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外道ゴブリンは邪神の下で  作者: 飛坂航
邪神の祝福または呪い
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ゴブリンリーダーの実力

 こう、何と言うか、退屈である。


 善は急げとのことで早速出発したのはいいものの、特に何もない。


 森の皆様は、人間に恐れをなして逃げ散ったようで。


 僕たちは中々新鮮な肉にありつけていなかった。


 ゴブリンの作る干し肉は、控えめに言ってまずい。なんなら腐っている。


 どこで干す概念を見つけたのかは知らないが、もう少し勉強してから導入してほしかった。


 あんな腐肉よりは生肉の方がマシなのだ。


 他の物を食べようにも、この状態で欠員を出す訳にはいかないので、果実の試食をさせる訳にもいかない。


 世の中、ままならないものである。


「なあ、族長」


「なんだ」


 ゴブリンリーダーが力ない声で呼びかけてきた。


「腹が減った」


 ……お前はガキか。それで僕はお前の母親か。


 知らねえよ。とよっぽど言ってやりたかったが、確かに僕も腹が減った。


 ならば……。僕は木の上で呑気に鳴いている鳥に照準を定める。


魔法の矢(マジックアロー)!」


 僕が放った不可視の矢は、僕の大声に驚いて飛び去った鳥にあえなく避けられた。


「……」


「ぷくくくくく」


 呆然とする僕をゴブリンリーダーが押し殺した声で笑う。


 唇を痙攣させた僕は割と本気で蹴りを叩き込んだ。


「痛っ、ぷくく悪かったって」


 全く悪いと思っていなさそうなゴブリンリーダーに僕がもう一撃叩き込む前に。


「仕方ねぇな。俺が本物の狩って奴を教えてやるよ」


 偉そうにゴブリンリーダーが親指を立てた。


 怪しい。


「できるのか?」


 心情を素直に吐露した僕にゴブリンリーダーが強く頷いた。


「当たり前だろ。この俺をなんだと思ってるんだ」


「割と間抜けな奴」


「ひどっ」


 事実だからな。


 初対面の時の印象は良くも悪くも、典型的なゴブリンだった。


 臆病で、単純。


 今はそうじゃないことを知っているが、やっぱり抜けた所のある印象だ。


 こいつは間抜けだが馬鹿じゃない。


 ……逆か。


 馬鹿な考えは置いといて。


「そんなことより、お前は狩りが上手いわけだな」


「そんなことよりって。部た……族長の俺への印象が気になるだけど」


「気にするな」


「気にするはっ!」


 なんともキレのいいツッコミ。こいつとならお笑い界の頂点目指せそう。


 グランプリに出たら、使徒が観戦するレベル。……殺されるじゃねえか。


「で、狩りが上手いんだな」


「……ああ」


 不完全燃焼なゴブリンリーダーは後で闘志に燃えてもらうとして、大事なのは食糧の確保だ。


 幸いなことに、弓矢を持つ部下は付いてきているが、矢が少ない。


 肉弾戦で狩りは終わらせたい所だ。


「なら丁度いいな。さあ、狩りの手本を見せてくれ」


「まあ、いいけどよ」


 僕が大仰に頼むと、ゴブリンリーダーは満更でもなさそうに頷いた。


「俺の指示に従ってもらうことになるぜ」 


 その言葉に、僕の直属の部下が眉をひそめた。


 まあ、ゴブリンリーダーの地位が上がれば相対的に僕の直属の地位は下がるからね。


「私は構わない。お前たちもそれでいいな」


 僕は全員に、特に僕の直属と、森神官の部下だったゴブリンに目をやる。


 積極的に歓迎する様子はないが、そこまで嫌がってもいないな。許容範囲だ。


 僕は、一時的に指揮官を任せるくらいは構うまい。ぐらいの鷹揚な気持ちでいた。


 ていうか無理。今ゴブリンリーダーを疑うのとか無理。


 よっしゃあ、と叫んだゴブリンリーダーは地面に膝をついて……土下座した。


「……おい、何やってるんだ」


「しっ、静かにしてくれよ」


 鋭い言い放ったゴブリンリーダーの剣幕に押されて僕は口をつぐんだ。


 地面に耳をつけ目を閉じたゴブリンリーダー。


 これは……何をやっているんだろう。全くわからない。


 僕にサバイバルの知識を期待しないでくれ。


 地面に耳をつけたまま、奇怪な動物のように移動し始めた。


 あれで痛くないのだろうか。


 待つこと数分。何某か聞きつけたのかゴブリンリーダーが立ち上がった。


「もう少しあっち……北西の方に進んだら川があるぞ」

 

 指を指しながらの言葉に、僕は一瞬フリーズした。


「……わかるのか?」


「まあな」


「……そうか」


 得意げに笑うゴブリンリーダーに僕はそれだけ返した。


 なぜ音で探させたかわからないが、野生動物はなぜかすんなりと水場を見つけるとか聞いたことがある。多分そんなものなんだろう。


 どちらにせよ、そこに川があるなら、確かに動物は来そうだ。

 

 ゴブリンリーダーの案内に従い少し歩く。


 到着する前に。




——————————————-



 種族:ゴブリン呪術師

 位階 :族長

 状態:通常

 Lv :10/40

 HP  : 186/186

 MP :171/196

 攻撃力:65

 防御力:58

 魔法力:73

 素早さ:56

 魔素量:D


 特性スキル:[成長率向上][邪神の加護:Lv4][仲間を呼ぶ][指示:Lv2][限界突破魔術]


 耐性スキル:[毒耐性Lv1]


 通常スキル:[罠作成:Lv2][槍術:Lv1][剣術:Lv2][無属性魔術Lv1][呪術Lv1]

[水属性魔術Lv1]


 称号スキル:[邪神の使徒][同族殺し][狡猾][ゴブリンチーフ][上位種殺し(ジャイアントキラー)][祝福を受けし者]



————————————



 祝福。祝福ね。確かにステータスの上がりはいいかもな。それだけか、ふーん。モルモット扱いが祝福ね。……ぶっ殺す。


 胸の内に溜まった殺意のまま、僕はギリギリと歯を食いしばった。


 ふざけやがって。


 邪神に逆立ちしても敵わないことはわかっている。敵意はない。敵わないからだ。


 ただ憎悪があるだけだ。


 よし、次の獲物はボコボコにしてやろう。


 八つ当たりだと知っていても、それだけは止められなかった。


 ゴブリンリーダーの案内に従い歩くこと数分。僕の耳にも川の流れる音が聞こえてきた。


 言った通りだろ、とドヤ顔を向けてくるゴブリンリーダーに、前を向くように手振りをする。


 落ち着け、僕。ここで表情を乱したら相手の思う壺だ。


 地面が湿り気を帯びてきた。


 木々の間から、水に反射された光が見える。


 川だ。


 そこに鹿が5匹。運良く川のこちら側にいる。


 川はそれなりの深さがあるから泳いで渡る他ないだろう。鹿が泳げるか知らないが、泳いでいる最中はただの的だ。


 しかも鹿側が風上ときている。……わざとじゃない。


「族長。どうする?」


 姿勢を低くして茂みに隠れているゴブリンリーダーが小声で問いかけてきた。


 可愛い部下が、僕を頼ってきたのだ。無論、その気持ちに応えないわけにはいかない。


「自分で考えろ」

 

 最高の笑顔で親指を立てる。


 お手並み拝見といこう。


「そうだな。あの怪我している奴を狙う」


 確かに全部狩っても食べ切れないだろが、この人数だと鹿2匹はいる。


「足りなくないか?」


「……じゃああの大きい奴も狩ろう」


 こともなげに言うゴブリンリーダー。こいつ本当に大丈夫なんだろうな。


 心配である。


「まあ、いいか。作戦は?」


「俺が4匹と上流側に行って二方向から川に追い詰めるのはどうだ」


「いいんじゃないか」


 シンプルだが、その分効果にも期待できそうだ。


 僕の肯定に満足気に頷いたゴブリンリーダー。


 弓矢を持つゴブリンを含む4匹を選別し、静かに歩き始めた。


 適切な距離を取ってからゴブリンリーダーが小さく腕を上げる。


 五本立てられた指を折ってカウントダウン。


 三、二、一


「おおおおぉぉぉ」


 さあ、狩りの時間だ。

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