冒険者ギルド
ようこそ知恵の塔へ。みんな大好きエールベンだよ。今回は、冒険者ギルドについて語って行こう。
冒険者ギルド。ユキ君の故郷においてファンタジーの定番とも言える組織だね。まぁ、実際それをそのままイメージしてくれても大きく異なるということは無いと思う。
基本的には冒険者という魔物や魔獣退治を専門としている人たちを統括している組織だ。世界中に支部があって日夜多くの魔物や魔獣が冒険者によって持ち込まれているんだ。
ただ冒険者は誰でも成れるという訳じゃないんだ。もし犯罪者なんかが冒険者になっちゃたら困るからね。
冒険者に成る方法は3つ。
一つ目は、身分が確かな人間による推薦だ。ユキ君達は、スイ君の推薦で冒険者で成っていね。この場合、登録された人間が問題を起こした時推薦した方も責任を取らなくてはいけないから、あまりポピュラーとは言えない方法かな。
ちなみに冒険者の推薦によって冒険者になる時は、最低でも推薦する側が第五級以上じゃなくちゃならないよ。実際信用出来ると判断されるにはそれぐらいからなんだ。
二つ目は、冒険者学校を卒業すること。この方法で冒険者になる者が一番多いんだ。
とは言ってもこの方法は実質一つ目と同じと言っていい。何故なら冒険者学校は冒険者ギルドが作った物じゃないからだ。各国が作った冒険者学校を卒業した時、各国がその身元を保証し、冒険者に成れるというシステムだ。
ん?冒険者学校が何か分からない?
そうか。じゃあ少し話が逸れるが、この冒険者学校という物について詳しく説明しようか。
それにはまずこの世界の出生率について語らなくちゃいけないね。身近に死の危険が多くあり人口がそこまで多くないこの世界では、一家庭につき十人近くの子供が生まれるんだ。
これは現代地球日本の平均からすれば異常に見えるかも知れない。でも日本でも昔は普通に4,5人の子供はいたというよ?それにこっちの世界では人が少ない分一夫多妻も許されているからね。余裕で十人を超える家庭は少なくないんだ。
だが。だがだよ。それだけ子供が多いというのと、それを養えるかどうかは別問題だ。魔物や魔獣がそこら中を徘徊しているこの世界で大規模な農業は不可能と言っていい。代わりに肉類には困らないがね。
まぁ、つまり何が言いたいかと言うと、貴族や一部の豪商を除いて多くの家庭では子供を持て余すんだよ。子供全員を養えるほどの稼ぎも、継がせられるほどの土地も持っていないからね。かと言って子供を奴隷として売り飛ばすほど非情じゃないし困窮もしていない。
一方国の方としては魔物や魔獣が跋扈するこの世界では常に兵力不足だ。それに、一般家庭で余った人間が犯罪に走るのも困る。
国は人が欲しく、一般家庭では人が余る。じゃあ、国が全員雇う、というのは金銭的以上に信頼的に不可能なんだ。なんの身元の保証も無い人間を軍人として雇うのは他の国のスパイなども考えられる以上難しいしね。
結果、余った人間の行く先が冒険者だ。冒険者ならスパイの心配が無い(冒険者ギルドを潰した所でほとんどの人間にはメリットが無い)し、平民としても兵士なんか堅苦しい職業より自由な冒険者の方が人気が高い。
しかし、先ほど言った通り犯罪者などを冒険者にする訳にはいかない。それにまともな戦闘経験が無い人間が冒険者になった所で無駄死にがせいぜいだ。
ということでお互いの主張を取り込んだ上での折衷案が冒険者学校だ。
国としては冒険者学校の維持費だけで余っていただけの人間が、国を潜在的に支える兵士になるし、冒険者ギルドとしては数年戦闘訓練した身元がはっきりとした人材を多く獲得出来る。
だから、冒険者学校のほとんどは無償で入学出来るのに対して、意外と設備がしっかりしていることが多いんだ。質のいい人材を安定して冒険者に出来れば、将来国が危機に陥った時に恩を感じて助けてくれることがあるからだね。
もはや、冒険者学校は人材育成という意味で一種の産業と言ってもいいかもしれないね。実際各国はどれだけ有能な人間を育成できるかを競うようにしており、冒険者学校対抗の大会なんかも存在しているぐらいなんだ。
でもこの方法にもデメリットはあるんだ。それは命の危険。冒険者学校では文字などの必要最低限の知識以外はあまり教えてくれないんだよね。じゃあそれ以外は何しているのかと言えば、戦闘訓練だ。
実際に魔境に言って魔物を狩ってくる授業なんかもある。そして学校だからと言って命の保証をしてくれるほど冒険者学校は甘く無い。ほとんどの冒険者学校では、卒業出来るのは入学した人間のうち4割程度しかいないんだ。
当然6割の人間全員が死んだ訳じゃないけど、しかし冒険者学校では毎年少なくない人間が死んでいるのも事実なんだ。無償で入学している以上冒険者学校側としてもわざわざ愚図を救いあげるメリットは無い。一部の人間がしっかりとした冒険者になってくれれば、満足なんだ。
まぁ、唯一の救いは、厳しい分冒険者になった時冒険者学校卒業者は「学校上り」と呼ばれて一目置かれるんだ。これはパーティーやギルドを作る時とても役に立つらしいね。
冒険者学校についてはこれで分かってくれたかな?じゃあ話を戻そう。冒険者の成り方だったね。
三つ目は、無理やり冒険者になる方法だよ。一応多めの手数料を取られるとは言え冒険者では無くても魔物や魔獣の素材は買い取ってくれるんだ。それと同じで、身元の保証が無くても冒険者になること自体は出来るんだ。
とは言っても、この方法は控えめに言ってもおすすめ出来ない。
まず、何度も繰り返すようだけど信用が違う。この方法で冒険者になった場合「学校上り」とは逆にパーティーやギルドを作る時、とても苦労するんだ。人によっては、この方法で冒険者に成った者は皆犯罪者だと考えている人間も少なくない。
そして何より、この方法で冒険者に成った場合第十級冒険者からではなく、第無級冒険者として最初登録されることになるんだ。
この第無級というのは、冒険者としての様々な特典を享受出来ないうえ、「お使いクエスト」と呼ばれる街の中で完結している依頼しか受けられない。魔物や魔獣の素材の買い取りすら一般人と同じでかなり天引きされてしまう。
その上、一度第無級になると普通の冒険者と言える第十級にあがるのは相当な努力と年月が必要になってくるんだ。
第無級になるくらいなら、冒険者学校に入学した方が断然ましと言える。
じゃあ、そんなものになる人間はいるのか?実は結構存在している。
今すぐ冒険者にならなくてはいけない者、「お使いクエスト」を文字通りお小遣いとしたい街の子供、冒険者学校のある街に行くお金すらない貧乏者。他にも様々だ。
ただ、この方法で冒険者に成った者で大成出来る者はほとんどいない。いくら戦闘力があっても経験も知識も無い人間が大成出来るほど甘い職業じゃないからね。
さて、冒険者の成り方は分かってくれたかな?他には・・・あぁ、冒険者の等級についての話をしようか。
先ほどから、第無級や第十級なんかいろいろ言っていたが、これが冒険者ギルドが定める等級なんだ。
これは、それぞれの戦闘力等の要素によって上がり下がりが起こり、数字が小さい程強いと考えてくれていいよ。
この等級は無級ともう一つ特別な等級以外は十段階に分けられる。詳しく以下の通りだ。
第十級 成り立て
第九級 駆け出し
第八級 三流の中でも下位
第七級 三流の中でも上位(一番人が多い)
第六級 二流の中でも下位
第五級 二流の中でも上位
第四級 一流(一般人の限界)
第三級 天才
第二級 天才の中でも一握り
第一級 化け物
と大体こんな具合だね。上のも書いてあるけど普通の人はせいぜい成れて第四級が限界。というか第五級からは一目置かれると言っていい。第三級以上は何らかの特別な何かが必要になってくるんだ。
ちなみに第十級から第九級は割と簡単に上がるけど、それ以外は一つ等級上げるのに数年の時間は必要になってくる。結果通常、第五級か第四級になる頃には身体が全盛期じゃなくなってきてしまう。そういう意味でも通常そこが一般人の限界と言える。
それ以上の等級になるには、ふさわしいだけの特別な実績か、寿命の方をどうにかするしか無い。
ちなみに等級制度は冒険者だけじゃなくて魔物の強さにも適用されている。これは同じ数字の冒険者が三人で連携した場合倒す事が出来る強さと言われているよ。ただ当然だが相性というものは存在するので絶対とは言えないけどね。
あと、冒険者ギルドについて語ろうと思ったら外せないのが、依頼についてかな。
冒険者の基本収入源は魔物や魔獣の素材の売却を除けばギルドの発行する依頼による所が多いだろう。依頼というのは、まぁ、文字通りなのだが、市民や国から要請された仕事のことだ。
じゃあ、どのような依頼があるのか?一応本当に様々な種類があるものの主要な物は「お使いクエスト」「討伐依頼」「素材依頼」「護衛依頼」の四つだ。
「お使いクエスト」は、街の中などで終わらせることの出来る比較的簡単な依頼のことだね。先ほどの説明でも出て来たけど第無級の人はこの種類に分類される依頼しか受けることしか出来ないんだ。
正直「お使いクエスト」はあまり冒険者らしい仕事とは言えない。報酬だって安いことが多いしね。実際この依頼はお世辞にも人気とは言えないだろう。
でも、じゃあどうでもいいか、と言うとそれは違う。冒険者は決して一人で出来る職業では無い。武器を買い、防具を買い、それらを整備し、道具を買え揃え、食料を準備し、他にも様々な準備をしたうえで初めて仕事をすることが出来る。
それらは決して一人でどうにか出来る物じゃない。多くの人に支えられて仕事をしているんだ。そうした冒険者にとって街の人たちからの印象というのは少なくない影響を及ばす。そういう意味では「お使いクエスト」は、最重要な依頼と言っても過言では無いだろう。
「討伐依頼」は、何らかの被害を出した魔物や魔獣の討伐を依頼するという物だね。
これは、地方の村や領地を治める貴族が多く依頼する物で、数こそあまり多くは無いものの基本的に緊急性があるので報酬がいいことが多い。特に貴族からの依頼は、恩を売ることも出来るのでそれなりに人気が高い依頼と言えるだろうね。
「素材依頼」は、指定された素材を集めてくる依頼だね。これが依頼の中で最も数が多くて冒険者達の基本収入はこれと言えるだろう。
「素材依頼」の多くは魔物や魔獣の素材や、魔境などの草や鉱石等だが地域によっては違う所もあるんだ。例えば「迷宮都市」という場所では古代の技術で作られた人工的な迷宮があって、ここでは古代の遺物を採掘して欲しいという「素材依頼」が常に発行されているね。
さて最後は「護衛依頼」だが・・・これは冒険者にとって最も重要な依頼と言っていい。
魔物や魔獣という強力な存在がそこらを跋扈し、人によっては個人で一国を滅ばすことも出来るこの世界。当然だが、力を持った護衛というのは常に需要が尽きない。
だが、考えて欲しい。護衛が欲しくなる度にギルドに依頼を出し手数料を取られ、その上、冒険者が依頼を受けるかどうかは冒険者次第。もっと言えばきちんと護衛出来る者に当たるかどうかは運次第。これは余りに非効率ではなかろうか?
一方冒険者側だが、先ほど語った通り多くの者は口減らしとして成る。だから、より安定して安全な職業につけるとなれば、冒険者なんか簡単に止めてしまう者は少なくない。人間である以上、歳による限界も存在してしまうしね。
だからこそ護衛を雇う側は毎度冒険者に依頼するのでは無く個人的に契約したがるし、冒険者側も安定した報酬が欲しい為雇い入れて欲しい。そうして多くの優秀な冒険者は冒険者を止め、個人的に雇われてしまうんだ。正にお互いがウィンウィンな関係と言える。
ただ当然だが、デメリットも存在する。大きな所はお金と名声だろう。高位冒険者が狩る魔物や魔獣の素材は莫大な金銭となるし、名声だって上がる。これはただ護衛しているだけでは決して手に入らない物だろう。
まぁ、つまりは「護衛依頼」というのは冒険者にとって分水嶺と言っていい。冒険者という職業を手放し安定した生活をするか、危険を冒して冒険者として大成する道を選ぶか。冒険者としての器が図られる決断と言えるね。
ふぅむ。細かい所を除けば冒険者ギルドという物のことは大体分かってくれたかな?残りはユキ君達の冒険を見ながら学んで言って欲しい。
では皆さんが真理に至ることを願っているよ。さようなら。