ゴブリンの狩り方
一定の間隔を空けて付いてくる部下たちの足音を聞きながら僕はじっくりと思考を巡られせる。
前のように罠を作って狩ってもコボルトなら問題ないと思うけどせっかくだし違うやり方でいきたい。
走るの疲れるし、疲れたところを襲われると死ぬし。
丁度良く草を食んでいるウサギらしき生き物も居るしあれで行くか。逆ウォーキングデッド方式で。
にしてもつくづくウサギに縁があるものだ。来世ウサギになったりして。金持ちに飼われて食っちゃ寝したいな。
ゴブリンはないわ。絶対飼われないわ。まあいい飼われるのは性に合わないしな。
「よし」
小さく呟いた独り言に部下たちがびくりと肩を震わせる。
そんなビビらなくていいから。痛いことはしないぞ?
ーーそんなには。
「クックックッ」
僕の含み笑いさらに部下たちが怯える。
咳払いをしてから僕は口を開いた。
「よし、聞け」
神妙な顔をした部下たちにちょっと驚きながら続ける。
「お前、この場にいろ」
棍棒を持ったゴブリンの一人にそう言って肩を叩く。
叩かれたゴブリンは頷いて了解を示した。
「お前はあの木のところに」
同じく棍棒を持ったゴブリンの背を叩く。
「お前はあっちに」
四人の部下を半円状に配置して僕が合図を出したら大声を上げながらウサギに突進するように言い含めた。
僕はウサギが逃げてくるであろう方向に陣取り残りの部下二人に左右を固めさせる。
僕ば大きく手を振った。
それが見えたらしいウサギが走り出す前に、
「「「「ギギャガギャーー!」」」」
反対方向から叫び声を上げながら部下たちが飛び出した。
「ん?」
……待てよ。
大声に驚いたウサギが再び踵を返して走り出した。ウサギに踵があるのかという疑問を除けば全く問題ないはずだ。
「ああ」
ウサギが左右から迫った部下たちを跳ね飛ばした時にようやく理解できた。
「デカすぎるだろおい!」
僕に向かって直進してくるウサギに対抗し僕も腰を沈める。
両手でしっかりと剣を握りしめ真前に来たウサギを突き……外した。
そりゃそうだよな⁈構えているところにわざわざ突っ込んだりしないよな。でもその機転、今じゃないだろ。
慌てて剣を振り下ろすがウサギの跳躍には遅れる。角で脇腹を削られた。
無論、鎧があるので大きな傷にはならない。
しかし、僕の怒りを膨れ上がらせるには十分だった。
八つ当たり?傷つけていいのは傷付く覚悟がある奴だけ?
クソくらえ。
「ウサギ風情がぁぁ」
後ろに下がっていた右足を軸に強引な後ろ回し蹴りを放つ。
衝撃に体を硬直させたウサギの首元を仄暗く濁った剣が切り裂いた。
生暖かい返り血を浴びながら僕は怒りが潮のように怒りが引いていくのを感じた。
え?なに?僕なんでキレてんの?更年期?
というかなんだあの剣の光。
手に入れてからまだ10日も経っていないが剣が光ることなんて一度もなかった。
まあいい。あの変な光が消えていることを確認してから剣を納める。
ナイフでウサギを切り分ける。
不満を感じるほどは大きすぎず、かと言って気付かないほど小さすぎない程よい差をつけた。
「まず、ウサギを仕留めた私が一番大きな肉を取る」
左後足を含む大きな肉を取った。
「いいな?」
部下たちが黙って頷いた。流石にここで文句を言う猛者は居ないようだ。
言うなれば僕はのび太を前にしたジャイアン。しかもジャイアンと違って躊躇なく命を奪いにくる相手だ。
「よし、お前」
目を輝かせたゴブリンの一匹の肩を叩く。いちいち面倒くさいから名前でもつけようかな。
「一番大きな声で追い立てたお前に一番大きい肉をやろう」
おずおずと差し出されたゴブリンの手に右足を含めた大きな肉を置いた。
「ありがとう、ございます」
ゴブリンの感謝の言葉に僕ば鷹揚に頷いて返した。これで僕への敵対心は仲間に行くだろう。誰だって戦う相手は弱い方がいい。
後は功績にも肉にも大した差がないので、てきとうに……適切に分配した。
最後の一人に配り終えたら後は食べるだけだ。
僕はウサギ肉にかぶりつく。
うむ。ふつーに美味い。
多分前世では生肉なんて食べはしなかったはずだが、ゴブリンの舌であれば生でも結構イケる。
筋繊維を歯で噛みちぎる感触も溢れてきた血の味も決して悪くない。
うーん。美味い。
「食べ終わったな」
無論、僕は食事の大切さを知っているので、食べ終わっていない部下への踏絵のように「食べ終わったな」なんて嫌味を言うことはしない。
肯定の言葉を発したり頷いて示したりと多少の差異はあったが皆同意を示した。
「来い」
手で唯一今朝草の汁を塗られなかったゴブリンを呼び寄せた。
「そんなに不安そうな顔をするな」
「いえ、あの……」
「なんだ?」
「なんでもないです!」
低い声で問いかけたら全力で返答が飛んできた。
それでいい。賢いゴブリンは嫌いじゃないぞ。
この前勧誘を蹴られたけどな!そういえばあのゴブリンはどうしてるんだろう。
ま、それもどうでもいいか。
僕は血のこびりついたウサギの骨をゴブリンに渡した。
「ウサギの血を全身に塗れ」
「え?」
「お前の鼻が効かなくなるまでウサギの血を塗りたくれ」
これぞ逆ウォーキングデッド方式。血を塗って獲物だと思わせてからの奇襲。
悪くないと思う。
「はい……」
嫌そうに血を塗っていくゴブリンに僕はゴブリンにも衛生観念なんてあるんだなーとかものすごくどうでもいいことを考えていた。
次は水曜日に




