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外道ゴブリンは邪神の下で  作者: 飛坂航
邪神の祝福または呪い
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怒れる騎士

「それで、貴女方は邪教徒を取り逃したと?」  


 開口一番放たれた爆弾に、抑えきれない憤りと共にガウェインは聖女を睨みつけた。


「……そうです」


 無表情のまま口を開かない聖女に代わり、クシュナーが前に出てきた。


 どうかこの聖女が黙ってくれないものかと祈ったが、このような形では嬉しくもなんともない。


 都合が悪くなればクシュナーの影に隠れだけか。


 ガウェインの怒りがさらに激しく燃え上がる。


「我々の兵士を下げて、わざわざ聖女殿単独で行った結果でしょうね」


「神がそれを望まれたのです」


 普段のふざけた口調を作る余裕がない聖女。

 出たよ。ガウェインは喉の奥で低く笑った。


 聖職者どもの最後の言い訳だ。


「では、神は貴女に失望されるでしょう」


「何ですって?」


 蒼白な顔に怒りを滾らせながら、聖女は一歩前に進み出た。


 背の低い聖女たが、流石に座っているガウェインよりは高い。


 しかし、ガウェインは気にせず鼻で笑った。


「聞こえませんでしたか?それとも聞こえるように神に祈りますか?」


「神への侮辱は許しませんよ」


 低い声を出す聖女にガウェインは軽蔑の表情を向ける。今更こいつは何を言っているのか。


「お気づきになりませんか?これは貴女への侮辱です」


 完全に激情した。側から眺めていてもそう確信できる鬼気迫る聖女に、ガウェインは威圧するように立ち上がる。


 それで、私が臆するとでも思ったのか。


「お二人とも、落ち着いてください。ここで我々が争ったところて邪教徒を喜ばせるだけです」


 クシュナーに宥められガウェインはゆっくりと椅子に戻った。


「なににせよ、我々はこれ以上兵を出すことは不可能です」


 ガウェインは硬い表情で言った。


 森は人類にとって危険な土地だ。蛮族に魔物、視界を遮る樹木。


 やっとの思いで砦を築いたのだ。失うわけにはいかない。防衛につく兵士を他に振り分けろとは無理な相談だ。


「捜索には数がいるのです」


「防衛にもだ。これ以上兵の数が減れば補給線を寸断されかねない。そうなれば1500の軍勢は、1500の餓死者になりかねん」


 ただ、一つ厄介なことがある。邪教徒とというくだらない問題は同じくらい深刻なのだ。


 放ってはおけない。


「これは提案なのだが、その邪教徒を賞金首にしてしまってはどうだ?」


「冒険者どもを使うのですか?」


 渋い顔をしたクシュナーを宥めるようにガウェインは笑う。


「そうだ。値段によれば開拓ついでに探す者も増えよう」


 クシュナーは相変わらず渋い顔をしている。まあ、ヤクザ者を大好きな聖戦に使おうなんて聖騎士はいない。


 ただ、聖女は乗り気なようだった。


「私はぁ、それが良いと思いますぅ。ね、クシュナーさん?」


「聖女殿が仰るならまあ……」


 クシュナーの腕を取る聖女は完全に元の妖婦ぶりを取り戻していた。


 妖婦というより場末の娼婦が近いと思うが、そこはどうでもいい。


 テンプレ、だのキタコレだの呟いていることも気になるが、多分些細なことだろう。


「決まりだな。さて、私は仕事があるので……」


「ええ、知恵をお借りして良かった」


 一礼して部屋を辞したクシュナーを見送ったガウェインは怪しげな笑みを浮かべて立っている聖女に目を戻した。


「聖女殿、申し訳ないが……」


「私に跪け」


 その言葉を脳内で反芻し理解し終える前に、ガウェインの体は膝をついていた。


 理解できない自分の行動に、ガウェインの思考に空白が生まれる。


「な、にを?」


「ガウェインさぁん、貴方私のこと馬鹿にしすぎだと思うんですよぉ」


 膝をついたガウェインの背に聖女は腰掛けた。


 体が思い通りにならない苦痛に晒されながら、ガウェインは殺意のこもった眼差しを向ける。


 なおも聖女は話し続けた。


「今回はぁ、不問にしますけどぉ、今度私に拒否したらぁ、ひどい目にあわせちゃいますから」


 パンパン、とガウェインの頭を叩いてから聖女は部屋を出た。


 直後ガウェインの硬直が溶ける。


 ゆっくりと実にゆっくりと立ち上がったガウェイン。それは嵐の前の静けさに他ならない。


 表情をなくしたガウェインは机に拳を叩きつけた。


 鍛え上げられた騎士の拳は(オーク)でできた牢固な机を凹ませるが、まだ足りないと殴りつける。


 遂に樫の机を叩き割ったガウェインは途中で入ってきたポドリックに視線を移した。


 巻き込まれたくないと端に寄っていたポドリックがビクリと肩を震わせる。


 そんなに怖がるなよ。


「新しい机と羽根ペンとインクを持ってこい」


「はっ」


 ガウェインはまだ冷めやらぬ怒りを奥歯で噛み潰した。


 冷静になれ。あのくそ女は愚かにも自ら手札を晒したのだ。事前に知っていれば打てる手は少なくない。


 ポドリックに指揮された従者たちが運んで来た机で、ガウェインは王都に精神汚染の対策の必要性をしたためた手紙をしるす。


 信頼できる騎士に手紙を預け、すぐ王都に発つよう命じた。


 後は、ここでどうにかしよう。

 唯一まともと言っていいガウェインさんを書いていると心が安らぎます。酷い目に遭ってますけど。

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