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外道ゴブリンは邪神の下で  作者: 飛坂航
ゴブリンの集落
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終章 獣の唄

(けだもの)の唄




 「お前が殺したのか?」


 族長の声音は話の内容と比べて驚くほど静かで、それが逆に恐ろしい。  

 

 だが、呑まれるわけにはいかない。


「ご、ご冗談を。私に彼らを殺す程の力はありません」


 ひどく掠れていながらも声を出せた自分に大感謝。


「では、誰が奴らを殺した?」


 さて、誰のせいにしようか。コボルトは、ダメか遠すぎるな。


 ここでやはり情報不足が効いてくる。族長が鴨の行き先を知っていないならば幾らでもやりようはあるのに。

 

 リスクは取れない。


「詳細は存じ上げませんが死体の傷から見るに獣の仕業かと」


「ふむ」


 族長は僕の首を絞めていた手を無造作に離した。


 ドガッ、嫌な音と共に体の芯まで響く衝撃が走る。


 ゲホゲホと咳き込みながら立ち上がる僕を無視して、族長は部屋の中を行ったり来たり歩き回っていた。


「猪といいこたびの事といい、やはり獣使い(ビーストテイマー)の類がいるな」


 まさかあっさり騙せてしまうとは。


 にしても、猪とは、先日集落を襲った猪で間違いない、と思う。


 獣使いが何のことだかよくわからないが、語感からして文字通り獣を使う系のヤツだとしたら、集落を攻めた人物が今度はそれなりの数の部隊を壊滅させた。とか?


 うーむ。わりとありそう。あれ?もしかして僕って嘘をつく才能があるのでは?


 僕が下らないことを考えている間に結論を出したらしい。族長は歩みを止めた。


「よし、これは調べなければなるまい。お前、階級を上げてやる。明日から俺様の狩に同行することを許可する」


 いろいろあったけどこれで目標達成、かな。






————-—————————






 深く暗く神の威光の届かない地の果てのその先で、邪神たちは今日も神々を陥れるための策を練っていた。


 実行に移すための資源である瘴気は微々たる量しかないのであくまでも計画を練っているだけだが。


「なあ、あれ覚えてる?」


「あれって何だよ」


 円卓の一人がふと漏らした言葉に他の邪神が反応する。


「ほら、異世界から召喚したヤツ」


 ああ、と邪神たちは手を打った。


 ほとんど忘れかかっていたことを知れば、本人、本ゴブは怒り狂うだろう。


「アイツの担当って誰だっけ?」


「私だ」


 キメ顔で一人が言葉を発する。


「そうか。で、どうよ?」


「ま、ゴブリンとしては悪くないんじゃないか?まだ生きてるし」


 ふーん、と興味なさげに相槌を打つ邪神たち。彼らはそもそも彼に期待していないのだ。


 自棄になって打った一手に期待する方がどうかしている。


「あーあ、誰か贄を捧げてくれないかな」


「加護持ちが殺した魂は俺たちの所に来るぞ」


「邪神官はほとんど居ないからな。ゴブリン頼りかー」


「「はぁ」」


 世界をより愉快で悲惨にする計画は予算不足により未だ決行されず。





——————————-





「……よって我々の計画は滞りなく遂行されております」

「そうか」


 絢爛豪華な玉座の間で一人の文官がティナレの森開発計画の報告をしていた。


 王と参議たちによる評議会の前での報告とあっては文官の表情に薄らと緊張が浮かんでいるが、支障をきたす程ではない。


 報告内容と臣下の層の厚さで二重に満足した王は鷹揚に頷いて返した。


「諸国の反応は」


 王が腹をさすりながら問いかける。


「内々に事を運んだことにより殆どの情報が伝わっていないはずです」


「諸侯は?」


 文官は少し考えてから慎重に口を開く。


「直轄領でのことですから領主の方々はほとんどご存知ないはずです」


 ふむ、と王は唸ってからチラリと側に控えていた宰相に目を向ける。


 宰相は眉間に皺を寄せて問いかけた。


「どれほどの軍を使うつもりだ」


 文官は困ったように眉根を下げてに答えた。


「申し訳ありません。私では概算を申し上げることしかできません。兵部省にお聞き為された方がよろしいかと」


「兵部」

 

 王の短い呼び掛けに答えるため兵部卿カステリア公が手元の書類をめくる。


「はい、陛下。今回の目的はあくまでも前線基地の設置ですので技術者や魔術師が必要になります。そうしますとやはり軍務にそれらの護衛も含まれますので、五千は必要でしょう」


「大蔵省の立場で申し上げれば、出来ればもう少し控えていただきたいのですがね」


 皮肉げに呟いた大蔵卿に兵部卿が鋭い目を向ける。


「技術者の数が減れば金で解決する問題ではなくなるのですよ」

 

 金で解決しない問題だと?じゃあお前たちの武器だの食い物だのに金を出さなくても良いんだろうな?


 大蔵卿とてそう言わないほどの理性は持っているが、自然と語気は荒くなる。


「お言葉ですが、その金が尽きそうだと申し上げているのです。そもそも兵部省が無駄に金を持って行くから」


「無駄だと⁈」


 椅子を蹴って立ち上がった兵部卿に押されるように大蔵卿も立ち上がり、


「双方座れ」


 水を差された。


 今は体型が崩れてしまっているが若い頃は『紅い牡鹿』の名で知られた王の一喝は二人を抑えて有り余る力があった。


 ゆっくりと椅子に座った二人に目もくれず王は、ホーバルウルト家の誇る大王カルドランは、文官に声をかけた。


「そのまま計画を進めよ」


「はっ」


 深々と頭を下げて退出する文官を眺めながら王は口の中で呟いた。


「なにごともなければ良いのだが」

これにて第一章終了となります。


いや〜色々ありましたが、何はともあれ無事?に終わりました。今後とも本作及び飛坂航をよろしくお願いします。


あ、次は木曜八時に投稿します。

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