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外道ゴブリンは邪神の下で  作者: 飛坂航
狂っていく歯車
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外道ゴブリンは邪神の使徒

「部隊長殿」


 僕は見つけた洞窟の中で壁に背を押しつけて座っていた。


 部下の声にぼんやりと返す。


「ああ」


「その、神官殿のことは残念でした」


「ああ」


「部隊長殿の責任ではありません」


「ああ」


「ですので、その、あまりお気にされずに」


「ああ」


 部下の下手な慰めに僕はぼんやりとしながら同意の声を出していた。


 そう、気にする必要などないはずなのだ。


 所詮ゴブリン。肉壁として集めたはずなのに。


 なぜ、ここまで苦しんでいるのだろう。なぜ、心が悲鳴を上げているのだろう。


 僕はどうすれば良かったのだろう。


 集落から逃げなければなにか違っていたのだろうか。


 そもそも邪神などに呼ばれなければ……。


 呼ばれたとしても、僕が邪神の教徒だとバレなければ。何か違っていたのだろうか。


 ありもしないIFを、戻れもしない分岐を虚しいとわかっていながら考えが止まらない。


 僕は、どうすればいいんだろうか。


「はぁ」


 ため息をついた僕は眉間に手をやってガシガシと揉んだ。


 今は休みたい気分だった。そう。だった。


 最初に気づいたのは自分の眉間にいつまでたっても刺激が来ないことだ。


 動かしているつもりの右腕が動かない。


 気づけば、傷ついたゴブリンの荒い息も聞こえない。


 部下は心配そうな顔で僕をチラ見したまま顔を動かせなくなっていた。


 既視感、というのはまさにこのことだろう。久しぶりの感覚だ。


 黒いモヤが世界を覆い尽くし、溟い、昏い場所から邪神が顕現する。


 今日は前に座っていた。


 こんな洞窟に不釣り合いな豪華な椅子だ。


 どこから出したのかという疑問が湧いてくるが、そもそも唐突に現れる邪神に尋ねるのは愚かというものだ。


「いやー、よかったね。よかったね」


 どうやらこの邪神は以前顔を見せた邪神とは別神らしい。


 にこやかな表情と明るい声があの女と同じく恐ろしい。


 いや、あの女の方がマシだろう。あの女の根底にあるのは人間らしい欲望だが、邪神はまさに底知れない。


「おかげで君も昇格だ。おーめーでーと〜う」


 散々心の中で言われていることを意に介さず、邪神は仮面のような笑顔で僕を祝福した。


 ——昇格?


「そう、そうそうなんだよ。君は正式に使徒に決定したのさっ!」


 髪をかき上げでキメ顔をする邪神。薬をキメてそうな顔だけど、そもそも精神が毒そのものなのだろう。


 でなければ、でなければ、このタイミングでふざけたことを言ってくるはずがない。


「なんだぁ、嬉しくなさそうだなぁ」


 逆になぜこの邪神は僕が喜ぶと思ったんだろう。今でなくとも別に嬉しくもなんともないのに。


「うっそだぁ、本当は喜んでるじゃないの?」


 どこをどう考えれば喜んでいることになるのだろう。


 はっきり言って歪んでいる。


「えー、彼が最後まで裏切らなかったと思って喜んでいるとばっかり思っていたのにな」


 アテが外れたとぼやく邪神の言葉が僕の脳に浸透するのに少しの時間を要した。


 こいつは、今なんと言った。


「死んでようやく親愛を確かめられるなんて君も相当歪んでるね」


 まて、勝手に決めるな。僕はそんなことを思っていたんじゃない。


「見下していた相手を死んだからって美化するなんて、調子の良いことだね」


 違う。違う。違うんだ。そんなこと僕は思っていない。


「何も違わないよ」


 邪神は椅子から立ち上がって僕の顔を覗き込んだ。


 冷たい手が僕の顔に当たった。


「君は君が嫌悪していた怪物と、人間(ゴブリン)と同じだよ。哀れだね」


 中途半端で、見苦しい怪物と、この僕を誹るのか。


 黙れ、黙れ、黙れ。黙れ。


「おっと。怒っちゃったのかな。それとも傷付いちゃったのかな。ダメだね。ダメだよ。自分の歪みは認めないと」


 黙れ黙れ黙れ黙れ!


 耳を塞ぐことも目を逸らすことも許されない僕はただ黙って言葉のナイフを突き刺される他なかった。


「アッハハハ哀れで愚かで、見苦しくて。君は最低だね。良いよ。気に入った。僕の名の一つ、ロキの名を君にくれてやろう。以後名乗るといい」


 ケタケタケタケタ


 邪神の悍しい嘲笑だけが、僕の頭を埋め尽くした。

これにて三章完結です。お疲れ様でした。

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