部下を作ろう
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「うーむ」
グダリと床に寝っ転がりながら僕は呻き声を出した。
部下が欲しい。もっと言うと毒味役が欲しい。
隣のゴブリンの集落は現実の脅威である。今にも引き金を引きそうな銃を持った女や、狂乱した目でこちらを睨むナイフを持った男並みに危険だ。
モスクワだのピョンヤンだの、領土的問題のある隣国を抱えた日本で生きていたがそれでもここまで真剣に悩んだことはない。
族長を見た後では信じ難いことだが、負ける可能性十分にもある。
もちろん、負けを恐れるなら今から集落にもう一重の柵を張り巡らせるとか、文字通りもっと建設的な行動はいくらでもあるだろう。
確かに、それも道理だ。
しかし、
「あっさりと勝ってしまっても困るだよな」
だからこそ、市街戦でも死なないように盾にできるは存在が欲しい。負けた時にサバイバルを乗り切れるように、未知の食材の安全性を確かめてくれる部下が欲しい。
無論、僕がこっそり敵の集落に偵察に行けばおおよその勝率はわかるだろうけど、身の危険がある。
「あぁぁ〜」
それほど頭髪のない緑の頭を掻き毟った。限られた資源で最大の利益を目指すのは経済人の初歩の初歩だ。
しかし、理性的でも自制的でもない僕には実に難易度が高い。
そもそも、僕はこういう事を考えるのは苦手だ。
よーし、もういい。
両足を持ち上げてから素早く振り下ろすことで勢いをつけて立ち上がる。
僕は割と今の家を気に入っていた。広くもないし、ゴブリンの家としてはマシだが清潔とは言い難い。
でも、僕が知恵を絞って手に入れた家だ。
いってきます、と心の中で呟いて家を後にする。
× × ×
門番に族長に会いたい、伝えて面会を申し入れた。
そのまま館に通された僕は廊下をズンズンと進んでいく門番の後を歩いている。
どうも、今向かっているのは前回通された部屋ではないらしい。
よかった。途中からそんなこと気にする余裕もなかったけど、最初の方は結構気まずかったからな。
まあ、街で友達に声かけたら僕の元カノと一緒にいた時ほどじゃないけど。僕、振られたんだよ?裏切り者ぉぉぉ!
だとかどうでもいいことは思い出すのに肝心なことはなにも思い出せない。ま、それに関して僕が出来ることはないから、待つしかないんだけど。
門番が部屋の前に立っていたゴブリンに声をかけた。
どうやらそのゴブリンはドアノッカーの代わりなようで扉を薄く開けて入室の是非を問いかけた。
「入れてやれ」
と、族長の低い声が聞こえた。
ノッカーゴブリンがドアを開けて手で部屋に入るように示す。どうでもいいけど、ノッカーって、ショッカーに似てるな。超どうでもいい。
部屋に入ると同時に一礼した。
頭を下げながら目だけで見回したその部屋は随分と広い。族長は大きな机を前に木製の、これまた大きなイスに座っている。
取り巻き、と呼んでいいのかわからないが、側近らしきゴブリンも何人かいる。
「失礼します。族長」
族長は小さく「お前か」とつぶやいて何かの肉を口に運んだ。
どうやら食事中だったらしい。
「食べるか?」
僕がじっと見ていたことに気付いたのか、肉を乗せている皿を示しながら聞いてきた。
はいはいわかってます。あれですね?よくあるひっかけですね。
「結構です」
族長はむっつりと黙りながら頷いて再び肉を口に運んだ。
無表情はやめてほしい。ホントに。なにを考えているのか全くわからない。
「何のようだ」
十分な時間を咀嚼に費やしてから族長が口を開いた。
「部下をつける許可をいただきたいのです」
「なっ!」
いきりたったのは控えていた側近達だ。僕でもはっきりとわかるほど表情を怒りに歪めている。
「調子に乗るなよ小僧!」
中でも一番体格のいいゴブリンが一歩前に出た。
なんなら族長よりも体格のいいそいつは鎧を着ていてもわかるほど発達した肉体を震わせている。
ゴリラかよお前、筋肉ありすぎるだろ。
「いくらバラボス様に目をかけられているとはいえ—」
「黙れ」
族長が低い声で一喝した。そしてまた、肉に手を伸ばし、ゆっくりと咀嚼する。
埃が落ちた音が聞こえそうなほど静かな部屋で、族長が肉を飲み込むまで咀嚼音のみが僕の耳が悪いわけではないことを教えてくれた。
「さて、お前」
族長の視線が乱雑な口調とともに僕に向けられる。
「部下が欲しいのか」
「はい」
最小限の言葉を出すことしかできなかった。
「数は?」
「五人、いや六人いただきたい」
ふむ、と族長は頬杖をついて少しの間考え込んでいた。
「年齢は?」
「私より下で構いません」
初めて、族長の表情が変わった。側近達の表情もだ。
誰もが目を見開いて僕を見つめている。やはりというか、一番早く復活したのは族長だった。
「大した役には立たんぞ」
「承知の上です」
そうか、とまた何を考えているのかわらからない顔で呟く。
「まあ、ならやろう」
「感謝いたします」
僕は深々と頭を下げておいた。
「お待ち下さい!」
こいつまた割り込んできた。
若干うんざりしながらゴリラも真っ青なゴブリンに目をやる。
「今の時期に同胞を悪戯に減らすべきではないと愚考します」
これには元々同じ立場にあった者として反論せざるを得ない。
「お待ちください。私より年下のゴブリンが6匹ですよ?それくらい2日で死んでいますよ。それに、私が部下を死なせると決まったわけではないでしょう」
「ハッ、貴様のような偶々生き延びた輩の力など」
嘲笑を浮かべたゴリラゴブリンに追従するようにゴブリン達が笑みを浮かべた。
決めた。お前だけでもぜってー自分で殺す。いつか僕を嘲笑ったゴブリンはいつの間にか消えていたから復讐出来ないけどお前は僕が殺る。
「ふむ、面白い。部下は6匹付けてやろう」
感謝の言葉を述べようとする僕を手で止めて族長はそのまま、話し続ける。
「しかし、出来るだけ数を減らすな」
僕は心中でガクリと膝をついた。
意味ねーだろ!僕は肉壁が欲しかったのであってお荷物が欲しかったわけじゃない!
「それは命令ですか?」
「ああ、命令だ」
族長は僕の搾り出すようなせめてもの抗議に表情を動かさず頷いた。
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