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外道ゴブリンは邪神の下で  作者: 飛坂航
黒の森戦記
32/66

会議の行方

投稿するのを忘れていました本当にもうしわけない

「命の恩人に感謝の言葉もなしか?」


 クールというよりかはもはやコールドの域に達する声音に僕はゆっくりと振り返った。


「君は……」


 誰だっけ?


 進化によって外見は変わるし、悪いが僕は声だけでゴブリンを判別できるほど器用じゃない。


 聞き覚えはあるのだが、思いだけない。喉に小骨が引っかかったようなこの感覚。


 が、まあいい。思い出せないということは重要でないということだ。


 世の中細かいことまで覚えていたらパンクしてしまう。データの取捨選択の一環と思えば納得もいく。


「君が助けてくれたのか。ありがとう、お陰様で生きているよ」


「ハッ」


 ……こいつ鼻で笑いやがった。思わず剣に手をかけようとする心をなんとか制止した。血と魔力が足りない。今の状態では勝てない。我慢だ。


 見かねた森神官が間に入ってきた。


「部隊長殿、族長の元に行かれた方がよろしいのでは」


 ミーティングでもやるつもりなのか、族長に続いて地位の高いゴブリンたちが族長の家に集まっている。


「そうだな、行った方が良さそうだ」


「では私も行こう」


 間髪入れずに叩き込まれたその言葉に僕の顔はまたも引きつる。


 こいつ空気が読めないのか、あえて読まずに行動してるのか。どちらにしろまともなコミュニケーションを取らなかった相手に必要以上に近づくな。


 我慢だ。今は勝てない。


 門番のいない戸をくぐり、僕は広間の壁に寄りかかって、全体を眺めた。まだ傷のある者、治したもの、疲れを見せている者、苛立っている者……


 様々な表情を見せている者がいるが、どれも見かけの上では負の感情を抱いている。


 喜んでいるのは僕だけなようだ。


「どうした?」


「いえ別に」


 今ならなぜかまだいるメスゴブリンを許せそうな気分ですらある。こいつ、声だけはいいのだ。声だけは。顔を見なければクールな美女である。


 いや実際、僕は歌でも歌いたい気分だった。今の気分は差し詰めフ○ンタとコカ○コーラらが潰しあってくれた時の三ツ○サイダーか、呂布と劉備を争わせた曹操だ。


 外部にいる敵と内部にいる敵が潰しあったのだこれを幸いと言わずになんと言う。


 同じ集落のゴブリンは味方ではない。潜在的な敵だ。独立して行動を取るようになってからは薄れたが、族長に参謀として付いていた頃は一触即発だった。


 これを狙って集落の防衛力の強化に走らなかったのだ。


 結果は知っての通り成功だ。大成功と言ってもいい。成功してしまったのだ。僕はまかり間違ったら仲間と呼んでいたかもしれない同胞嵌め殺すという唾棄すべき外道な手口が、成功すると知ってしまった。


 きっと僕はこれからも外道で、楽な手口をやめられないだろう。


「今回の敵は、サルバトが送ってきた者だと思われる」


 鬱屈とした考えを撃ち砕く族長の重々しい言葉にゴブリンたちの間に漣のようにざわめきが広がる。


 僕の心もざわめいていた。誰だよそいつ。隣のゴブリンを含め僕以外は全員わかっているらしく小さく眉をひそめた。


「サルバトって誰?」


 素直に聞くことにした僕は声を潜めて問いかける。


「族長が元いた群れで、現在最大の勢力を誇る群れの長だ」


「なるほど」


 元いた、ね。族長は追放されて渡りになったのか、それとも自分で独立したのか。


 暖簾分けのような形で穏便に独立したのであればともかく、飛び出したとなれば関係も悪いだろう。


 ……というかなんで彼女が知っていて僕が知らないのだろう。もしかしてそんなに嫌われてる?


 知ってはいたが、自分が嫌われていることを改めて実感してちょっぴり傷付いている僕に気付かず、族長は話しを進めた。



「サルバトが攻めてきた理由ははっきり言って定かではない。しかし、想像はつく。人間だ」


 ニンゲン?インゲン?あの豆のこと?


 ……違いますよね。知ってました。あぁ、人間いるのか。



 邪神に召喚された時は当然いると思っていたんだけど、影も形もないのでいないのかと思っていた。


 これは来ましたか?チーレムになる展開では⁈


 ないですよね。知ってました。現実、美女と野獣は成立しても美女とゴブリンは成立しないのだ。わかっている。


 わかりすぎて過ぎてゴブペディア作る勢い。


「奴らのことを知らない者ために簡単に説明しよう。奴らはここより南東の平原に住む種族で、ゴブリンより強い」


 強いのか。ちくしょう。

  

 前世の朧げな記憶が正しければ世界の覇権を握っていたのはゴジラでもモスラでもなく人間だった。


 となればこの世界で強大な力を持っていても不思議じゃない。


「俺がサルバトの群れにいた頃には奴らは頻繁に森の境界線に現れていた。ゆえに、奴らの圧迫に耐えられなくなったサルバトが後背の地を求めて我らの集落を襲ったのだろう」



 侵略に対抗するためか。族長の話しはおおよそ僕が聞き出した話しと一致する。違うのはゴブリンたちの脅威が魔物であることだけど、魔物使いの存在を考えれば不思議ではない。


「それを踏まえて、これから我々の行動を決めたいと思う。何か意見のある者は?」


 ダイスの目次第。ふいにそんな言葉が浮かんだ。どこまで言っても確実な勝利は少ないらしい。例え、族長であっても。


「一気に攻め寄せればいい!」


 バンと床を叩いて一匹のゴブリンが立ち上がった。


「サルバトの群れを叩き潰して、その後ニンゲンも叩き潰す!」


 はい馬鹿確定。僕の持論だけど、強い言葉と結果だけを言うやつと、「努力します」とかほざく奴は信用しない方がいい。


 だが、悲しいかな。多くのゴブリンは共感したようですしきりに頷いている者すらいた。


 ……族長は何も言わない。賛成しているのか?同類の馬鹿だったのか?


 違う、よな。周りのゴブリンのようにリスクを取ることが勇敢であると考えている間抜けではない。と願う。


 族長は猿山のボスザルなのだ。臆病な部分を見せればリンチに合うだから、代わりに。


「反対です。リスクが高すぎる上にメリットがない」


 希望に縋り付いて僕は壁際から声を上げていた。


「ここは両陣営を放置して防御を固めるべきです。双方が喰らい合って弱くなった所を叩けばいい」


 僕個人としては逃げてしまいたいのだが、これもリスクが高いのでご遠慮願いたい。


「臆病者が!」「新参者が調子に乗るな!」「逃げるのかたまなしめ!」


 周囲の罵声が僕の理性を容赦なく削る。黙れゴブリン風情が。


 怒りを抑えて族長を眺めれば顎に手を当てて考える姿勢を見せていた。


 ゴリラゴブリンも僕への否定の声を出さない。


「黙れ」


 族長の一喝に全員が口を噤んだ。


「現段階では我々は奴らの争いに関与せず、守りを固める。これは決定だ。解散、片付けを始めろ」


 不満そうな顔をしながらも、ゴブリンたちは黙って礼をして広間から退出していく。


「お前は残れ」


 ゴブリンたちに続いて部屋を出ようとした僕に族長は声をかけた。


 なんのようだろうか。

次は木曜に

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