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外道ゴブリンは邪神の下で  作者: 飛坂航
黒の森戦記
29/66

炎を纏いて

 少し時間を遡ろう。族長は……


「族長!族長!た、大変です!」


 見張りを束ねさせていた側近の騒々しい声に、族長の地位にあるゴブリン、バラボスは不機嫌そうに顔をしかめる。


「騒々しい。落ち着いて話せ」


「はっ、ゴブリンの軍勢が攻めてきました」


「サルバトの手勢か?」


「いいえ、そこまでは……」


 ぬるい古巣を抜け出してから苦心して築き上げた我が群れだ。現段階で失うのは惜しいな。


 そう計算してからバラボスは一つ頷いた。


「よかろう。俺も出る」


「バラボス様がですか⁈」


「ああ。我が館に上位の兵を集めろ。鎧を準備しろ」


 部屋に控えていた側仕えに準備を命じたバラボスは、手振りで側近に退出を促した。


 近寄ってきた側仕えがバラボスに全身鎧を着せていく間、バラボスはこの森の勢力図に思いを馳せていた。


 この辺りのゴブリンの勢力は多数ある。その中で、注目すべき群れは3つ。


 南東に位置する最も大きな群れであり、己がかつて属していたサルバト率いる群れ。


 現在コボルトと争いにより疲弊しているルダアの群れ。


 そして、バラボスが作り上げた群れだ。


 森の中層に位置し、生存の難易度は他の二つを遥かに凌駕するが、それ故に強者の集う己の群れ。


 危険度の高い中層に渡りのゴブリンがやって来ることはまずない。

 つまり、自分の、このバラボスの群れを狙って来たわけだ。


 思考遊戯にふけりながらもバラボスは隠しきれない怒りをその凶悪な顔に浮かべる。


 舐められたものだ。他の2匹と比べれば若年であるものの、個体としての戦闘能力も、指揮能力も負けているとは思っていない。


 これは他の群れの指導者が変わった可能性を考慮しなければならないな。

 

 恭しく礼をして下がった側仕えに準備が終わったことを察した。


 立ち上がったバラボスは戦斧(バトルアックス)を掴み悠々と外へ繰り出した。


 兜をつけていないの容貌は同刻彼の部下たる転生者が戦っている鬼より禍々しい。


 怯えきっている敵にニヤリ、とその顔を歪める。


 どうやらご丁寧に敵軍は赤い布を付けているらしい。殺しやすいことこの上ない。


「ガァァァァァァァァァ!」


 景気付けにウォークライ。


 字句通り物理的圧力を持つウォークライに吹き飛ばされた敵兵が、地に落ちる前に踏み込んで寸断する。


 ドシャ、と水気をたっぷりと含んだ物が落ちる時特有の音が響く。

 

 静寂であった。かつて龍が己の巣の上を飛び去っていった時浮かべたただただ純粋な恐怖。


 一歩、一歩、ゆっくりと近づいて行く。この場で最も大きなゴブリンは先ほど掃除した中に含まれていたのだ。


 戦う勇気も、逃げる勇気すら湧かず神の奇跡を待つ信徒のように動かないその光景はある種神秘的ですらあった。


「ギガギャャャャ」


 一匹の勇敢なゴブリンが逃げた。


 素晴らしい心意気。感情を制御する術は掛け値なしに称賛に値する。


 が、逃す義理もない。


 無造作に、ゴブリンにとっては絶望的な速度で歩み寄ったバラボスの斧がゴブリンを破壊する前に、


 ゴブリンの頭より遥かに巨大な鉄球がその体を吹き飛ばす。


「ドーラン、お前か」


 バラボスはその相貌にふさわしい獣の唸り声のような声を絞り出した。


「よぉ、裏切り者よ。獲物を横取りされた気分はどうだ?」


 よく知っているゴブリンだ。明けの明星(モーニングスター)を振り回しひたすら敵を粉砕する。


 頭のできはお世辞にも良いとは言えないが、戦場で会いたくはない相手だ。


 圧倒的な存在であるバラボスに、対抗しえるドーランの登場により、生きる意志を取り戻した双方の雑兵がギャアギャアと騒ぎ出して逃げ散った。


「横取りなんざされていないさ。もっといい獲物がのこのこ殺されにきたんだからな」


「ほざけ!」


 逃げる雑兵を巻き込みながら鉄球が唸り声を上げてバラボスへと繰り出される。


 一瞬冷っとしながらもバラボスは余裕の表情で後ろに飛び退いた。


 が、それは悪手だ。


「死ねぇぇ」


 ドーランは頭上でモーニングスターを一回転させてから鋭く一振り。


 遠心力での加速と鞭では比べ物にならない重量を兼ね備えた一撃を受けるのはあまりに困難だ。


 そう判断したバラボスは凄まじい勢いで踏み込んだ。


「ラァァァァァァ!」


 怒号と共に放たれた一撃は確かにドーランの左腕を肘から切り飛ばす。


 ここまで距離を詰めれば、もはやモーニングスターは役に立たない。


 それが理解できるドーランはモーニングスターを投げ捨て腰の剣帯から剣を引き抜くが、遅すぎる。


 すでに斧を振りかぶっていたバラボスはドーランの頭を力任せに叩き潰した。


「弱い。弱すぎるぞ」


 倒れていくかつての戦友にそう声をかけたバラボスは集結しつつあった自身の部下に声をかけた。


「状況は?」


「多方向から大軍を送り込んできたようです」


「そうか」


 なぜだ?大軍とは言え固めて配置しなければ各個撃破されてしまうだけだ。


 あのサルバドがそのような愚行をするとも思えない。


 この群れのゴブリンを減らしたいだけなのか?それとも……


火災旋風(ファイヤーストーム)


 業火、であった。


 高く立ち昇る炎の竜巻。生きたまま燃える者の凍えるような悲鳴と肉が焼ける匂い。

 

 地獄絵図とはまさにこのことだろう。咄嗟に防御魔術を展開した数人を除いて程度の差こそあれど、全て焼け爛れている。


 なるほど。ここで俺と群れの主力を叩くことが目的か。


 思考に脳のリソースを割きながらもバラボスは目を凝らして魔術師を探し


「見つけた」 


 いた。奥の方で部下に囲まれている魔術師がこの魔法を撃ってきたのだろう。


 ならば、


「邪魔だ」


 道を遮るゴブリンを全て薙ぎ払い、魔術師の元へ一直線で向かう。


「馬鹿な!」


「舐めるなぁ!」


 信じられないモノを見ている表情のゴブリンの頭を握り、そのまま力を込める。


「やめろ!」


 直掩の剣士たちがそう叫ぶが、遅い。


 そのまま力を込め、頭を握りつぶした。慌てて3人の剣士が斬りかかってくる。


 その一匹目を蹴り飛ばし、その足を軸にしてもう一匹蹴り飛ばす。硬直していた最後の一匹を 斧で縦に真っ二つにした。


 周囲を囲む上位種を含む敵兵を、魔力を薄く込めた斧で一閃。尽く腹を開かれたゴブリンたちは一斉に倒れ伏した。


 その背後にいたゴブリンたちが怯えたように一歩下がった。


 駆けてきた側近の一人がバラボスの傷の手当てを始める。


 後は、自分がやらなくても大丈夫だろう。


「やれ。鏖殺だ」

書いている途中で原稿が消し飛ぶ悲劇•••••なんとか書けました。

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