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外道ゴブリンは邪神の下で  作者: 飛坂航
黒の森戦記
30/66

邪神領域

 鬼が倒れ伏したその直後に僕も地面に膝をついた。


 慌てて駆け寄って支えようとする部下を

手で押さえて、自力で立ち上がった。


「一旦、あの大きな建物で休息を取る。この中で負傷者を治療できる者は?」


「はい、低位ですが治癒魔術を修めています」


「その装いだと、神官(プリースト)ではなさそうだな」


「ええ、私は森神官(ドルイド)です」


 そのまま建物内に入り、ドサッと腰を下ろす。疲れた。



「ステータス」


—————————————————-





 種族:ゴブリン呪術師シャーマン

 位階 :ゴブリン 班長

 状態:通常

 Lv :5/40

 HP  : 161/180

 MP :19/172

 攻撃力:57

 防御力:52

 魔法力:59

 素早さ:49

 魔素量:D


 特性スキル:[成長率向上][邪神の加護:Lv4][仲間を呼ぶ][指示:Lv2]限界突破魔術(オーバーマジック)]


 耐性スキル:[毒耐性Lv1]


 通常スキル:[罠作成:Lv2][槍術:Lv1][剣術:Lv2][無属性魔術Lv2][呪術Lv1]


 称号スキル:[邪神の教徒][同族殺し][狡猾][ゴブリンチーフ][上位種殺し(ジャイアントキラー)]


 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 レベルアップがたった3だと⁈マジで?上がりにくくなってきたな。


 ま、レベルが全然上がらなくなるのはRPGの中盤くらいからよくあることか。


 そう思った瞬間それは訪れた。


 ボタンを掛け違えた時のような異物感、違和感と表現してもいいかもしれない。


 とにかく、何かがおかしいのだ。既視感とともにふとその理由に気づく。音だ。音が消えたのだ。蝋燭が吹き消されたように、神の吐息かなにかで音が世界から消えたのだ。


 つい先ほどまで僕の耳を煩わせていた傷付いたゴブリンの呻き声や焦りに高鳴る僕の拍動が消えていた。


 静寂とそう表現するにはあまりにも非自然的な環境。まさに絶対無音——いや、違う。


 囁き声が聞こえてきた。ゴブリンのものではない。それでも違うか?囁き声ではない?


 既視感が僕を支配し、さらなる異変が訪れる。


 ーーなん、だ?


 音のなくなった世界から、次は全ての存在の動きが消えた。


 せかせかと動いていた森神官も、傷の痛みに暴れるゴブリンも、そして僕もピンで留められた歪な標本のように固定されていた。


 わからない。わからない。わからない。それともこれが死なのか?僕はこんな、こんな風に訳もわからず死ぬのか?


「君はまだ死なないよ」


 唐突に後ろから囁かれた声。ただそれだけ、ただそれだけで全身を悪寒が駆け巡り、耐えがたい不快感とそれを上回る恐怖が一瞬にして僕の理性をかき乱す。


 —— なにが起きたんだ?


「私の家に招待してあげたの」


 家?僕はいつのまにか、暗い、昏い場所に誘われていたことに気付く。


 ——あなたは?


「私、相手も知っていることを聞かれるの嫌いよ?」


 ああ、そうだとも。全く僕らしくない失敗だ。

 

 相手が誰か?その答えは僕に魂レベルで刻まれている。


 ——なんとお呼びすればいいでしょうか?


「別に呼び方なんて気にしないし、敬語じゃなくても構わないよ」

 

 ではどこぞの甲殻種族のように”彼方なるもの”とでも呼んでみるか。


 ま、シンプルに邪神と呼ぶほうが僕は好きだし、確かに、邪神の言う通り呼び方に深い意味はないのだ。ロミオ曰く、バラですら名前は重要でない。まして邪神ならば。


 ——では、邪神。どうか僕の質問に答えてください。


「質問によるね。あと敬語じゃなくてもいいよ」


 ——Lvとはなんなのですか?なぜ進化を行えるんですか?そもそもステータスとは?


「君は知りたがりだね」


 そう言って邪神は動けない僕の首を撫でた。


 反射的に逃れようとしてそもそも動けないことに気付かされる。


「でもいいよ。答えてあげる。ねぇ生物が行える最大の魔術儀式はなんだと思う?」


 ——邪神召喚とかですかね。


「あはは、面白い答えだね。でも違うよ」


 首を撫でる手が剥き出しの目へと移った。不正解者には目潰しの刑とかされないよな⁈


「しないよ。で、答えは生殖と殺生さ」


 今何か、何かものすごい聞いてはいけないことを聞かされている気がする。


 ……というか貴方心が読めるんですね。


「特定の手順を経ることで新たな器を創造する生殖と、器を破壊する殺生。その魔術儀式の余波で子は力を持ち、殺生を行った者も力を得る」


 殺生の方が楽な気がするが、そうでもないか。殺すとなれば相手も全力で抵抗してくるからな。


「そうして単純な経験に加え魂のエネルギーを蓄えると、別の段階(ステージ)に至る。それが進化だよ。Lvはそれまでに必要なエネルギー量を区切っただけ。大した意味はない。ステータスは書いてある通りさ。自分の能力を客観視できると便利だろ?」


 確かに便利ではある。自分の値しかわからないから比較はできないけど。


「最強の能力なんて美しくないじゃないか」


 ——能力に美しさを求めたことがないので、なんとも言えません。


 僕の答えが不思議なツボに入ったのかケタケタと笑っていた邪神はふと僕に問いかけた。


「ね、君はなんで敬語で話すの?」


 ——身の程ってやつを知ってますからね。


「そうだね。僕は邪神の中でも真面目な方だからね、生意気なやつを見たら——」


 邪神の手がぬるりと僕の頭蓋骨を突破した。


 ——待って頼む待って。


「ブチュって握りつぶしちゃうかも。あはは」


 僕には耳元で囁かれる笑い声に反応する余裕などなかった。


 存在を根底から揺るがすような激痛。どうして脳を潰されたら痛いのか、その答えを説明できる人間はいるだろうか。僕はできる。痛いから、痛いのだ。


 声は、上げられない。転げ回ることも許されない。誤魔化さない痛みがひたすら刻まれている。


 痛みに僕の精神が引き裂かれ、意識が乱雑に扱われたように歪み、思考は元の形すら思い出せないほどボロボロに踏みにじられ――。


「——部隊長殿⁈部隊長殿⁈」


「なんだ」

 

 僕は森神官にグラグラと揺すられていた。


「突然苦しまれだしたので……」


「治癒魔術はかけてくれたか?」


「ええ、もちろんです」


「ご苦労、他の者を癒してくれ」


 心配そうな森神官に話しは終わりだ、と背を向ける。


 誰かと話す気分ではなかった。


 宇宙的恐怖という漠然とした壮大な言葉で誤魔化してきた恐怖と畏敬を痛みとともに刻まれてしまった。


 気力が、反逆の意思が削られた。


 正直に言おう。怖い。怖い。怖い。脳を握られた感覚は筆舌に尽くし難い。


 生殺与奪の権はこちらにあるぞ、という脅しですらない示威行為。


 ああ、くそ。どうしろってんだよ。

緊急事態宣言により僕の予定も不透明になってしまったので、11日に次話投稿したいと思っていますが出来るかどうかわかりません。

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