025-葛城省吾/いつか帰る人
葛城省吾
VRoadway予選の通過が知らされ、もう1時間も過ぎただろうか。
まだ、手術は続いているらしい。
どうにも落ち着かない。何か用がある訳でもないのに、立ち上がり、少し歩いてはまた座る。そんなことを繰り返していた。ユイにいち早くVRoadwayの結果を伝えたい。同時に、手術が無事に成功するのかも心配だ。
そうしている間にも、色んなことを考える。
本当に、大変な1か月だった。
ユイが倒れてから、俺は藤多柚衣となり、VRoadwayでの活動を始めた。思いがけない形だったが、ユイの夢を守る中で、かつて諦めてしまった「夢を追いかけるということ」、それについて考えることが少し出来たと思う。
どんな無理難題な夢だって、最後までやり通せるかを決めるのは、結局のところ自分自身しかいない。でも、人はそんなに強くないから、誰かの後押しが必要だ。
今回なら、舞やすどーP、そしてユイの言葉が俺を支えてくれた。きっと、学生の頃の俺に足りなかったのは、自分を信じて良いんだという誰かの後押しだったんじゃないかと思う。
明日から俺はまた、ただの高校教師に戻る。
俺に、夢の後押しは出来るだろうか。
所詮、俺は高校教師になるための進路しか知らない。そんな俺に何が出来るだろう。かつてはそんな疑問も抱いた。だが、そんなことはどうでもいい。
生徒にとって本当に必要なのは、他人が通った道の正しい進み方じゃない。たとえ前が見えなくとも、自分の決めた道を歩く勇気なんじゃないだろうか。
ふと、ある生徒のことを思い出す。
榛原瑞希、彼女もあと一歩が踏み出せないのだろうか。俺の言葉で、その一歩は踏み出せるのだろうか。
何かが変わるかは分からない。でもユイなら、藤多柚衣なら、榛原の夢をきっと応援する。
「葛城省吾様」
声の方を見ると、廊下の向こうから、看護師の女性が一人、早歩きでこちらに向かってきた。俺は立ち上がる。
「ユイは、妹は?」
看護師が近くへ来る前に、俺は手術結果を聞く。
すると彼女は微笑んで「手術は成功ですよ」と答えてくれた。
「良かった……本当に、ありがとうございました」
俺は、彼女に深く深く頭を下げた。