。
だから本当に大成できる魔人はほんの一握りだ。
·······が、逆にほんの一握りの魔人は容易に手を出せないほど強大に進化する。そうして、ある一定の力量を超えた魔人のことを「魔王」と呼ぶんだ。
魔物は魔素がある限り永遠に進化し続ける。それは魔人も同じこと。だからこそ「魔王」となった魔人はまさに人類の脅威と言っていい。
さらに「魔王」の中でも最強と呼ばれる存在が九体いるんだ。彼らは一般的に『九天魔王』と呼ばれていて、彼らの力量は正に世界最強クラスなんだ。
彼らについての詳しいことは・・・また今度にしようか。
今日はここまでだ。魔獣と魔物のことは分かってくれたかな?ただ正直な話、魔獣も魔物もその詳しいことが分かっている訳じゃないんだ。あまり事前知識を絶対視しない方がいいかもね。
では皆さんが真理に至ることを願っているよ。さようなら。