一ヶ月
転生から一ヶ月ちょっと経った。
まあ、暦が地球と同じならの話だけど。
それはさておき、今僕がやろうとしているのは。
え?この一ヶ月の事をはなせって?面白いことはあんまないけど取り敢えず話すか。
最初の日は、起きた後ずっと泣き喚いてたよ。
あんな冷静だったのに?……
いやいや、一眠りして頭が整理されて、抑えが効かなくなったんだよ。
現役社会人 記憶があやふやなので多分 が泣き喚くなんて情けないって?
だって朝起きたらゴブリンになっているんだせ。
アポト○シンで子供にされたのとは訳が違う。
正真正銘の人外、魔物、怪物である。
発狂してもおかしくない。
ただ、前世の記憶げ朧気だったせいか、流石に発狂はしなかったが。
その後は、まあ暇だったよ。やることといえば他のゴブリンを観察するくらいだし。
それもあまり面白くなかったし。
ゴブリンしか見るものがないし、かと言って外に出る勇気はなかったからな。
それはさておき、ゴブリン観察にかこつけて、この一ヶ月で生き残る方針を固めるために歩き回ってこのゴブリンの集落の文明レベルを測っていたが、一応日本の歴史を知っている そのあたりはなんとなく覚えている 僕にはかなり特殊な様に思えた。
転生してから一ヶ月の僕が歩き回ることに疑問を持つ人もいるかも知れないが、そんな人には魔力などという謎エネルギーがあることと、ゴブリンの成長が早いことを思い出して欲しい。
さてそろそろこの集落の文明レベルについて話すとしよう。
まず、金属の加工技術についてだ。
簡単に言おう、ないこともない。
が、存在するのは武器だけだ。……ふざけるなよ。
次に食事、焼くという概念すらない。
きっとゴブリンが生肉でも美味しく頂けるからだろう。
実際、この一ヶ月生肉を食べていたが、かなり美味しく感じた。ホントに、内臓を甘く感じるレベル。
でもなければ「ロード・オブザ・○ング」のように、ゴブリンは人を苦しめるものしか作れない、なんて法則があるのだろうか。
そうだ食事と言えば、与えられたた知識にはゴブリンは雑食だとあったが、ゴブリン達には農耕をする文化はないようだ。
少なくとも、この集落にはない。まあ、人間の子供より若干低い程度の知能しか持たず、一度進化したくらいでは、せいぜい小学校高学年レベルにしかならないゴブリンが、自分から農耕という概念を作れるとは思えないので、より多くの進化を経たゴブリンがいるか、真似をする対象となり得る生物が身近に居ない所では、生きるための養分も、他の生き物から取っているんだろう。
というか、知識にもあったように、魔力などという謎のエネルギーがあるこの世界に、養分なんて概念がどこまで通用するかはわからないが。
次に、集落の建造物についてだ。
これもかなり遅れている。
もっとも、野ざらしでも十分に生活出来るゴブリンの住居が、どれだけ進歩するかは、推して知るべしというやつだろうが。
ああ、あとこの辺には対象となる人型生物がいないからか、ゴブリンが女性の敵とされる所以たる苗床の様なものなかった。幸いな事に僕はゴブリンから生まれてきたらしい。ゴブリンに転生したのには腹が立つが、母となる存在が不幸でなかったことは、単純に喜ばしい。
それに、苗床から生まれたとなると色々考えさせられるものがあるからね。
何より、もしかしたらゴブスレさんが来ないかも知れないし……なに言ってんだろこいつ。
そして待望のゴブリン観察の結果を発表しよう!
どうやらこの集落には、普通のゴブリン150匹ぐらい、ちょと大きくて強そうな奴50匹ぐらい、明らかにデカい奴10匹ぐらい、それから明らかデカい奴の中でも一番強そうな族長らしき物1匹で構成されている。
まとめると、この集落の文明は、特異な変化を遂げていて、一重に言う事はできないが、無理矢理計るとすれば縄文時代よりすこし上と言ったところだろうか。
だから、食料獲得の手段は、木の実を拾うか獲物を狩るしかないのである。
ついでに言うと、経験も浅く一度も進化していないゴブリンは、地上を駆けることで獣に劣り、かと言って木を登ろうにも、短い手足では難しく、罠を作る知恵も無いため、持って生まれた身体能力と見様見真似の原始的な狩りの技術で、兎など、ゴブリンでも勝てる獲物を探し追いかけるしかないのである。が、大抵失敗する。
小動物でも、ゴブリンよりすばしっこいし、巣に逃げられれば捕まえる事は容易ではない。
その失敗から複数で囲む、罠を作るなどのゴブリンの戦い方を学ぶ。
つまり、必要な失敗なのだ。
「グギャーギャキキッギーーグキャッ」
(ちょっともう一回言ってください)
以下日本語訳
だかである。誰が生後一ヶ月で初の狩に出す奴がいるか?
そんな希望を込めた僕の声を壮年のゴブリンが一蹴する。
「グギャギ、ギャギ、グギャ(全員やる、お前も、餌、とる、自分で)」
たどたどしい言葉だが意味は通じる 悲しいことに。
「ギギャギ、ガーガガ、(いまですか?少し重要な案件を抱えておりまして、後にしていただけないでしょうか?)」
僕が丁寧に誤魔化そうとすると
「グギャ(飢えるか、やるか、選べ)」
最後通牒と言ったところか、お前は鬼か!いや鬼だな小鬼だったな。
はぁ仕方ない、やるか。
「ギギャーグ(わかった、分かったよ、やる。)」
僕のやる気なさげな声に壮年のゴブリン オジゴフでいいか は一瞬眉をしかめ
「ギギャ(じゃあ、行け)」
と言った。
さて、生後一ヶ月のゴブリンがただ闇雲に歩き回ったところで獲物はとれないだろう。
という訳で
「ステータス」
種族:リトルゴブリン
状態:通常
Lv :1/5
HP :5/5
MP :1/1
攻撃力:1
防御力:3
魔法力:1
素早さ:10
魔素量:G
特性スキル:
〖成長率向上〗
〖邪神の加護:Lv1〗
耐性スキル:
通常スキル:
称号スキル:
〖邪神の教徒〗
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
うん、言いたい事は分かる。
なんか変わってないか?だろう?
この一ヶ月、何となく不便だなと思っていたら、なんと表記が変わっていました!
イェーイ、パチパチ!
違うだろー 違うだろっ!
その気配りが出来るならもっと初期からバンバン活躍できるチートが欲しかった。
とはいえ、これが便利なことには変わりない。過信する事はできないが、ある程度の指標にはなるだろう、いつかは。
取り敢えず、レベルは上げなきゃいかんだろ、異論は認めない。
という訳で集落から出た後に最初にする事を決めた僕は、軽い足どりで、同年代のゴブリン達が押し込められた荒屋ともいえないなんともボロい建物を後にしたのだった。